第14話 諜報員は、重宝するものです

●大型爆撃機を台湾領空に接近させる中酷人民解放軍


 新型コロナウイルスの流行で台湾は、WHO加盟国ではないものの、リアルタイムの情報を入手できるようオンラインを通じて会合への参加を認められた。しかし、台湾は、世界から中酷の一部とみなされ、航空便がキャンセルされるなど大きな経済的な打撃を受けていた。この最中、中酷人民解放軍の戦闘機は、台湾領空への接近を繰り返しているため、再選を果たしたばかりの蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は「軍事的に国を脅かすより、武漢ウイルスと闘え。大型爆撃機H6では新型コロナウイルスと闘えない」と反発した。

 貿易赤字を減らすため中酷に貿易戦争を仕掛けたカード米政権は、新型コロナウイルス対策を進めるため米疾病予防管理センター(CDC)や1億ドルの支援を提案。 

 テドロス氏の出身国エチオピアへ一番多く直接投資している国は中酷で、昨年全体の約6割を占めていた。周近併が国家主席に就任してから劇的に国連への拠出金も増やした。エチオピアだけでなく国連機関も中酷の影響力には抗えなくなってきているのが現実だ。


 2019年12月1日、感染源とみられる華南水産卸売市場(武漢市)に出入りしていない肺炎患者を武漢市金銀潭医院が発見していた。(2020年1月24日に同病院胸部外科の首席医師が医学誌ランセットで発表)

 12月8日、武漢市が新型肺炎患者を報告。12月下旬、武漢市内の複数の病院に連日、発熱などを訴える市民数百人が詰めかけた。12月30日、武漢市衛生健康委員会が2つの文書で新型肺炎患者が華南水産卸売市場で見つかったため、医療施設は、リアルタイムで患者数を把握して治療に当たり報告するように指示を出した。

 李文亮医師がメッセンジャーアプリのウィーチャット・グループで同級生の医師ら約150人と患者の診断報告書を共有し、「華南水産卸売市場で7人のSARS患者を確認」と発信して、治療に当たる際、注意するよう呼びかける。後にそれが、新型コロナウイルス肺炎と判明する。31日、武漢市衛生健康委員会は「27人が原因不明のウイルス性肺炎にかかり、うち7人が重症。しかし、人から人への感染はまだ見つかっていない」と発表した。

 中酷が、WHOに武漢市で新型肺炎が発生していることを報告。2020年1月1日、華南水産卸売市場を閉鎖。2日に清掃や消毒を実施。武漢市公安当局が「ネット上に事実でない情報を公表した」として李文亮医師ら8人を処罰したと発表した。


 ムハメドは、時系列でまとめてみた。


 1月5日、中酷当局がSARS再流行の可能性を否定。

 1月6~10日、武漢市人民代表大会。

 1月7日、WHOによると、中酷当局が新型ウイルスを検出。新型コロナウイルス(2019-nCoV)と名付けられる。

 1月9日、中国疾病予防管理センター(CDC)が新型コロナウイルスの全ゲノム配列決定を公表。中酷国営中央テレビ(CCTV)が武漢市で新型コロナウイルスが確認されたと報告。

 1月11日、中酷当局は初の死者(61)を発表。華南水産卸売市場で買い物をしていた男性で、1月9日に死亡。

 1月11~17日、湖北省で人民代表大会

 1月13日、WHOがタイで女性の感染者を報告。中酷国外では初の感染者で、武漢市からやって来た。

 1月14日、WHOが記者会見で、武漢市で新型コロナウイルスが検出されたと認定

 1月15日、日本で武漢市滞在歴がある肺炎患者から新型コロナウイルスを確認。日本国内1例目。6日に受診した際の報告だった。

 1月16日、武漢市で2人目の死者

 1月17日、アメリカの3つの空港で武漢市から到着した乗客のスクリーニングを開始

 1月18日、伝統行事「万家宴」が開かれる

 1月19日、SARSが流行した当時、広東省で広州市呼吸器疾病研究所の所長を務めていた鐘南山氏(83)が新型コロナウイルス専門家チームのリーダーになり、武漢市金銀潭医院を訪れる。武漢市疾病予防管理センター(CDC)も状況を把握し、国家衛生健康委員会が緊急会合

 1月20日、鐘南山氏が「現在の統計によると、新型コロナウイルス肺炎は確実に人から人に感染している」とし、初めて新型コロナウイルス肺炎の深刻さに気付く。


・中酷で3人目の死者

 1月22日、WHOが新型コロナウイルス肺炎の流行で初の緊急委員会「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」との結論には至らず。委員間で意見が対立。

