第4話 黄の悩める知性の魔石
アルドは、オーガ族との戦いの勝利と感謝を伝えるため、煉獄界に来ていた。しかし、その目的を忘れてしまうくらい、アルドは精霊たちの心残りなことや悩み、そして、願いを聞いてまわっていた。そして、アルドは、最後である地精霊ノームに逢うため、地精霊の磐座の最奥部に来ていた。
「やあ ノーム。」
「む……。おお 久しいな 小さき者よ。今日は 儂に何用だ?」
「ああ。今日は 悩みを聞きに…… じゃなくて お礼と報告に来たんだ。」
「お礼……? さしあたって 心当たりはないが……」
「この前 お前と戦って 武器とかくれただろ? それで その後 オーガ族との戦いに勝ったんだ。だからその報告と 感謝を伝えようと思って。本当にありがとう。」
「あまり はっきりとは覚えておらんが そんなこともあったな。礼にはおよばん。」
「それで そのついでに 精霊たちの心残りなこととか 悩みとか お願いとか聞いてるんだけど ノームは何かあるか?」
「さしあたって 心当たりはないが……。そうだな……。」
ノームは、しばらく考えた後、言った。
「それならば 一つ頼まれてくれるか?」
「ああ。何でも言ってくれ!」
「小さき者は 知っているとは思うが 遠い未来では 小さき者たちは汚染された大地を捨て 空へ住むようになったと聞いている。」
「ああ そうだよ。」
「地の精霊たる儂からすれば 誠に遺憾だが 今はよい。ただ 地を捨てた小さき者たちは 儂のことを忘れてはいないか それが気にかかっているのだ。」
「なるほど。確かに エルジオンは地面って感じじゃないもんな。」
「遠い未来の小さき者たちは 儂を知っているのか 聞いてきてはもらえるか?」
「ああ わかった! じゃあ 行ってくるよ。」
「すまんな。」
こうして、アルドは、未来の世界でノームについて聞くため、エルジオンへと向かった。
>>>
エルジオンにやって来たアルド。
「さてと じゃあ とりあえず 手当たり次第に聞いてみるか。」
アルドは、近くにいたおやじさんに聞いた。
「なあ ちょっといいか。」
「うん? なんだ?」
「あんた 四大精霊って知ってるか?」
「ああ 確か 地上にいた時に 人間が信仰してたんだっけか。」
「おっ 知ってるのか! それじゃあ 四大精霊を全部言えるか?」
「いや そこまでは知らないな。」
「わかったよ。ありがとう。」
そういって、アルドはそのおやじさんと別れた。
「……一応 他にも聞いてみるか。」
アルドは、何人かに聞いてみることにした。
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次にアルドが、声をかけたのはお婆さんだった。
「なあ ちょっといいか。」
「おや 私に何か用かい?」
「ああ。あんた 四大精霊って知ってるか?」
「ああ もちろんだとも。」
「本当か? じゃあ 四大精霊を全部言えるか?」
「当たり前じゃ。サラマンダー オンディーヌ シルフ そして 何といっても ノーム様じゃ。」
「ノーム様……? 何で ノームだけ様なんだ?」
「それは 昔 私がノーム様の妻だったからじゃよ。」
「……!」
「まあ そうはいっても 村の習わしなだけなんだけどねぇ。」
「もしかして グノーかケルルの……?」
「よく知ってるねぇ。私はグノーの出身なんだよ。」
「そうだったのか!」
「私のご先祖様なんかは よくノーム様にお願いをしに行ったものだよ。」
「あのことか……。」
「……?」
「あ いや いいんだ。ありがとう!」
アルドはそういって、お婆さんと別れた。
「もう少し話を聞いてみるか。」
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アルドは今度は青年に話を聞いた。
「なあ ちょっといいか?」
「なんだい?」
「あんた 四大精霊って知ってるか?」
「四大精霊……? もしかして 君 四大精霊持ってるのか!?」
「持ってるってどういうことだ?」
「何言ってるんだ! 四大精霊って 今はやりのカードゲーム「アストラルカード」の超レアカードじゃないか!」
「か カードゲーム? ……そういえば 前にラディカと一緒にエルジオンに来た時に子どもたちが言ってたな。」
「なあ! そのカードいらないんだったら 俺に譲ってくれよ!」
「いや だから持ってないって!」
「ちぇっ まあいいけど。それじゃあ 俺 もう行くから。」
「あ ああ。ありがとう。」
青年が去った後、アルドは言った。
「さて オレも帰るか。」
そういって、アルドは煉獄界のノームの所へ戻った。
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「……戻ったか 小さき者よ。」
「ああ。色々聞いてきたよ。」
「そうか。して どうだった?」
「ああ。お年寄りの人は この前のノームの妻だって人と同じで そういう習わしの村の出身の人が 知ってたよ。でも それよりも若い人は 四大精霊っていう言葉しか知らないみたいだ。」
