第3話 翠の悩める好奇の羽

 アルドは、オーガ族との戦いの勝利と感謝を伝えるため、単身煉獄界へと来ていた。しかし、サラマンダーの提案から、報告がてら精霊がもつ心残りなことや悩みを聞くことになったのだった。そんなアルドは、風精霊の磐座を通り、最奥部にいるシルフの元に来た。


「やあ シルフ。」

「あら 人間の剣士さんじゃない! お久しぶりね! 今日はお一人なのね?」

「ああ。そうなんだよ。」

「少し残念だけど まあいいわ! それで 今日はどうしたのかしら? もしかして 踊ってくれるの?」

「いや 今日は 報告に来たんだ。」

「報告?」

「前に 力を貸してくれただろ? そのおかげで オーガ族との戦いに勝ったんだ。だから その報告と感謝を伝えに来たんだ。本当にありがとう。」

「喜んでくれたのなら嬉しいわ! でも まだ何か用がありそうね?」

「よくわかったな。実は 他の精霊に報告に来たついでに 心残りなこととか悩みとか聞いてるんだけど シルフは何かあるか? オレにできることなら解決するし。」


すると、シルフは考えることもなくはっきりと言った。


「悩みなんてないわ! それより 人間さんにお願いがあるの! それでもいいかしら?」

「べ 別にいいけど 何だ?」

「わたし 人間さんにとても興味があるの! だから 人間さんにしかない楽しいこと わたしに教えてくれない?」

「人間にしかない楽しいこと……!? ずいぶんと難しいな……。」


アルドは悩んだ末、何かひらめくとシルフに言った。


「わかったよ。人間にしかない楽しいことを持ってくればいいんだな?」

「ええ。楽しみにしているわ!」

「よし。それじゃあ チャロル平原に行ってみよう!」


こうして、アルドは早速ある人を探して、チャロル平原へと向かった。


>>>


 アルドは、チャロル平原の北東部に来ていた。


「たぶん このあたりに…… ……いた!」


アルドは、目的の人物に話しかけた。


「やあ ラディカ。」

「あら アルドじゃない。どうしたの?」

「ラディカに お願いがあってきたんだ。」

「何かしら……?」

「実は ちょっと占ってほしい人がいるんだ。」

「ええ。それは構わないわよ。」

「よかった! じゃあ ついてきてくれ!」


アルドは、そういってラディカを煉獄界へと連れて行った。しかし、ラディカはついていこうとして、立ち止まった。


「何か気になるわね……。ちょっと 占ってみようかしら。」


そういって、ラディカは自分の占い道具「アストラルカード」で占ってみた。


「これは……。なかなか厄介ごとに巻き込まれそうね……。」


>>>


 アルドは、ラディカと共にシルフの元に戻ってきた。


「あら 戻ってきたのね 人間の剣士さん! あっ それに そちらは ダークエルフさんの女の子かしら?」

「私のことかしら? そうよ。」

「ダークエルフさんなんて 久しぶりに見たわ! それで もしかして この子が人間さんにしかない楽しいことを してくれるの?」

「ああ。ラディカは 占いが得意なんだ!」

「ええ。何か言ってくれたら そのことについて視てみるわ。」

「人間は 自分を占ってもらうことが好きなんだよ。」

「未来が見えるってことね! それは楽しそうだわ! じゃあ 早速お願いしようかしら?」

「何を占ってもらうんだ?」

「じゃあ この後なにか楽しいことに出逢えるか占ってほしいわ!」

「わかったわ。」


そういって、ラディカは占い始めた。しばらくして、カードを取る。


「ふうん。なるほど。」

「結果はどうだったのかしら?」

「楽しいことはすぐにやってくるわ。でも その先に何か大切な物が見つかるようね。」

「大切な物ってなんだ?」

「そこまでは、わからないわ。」

「それより ダークエルフさん! じゃあ 今度は それを誰が持ってきてくれるのか 占ってちょうだい!」 

「わ わかったわよ。」


そして、先ほどと同様、占いを始め、やがてカードを取った。


「……あ。」

「どうかしたのか?」

「いや それが その人の特徴だけど 猫 剣 仲間 旅の男……。」

「それって……」

「ええ。まさしく アルドね。」