 1月23日、1100万人都市の武漢市を閉鎖。中酷当局が中酷で最も大切な祝日、春節(旧正月)の関連イベントを中止させる。


・WHOが、中酷国外では人から人への感染を認める証拠がないと発表。

 1月24日、中酷が武漢市で1000床の臨時病院の建設開始。

 1月25日、湖北省で集団隔離された都市の人口は合わせて5600万人に。

 1月26日、WHOが新型コロナウイルスのリスクを「高い」と変更。

 1月28日、周近併とWHOのテドロス氏が北京で会談。

 1月30日、WHOが、緊急事態宣言。

 2月1日、李文亮医師が、ミニブログサイト新浪微博で新型コロナウイルス肺炎と診断されたことを明らかにする。

 2月2日、フィリピンで死者。武漢市から来た男性で、中酷国外では初。

 2月4日、人民日報が「中酷共産党政治局常務委員会が3日の会議で明らかになった欠点や不足への対処能力を高めることを確認した」と伝える。

 2月7日、李文亮医師が死去

 2月11日、テドロス事務局長が、新型コロナウイルスの病名を「Covid-19」と公式に命名。一方、国際ウイルス分類委員会コロナウイルス研究グループは新型コロナウイルスそのものについて、SARSの姉妹種「SARS-CoV-2」と名付ける。

 2月13日、中酷共産党が湖北省と武漢市のトップを更迭。

 2月14日、中酷国家衛生健康委員会が国内で1716人の医療従事者が感染し、6人が死亡していることを発表。


というものだ。勿論、ムハメドは鵜呑みにはしない。記事の収集に悪意が、またはエドワードの意思が働いたかも、とも疑った。しかし、時系列で検証し、中酷が行った事を照らし合わせると、その醜さが浮き彫りになった。ムハメドは、中酷が他国に対する反論、反応の記者会見にも注目した。どれもこれも、自己弁護か相手への中傷、脅し、制裁しかなかった。これは、羊の皮を被ったコブラと付き合うようなものだと、感じずにはいられなかった。


 いつものようにエドワードが日課を消化しに来た。見た目にいつもより、にこやかな雰囲気だった。


 「どうしたんだ、何かいいことでもあったか?ご機嫌そうだが」

 「ああ、ご機嫌だ。いいことがあった」

 「なんだ」

 「おめでとう、明日にでもここを出られる」

 「本当か」

 「嘘などつく必要があるのか?」

 「いや…。やっとここを出られるのか、そうか、アルティアは?」

 「もう、退院して本人の希望で早速、新たな任務に就いている」

 「そうか」

 「残念だったな、御馳走にありつけずに」

 「俺にはまだ早いみたいだ。刺激が強すぎるかもな」

 「強がりを言うな。まぁ、いい。それでこれからどうする。海外への渡航は当分ままならないぞ」

 「どうするものか、正直、悩んでいる」

 「どう、したい」

 「出来るならば、ジャーナリストになりたいね。中共についてもっと調べたくなった。自分の意志で、調べたいんだ」

 「うん、それはいいかもな。それなら協力できるかも知れないぞ」

 「それは、助かる」

 「じゃ、その門出に君の国に君の死亡を知らせないとな」

 「そうだな、それが一番簡単な方法だ」

 「じゃ、ウイルスを送った宛名を利用しよう」

 「どうするんだ?」

 「君はウイルス感染で死亡。それを遺品整理した者がこの宛名を見つけ、第三者の善意者として、君の死亡を知らせるんだ」

 「分かった、俺がその第三者に成りすまして手紙を書けばいいんだな」

 「ああ、ポストにはアメリカから投函するから、その第三者がアメリカにいても可笑しくない様にな」

 「わかった」

 「じゃ、新しい身分、戸籍が必要だな。それはこちらで用意しよう。その為には、アメリカに尽くしてもらわなければならない。得た情報をアメリカに渡す。それでどうだ。まぁ、君の情報によってはまた、諜報員のような真似をしてもらわなければならないだろうが、それ位はいいだろう。それを了解してもらえれば、報酬も活動費もでる機関に属してもらう。ただ、基本的には自由に活動してもらう、それでいいか」

 「OK。それ位はしないとな」

 「分かってもらえて嬉しいよ」

 「これからは、友人だ、エドワード」

 「ムハメド、いや、これからはなんて名乗るんだ。手続きにも必要だぜ」

 「そうだな…。そうだ、ジェームス・スミスってどうだ」

 「007か。まぁ、いい。じゃ、これからはジェームスだな」

 「ああ、Mのエドワード」

 「Mか、秘密兵器は何も与えられないけどな」

 「いいさ、これで十分だよ」

 「そうか、早速、手続きに入るよ。ちょっと時間は掛かるが、もう少し、ここで我慢してくれ、立ち入り禁止区域以外は自由に出歩けばいい。その日が来るまで」

 「Thank you」

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ウイルスとスパイ 龍玄 @amuro117ryugen

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