「やはり 存在は忘れられているのか……。」
「だけど 若い人たちは カードゲームで知ってたよ。」
「かーどげーむ? 何者だ それは。」
「絵の描いた札で戦う遊びらしいんだけど その絵柄にノーム達四大精霊のものがあるだしいんだ。」
「む……。儂には よくわからんが 若者も知っておるということだな?」
「ああ。そういうことだな。」
「ふむ。礼を言うぞ 小さき者よ。」
「ああ。他には何かあるか?」
「うむ。そういえば 先ほど 儂の妻だという者の話があったが 先日 儂の妻が来ていたであろう?」
「ああ。確か 土地が痩せてるから助けてほしいとか 言ってたな。」
「そうだ。だが あれ以来 その妻を見なくなってな……。」
「まあ それは……。」
「そこでだ 小さき者よ。」
「な なんだ?」
「先日来た者ではなくても構わぬ。儂の妻という者にもう一度 逢わせてはもらえんか?」
「ノームの妻を……?」
「頼まれてはくれぬか 小さき者よ。」
「でも 知り合いに ノームの妻なんて…… あっ そうだ!」
「いかがした。」
「ノームの妻を連れてきたらいいんだな?」
「うむ。」
「わかった! じゃあ さっそく 行こう! たぶんケルリの道にいるはずだ!」
そういって、アルドは、とある人に逢うため、ケルリの道へと向かった。
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アルドはケルリの道の中央部までやって来た。
「確か ここら辺に…… あっ!」
アルドは目的の人物を見つけると、声をかけた。
「おーい トゥーヴァ!」
「あら アルドじゃない。どうしたの?」
「実は トゥーヴァに頼みたいことがあって。」
「何かしら……。」
アルドは、トゥーヴァに事情を説明した。
「……つまり 私はノームの妻になれば いいってことかしら?」
「ああ すまないけど いいかな?」
「この前のご老人の時みたいにしたら いいのよね?」
「まあ 天に還す必要はないぞ?」
「わかっているわ。いくら何でも 精霊にそんなことはしないわ。」
「それじゃあ 頼むよ。」
そうして、アルドはトゥーヴァと一緒に、煉獄界のノームの所へと向かった。
>>>
「む……。戻ってきたか 小さき者よ。して 連れてきてくれたか……?」
「ああ。」
「はじめまして。ノーム様の妻の トゥーヴァと申します。」
「お前が 儂の妻か? ……む?」
「どうしたんだ?」
「お前 現世の者か?」
「ええ そうですが。」
「そうか。お前からは 生と死の気が両方感じられるが。」
「……。」
「それで ノームは 妻に逢って どうするんだ?」
「聞きたいことがあるのだ。」
「何でしょう?」
「我が妻よ お前は儂のことをどう思っている。」
「もちろん この大地のように 雄大で寛容な あなた様を恋い慕っております。」
「そうか……。では そんなお前に聞きたい。」
「なんでしょうか?」
「少し前に 儂の妻だという者が何人か来たが 皆 儂の元を去ってしまったのだ。妻というのは 夫と共に添い遂げるものだと聞く。その者たちはなぜ 儂の元から去ったのだろうか。」
「そうですね……。」
トゥーヴァは、少し考えてから言った。
「この場は この世から消えてまもない者がいる所。生者が永く居座るべきではないのでしょう。」
「む……。」
「それに 添い遂げるものだということですが なにもその場にいることだけが 添い遂げるということではありません。」
「というと……?」
「真に添い遂げるとは 己の心が寄り添うことです。たとえ その場にいても 心が寄り添っていなければ それは添い遂げているとは言えないのです。」
「なるほど。では 儂の元から去ったあの者たちも 心は常に儂とともにあると……?」
「そういうことです。」
「確かに そう言われれば 何者かの想う気持ちが 伝わってきているぞ……!」
「えっ……?」
アルドは、ノームの変わりように思わず声が出てしまった。すると、ノームはアルドに言った。
「小さき者よ 儂をこの者に逢わせてくれたこと 礼を言おう。」
「いいんだ。」
「その方も 礼を言う。」
「はい。では 死霊たちが 騒がしくなってきましたので 私はこれで。」
「うむ。」
「ありがとう トゥーヴァ。」
「ええ。また何かあったら 声をかけてね。それじゃ。」
そういって、トゥーヴァはその場を去って行った。
「それで 何か他にはあるか ノーム?」
「うむ。そういえば 先ほどの者を見ていて思い出したことがあるのだ。」
「思い出したこと?」
「うむ。それに関わるものを お前に取って来てもらいたい。」
「まさか……」
アルドは早々に、この後何が起こるか察した。
「実は その昔 我々を熱心に信仰する 旅の女がおってな。近くを来た時は 必ず 顔を見せてくれておった。」
(やっぱりか……。)
アルドは、4回目になる話をなんとなく聞いていた。
「ことのほか 儂の所には よく来ていてな。様々な話を聞かせたものだ。そして 儂は その者の真なる思いの強さに免じて その者の持っていた 懐中時計に我が力を宿させたのだ。」
