第2話
とある平日の朝。
会社に出勤をするために家を出た隆は、駅のホームで電車を待っていた。
周りには隆と同じように眠そうな顔をしたサラリーマンやOL達が列を作って電車を待っている。
しかし、到着予定時刻を過ぎても電車は中々現れず、ホーム内がザワつき始めた。
その時、隆のスマホが着信を報せ、隆は列を離れて電話に出る。
「もしもし」
「横山さん! ダークネスカンパニーの怪人が出現しました! 地図を送りますから、至急現場に向かって下さい!」
電話の相手はダークネスカンパニーと戦う組織『Jガーディアンズ』のオペレーターである加藤であった。
「ま、待ってくれ。今朝は大事な会議が……」
「それどころじゃないでしょう!? 日本の平和と会議のどちらが大事なんですか!?」
「……わかった! すぐに行く!」
隆が電話を切ると、駅のホームにアナウンスが入る。
『えー、皆様、大変お待たせして申し訳ありません。ダークネスカンパニーの出現により、現在全ての路線で遅延が発生しており————』
それを聞いたホームの人々はうんざりとした表情を浮かべ、文句を言い始める。
「またかよ! 今月二回目だぞ!」
「遅刻しちゃうわ……」
「Mr.サンシャインは何やってんだよ!」
そんな声を聞きつつ駅を出た隆は、路地裏に入ると空に向かって手をかざす。
そして大きな声で叫んだ。
「チェンジ! サンシャイン!」
すると隆の全身が輝き、光が収まった時にそこにいたのは、正義のヒーロー『Mr.サンシャイン』であった。
家族にも言えぬ隆の秘密、それは、隆がMr.サンシャインであるという事だ。
サンシャインとなった隆は路地裏を飛び出して現場へと向かい、怒りを込めて怪人をボコボコにしたのであった。
☆
その日の仕事が終わり、退勤した隆が向かったのは一軒の漫画喫茶であった。
受付を済ませた隆が個室に入ると、床がエレベーターのように下方へと動きだす。
そして床が止まると、隆は個室の扉を開いた。
そこには研究所のような施設が広がっており、それはJガーディアンズの秘密基地であった。
「横山さん、お疲れ様です」
隆に声を掛けてきたのは、今朝隆に怪人の出現を報せた加藤である。
「あぁ、加藤さんお疲れ様。いやー、今日も疲れたよ」
「朝から大変でしたね」
「おかげで遅刻して部長には怒られるし、足腰は痛いし……。誰かサンシャインを代わってくれないかなぁ」
「無理ですよ。太陽細胞に適応できる人は横山さんしかいないんですから」
二年前、ダークネスカンパニーが出現するようになってすぐの頃に、隆はスカウトされてJガーディアンズに入った。
隆がJガーディアンズにスカウトされた理由は、Mr.サンシャインに変身するための太陽細胞に適応できる人間が他にいなかったからである。
「普通ヒーローってのはもっと若い者がやるべきじゃないかな」
「そんな事言っても仕方ないじゃないですか。せめて我々がダークネスカンパニーの本拠地を突き止めるまでは頑張って下さいよ」
「しかしねぇ、サラリーマンとヒーローと父親という一人三役は中々しんどいよ」
隆は父親というワードから先日美空に言われた事を思い出し、また気分が落ち込む。
そんな隆に、加藤は優しく声を掛ける。
「何かあったんですか?」
「最近家で冷遇されていてね……。特に娘に」
「確か中学生でしたっけ? そんなもんですよ、年頃の女の子は」
「加藤さんもそんな時期があったのかい?」
「えぇ、父親が苦手というか、おっさん全体が嫌いでしたね」
現役のおっさんである隆はそれを聞いて更に落ち込む。
すると加藤は突然、隆の手に触れてきた。
「でもぉ、今は横山さんみたいなおじさんが好きなんですよ。良かったら今夜飲みに行きませんか?」
加藤の甘い声とすべすべした指の感触に隆は鼻の下を伸ばすが、家庭の事を思い出して慌てて手を離した。
加藤は以前からこうして、隆にモーションをかけてきているのだ。
「か、からかうのはやめてくれ! 俺には愛する妻がいるんだからね!」
「でも最近ご無沙汰でしょう?」
「な、なんで知ってるんだ!?」
「あ、やっぱり図星なんだ」
隆は加藤に完全に翻弄されていた。
するとそこに、Jガーディアンズの司令官である畑中が現れた。
「横山君。いや、Mr.サンシャイン。仕事終わりに呼び出してすまない」
「いえ、お疲れ様です」
隆が基地にやってきたのは、畑中にメールで呼び出されたからであった。
「最近どうだね、こっちの方は?」
そう言って畑中はゴルフクラブを振るうジェスチャーをする。
畑中は一見ただの気のいいナイスミドルであり、とても正義の組織のボスには見えない。
「いやぁ、怪人共のせいでサッパリですね」
「だろうねぇ、私もだよ。ところで、わざわざ君を呼び出した理由だが……」
畑中は手にしたファイルをパラパラと捲る。
「極力君の耳には入れたくなかったのだが、最近サンシャインに対する苦情が多くてね……」
「苦情!?」
時間と身の安全を犠牲にして怪人達と戦っている隆には、賞賛される覚えはあれど、苦情を言われる覚えはなかった。
「現場への到着が遅いとか、戦闘時に物を壊すとか、メディアでのイメージも徐々に悪くなってきているんだ。酷だとは思うがもう少しどうにかならないかね?」
「そんな事言われても、私は危険を冒して怪人と戦っているんですよ!?」
「まぁ……それは重々承知しているんだが、民衆を敵に回すと我々もやっていけなくなるからね。もう少し配慮を頼むよ。じゃあ、取り敢えず伝える事は伝えたよ」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」
隆が引き留めるのも聞かず、畑中は逃げるようにその場を去っていった。
「はぁ……多少の褒賞が出ているとはいえ、これじゃあ何のために戦っているのかわからないな……」
「ストレス発散なら、私がお付き合いしますよ?」
隆は熱い視線を送る加藤の目を見つめ返す。
「鼻毛、出てるよ」
「やんっ」
隆は真面目な男だった。
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