「今度は 懐中時計か……。」
「だが ある時 「まだ見ぬ世界へ旅をする」と言い残して 去ってしまった。その時 その懐中時計は持っていなかったのだ。」
「だから それを探してほしいってことか?」
「うむ。その通りだ。場所は分かっておる。」
「どこなんだ?」
「この大陸の北西にある コリンダの原にある。」
「そんなところに……。何か特殊な場所なのか?」
他の精霊の時に比べて、そこまで探し物のある場所に驚かなかったアルドは、そう聞いた。
「うむ。あの地は 我ら四大精霊の力を宿した精霊が数多くおる。その内の 風の精霊の住まう巣にあるようなのだ。誰かが近づけば すぐに精霊たちが すさまじい風を起こすだろう。」
「なるほど。でも そんなところだと オレ 飛ばされるんじゃ……?」
「それは案ずるな。以前 お前に 儂の力を授けたと思うが……」
「ああ 持ってるぞ。」
「ならば 心配はいらん。」
「そ そうなんだな? じゃあ とりあえず 行ってくるよ。」
こうして、アルドは、コリンダの原へと向かった。
>>>
アルドはコリンダの原の北西部にある岩壁を登り、さらに北西に行ったところに来ていた。
「あっ あれか?」
見ると、奥に何体もの風の精霊が辺りを飛んでいた。すると、どこからともなくノームの声が聞こえた。
「小さき者よ あの魔石は持っているか。」
「ああ。ここにあるぞ。」
「では それを手に持ったまま進むのだ。決して放すでないぞ。」
「わ わかったよ。」
アルドは言われた通り、手に魔石を握りしめながら、その巣に向かっていった。すると、早速気付いたのか、風の精霊がこちらを向くと、一斉に風を起こした。アルドは踏ん張っていたが、とうとう飛ばされそうになったその時、魔石が光り出したと思うと、まるで体が鉄でできているかのように重くなった。
「うわっ なんだこれ!?」
「それが儂の力だ。さあ 時計を見つけてくれ。」
「あ ああ。」
アルドは、ゆっくりと近づく。魔石が無ければ、おそらくゾル平原まで行きそうなほどの、風が吹き荒れていた。そして、ようやくアルドは巣に着くと、お目当ての懐中時計を見つけて、回収した。
「これだな。とったぞ。」
「うむ。ではそのまま戻ってこい。」
「ああ。でも いつもの流れだとおそらく……」
アルドの読み通り、風を起こしていた精霊のうちの2体が、こちらに向かってきた。
「やっぱり来たか!」
「うむ。小さき者よ その石を近くの地面に置くがいい。」
「こ こうか?」
アルドは言われるがままに置くと、あたり一帯にノームの力が働き、アルドと2体の風の精霊は、風の影響を受けなくなった。
「よし! これなら!」
アルドは、申し訳なさを感じつつ、剣を抜いた。
>>>
何とか倒したアルドは、すぐに魔石を回収すると、その場を離れた。
「はあ はあ。何とかなったか……。」
「うむ。では 戻ってくるのだ。」
アルドは、こうして、煉獄界のノームの所へと戻った。
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アルドはノームの元に来ると、懐中時計を見せた。
「これで あってるか?」
「うむ。まさしくこれだ。」
「ちなみにだが これって……。」
「うむ。小さき者よ お前にそれを託す。」
「やっぱりか……。」
「では その魔石を懐中時計に近づけるのだ。」
「ああ。」
アルドは、魔石を近づけると、懐中時計にはめ込んであった宝石の中に吸い込まれていった。その宝石は、陽に染まる雄大な大地の如く、黄色に光り 魔力を帯びていた。
「ありがとう ノーム。」
「うむ。礼を言うのはこちらの方だ。」
「いやいや いいんだよ。ところで 他にはもうないか?」
「うむ。もう大丈夫だ。」
「そうか。それじゃあ そろそろ 帰るよ。」
「何か我らの力が必要になることがあれば 来るといい。幻霊の身ゆえ できることは限られるが。」
「ああ。ありがとう。それじゃ。」
こうして、アルドはノームの元を去り、煉獄界にある魂の宿で少し休憩をした。
「さて そろそろ戻らないとな。それにしても……」
アルドは、今までのことを思い出して言った。
「なんでお礼を言うはずが こんなことになったんだ……?」
アルドは、経緯も分からないくらいに、あちこち駆け回っていた自分を振り返って言った。
「これじゃ 確かに お人よしといわれても仕方ないよな……。」
自分のお人よしと人たらし加減は、精霊にまで至るのかとアルドは呆れていた。
「さて そろそろ 旅に戻らないとな。」
そういって、アルドは煉獄界を後にした。アルドが去っていくとき、一人の女性がその後ろ姿を見ていた。そして、その女性は言った。
「あの装身具……。そうか。ちゃんと持つべき人の手に渡ったのだな……。」
その女性は、薄れゆく旅や四大精霊との記憶を思い出しながら、花吹雪の中を消えていくアルドの背中を見守っていたのだった。
人たらし担当官、煉獄界に立つ さだyeah @SADAyeah
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