「やっぱりかっ!」

「やっぱり いつでも わたしと 踊っていたいのね!」

「……!」


シルフはとても楽しそうだ。しかし、ラディカは少し驚いていた。


「いや そんなわけないだろ!? ラディカからも なんか言ってくれよ!」

「……。しらないわ。」

「えっ?」

「困難を乗り越えてきたから 悪い結果にはならないでしょ?」

「いや ちょっと待ってくれ!」

「満足いただけたかしら シルフ?」

「ええ! とても楽しかったわ!」

「そう。じゃあ 私は帰るわ。2人で仲良く 踊ってなさい。2人で。」

「嘘だろ!? おい ラディカ!?」


そういって、アルドの制止もむなしく、ラディカは帰ってしまった。


「さあ それじゃあ 次のお願いよ! 人間の剣士さん!」

「あ ああ。なんだ?」

「人間さん 前に魔獣さんと一緒に来たでしょ?」

「ああ ギルドナのことか。」

「あの時 人間さんと魔獣さんは仲が悪いって聞いてたから 不思議だったの。」

「まあ 確かにそうかもな。」

「だから 今度は そんな普通じゃないことを 持ってきてちょうだい!」

「また 無茶な……。」

「よろしく頼むわよ! 人間さん!」

「……。わ わかったよ。そしたら…… そうだ! エルジオンだ!」


そういって、何とかひねり出したアルドは、エルジオンへと向かった。


>>>


 エルジオンのガンマ区画に着いたアルドは、北西部に来ていた。


「確かこの辺に…… あっ いたいた。」


そこにいたのは、紫色のロボット猫だった。


「シルフからしたら 普通じゃないよな。……でも どうやって連れて行ったらいいんだ?」


ロボット猫の呼び方がわからないアルドは悩んでいた。すると、ヴァルヲがそのロボット猫の元へと歩いていった。


「ヴァルヲ?」


すると、ヴァルヲはしばらく、ロボット猫と会話らしきことをして、やがてそのロボット猫を連れて戻ってきた。


「にゃー。」

「でかしたぞ ヴァルヲ! その調子で もう一匹も頼む!」


そういって、アルドは、シータ区画の西側へと向かった。


「あっ あれだ!」


そこにいたのは、黄色のロボット猫だった。


「ヴァルヲ 頼むぞ!」


飼い主に頼まれたヴァルヲは、先ほどと同様、ロボット猫と話らしきことをし、またまたそのロボット猫を連れてきた。


「さすがだ ヴァルヲ! じゃあ さっそく 煉獄界に行くぞ!」


アルドは、2匹のロボット猫を連れて、煉獄界のシルフの所へ向かった。


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 「シルフ!」

「あら 戻ってきたのね! それで 普通じゃないことは見つかったかしら?」

「ああ。これだ!」


アルドは、2匹のロボット猫を見せた。


「あら 猫さん?」

「よく見てくれ! 普通の猫じゃないんだ。」

「……? あっ よくみたら この子たち ツルツルしてて 目が光ってるわ! まるで キレイなお人形さんみたい!」


シルフの反応に、アルドは胸をなでおろした。


「さあ 一緒に遊びましょ?」


そういって、シルフは、ロボット猫の周りに 小さな風を起こした。すると、ロボット猫たちは、その風と戯れ始めた。さらに、面白そうだと思ったのか、ヴァルヲもそこに参加する。


「あら 人間の剣士さんの 猫さんまで! とてもかわいいし 普通じゃないわ!」

「これで いいか……?」

「ええ! もちろんよ!」


シルフは、しばらく猫たちと遊んだ後、アルドを呼んだ。


「人間の剣士さん そちらのツルツルの猫さんたち もう帰るそうよ?」

「そうなのか。じゃあ 返してくるよ。」

「うふふ。また 遊びましょうね?」

「にゃー!」


ヴァルヲもロボット猫も満足げだ。そして、アルドはその猫をエルジオンに返そうとした時、シルフが呼び止めた。


「そうだ 人間の剣士さん!」

「なんだ?」

「ついでに わたしの最後のお願い 聞いてもらえるかしら?」

「もちろんだよ。」

「ありがとう! それじゃ……」


すると、シルフは、少し寂し気な感じで話し始めた。


「随分と昔 わたしたち 四大精霊と仲良しの人間さんの女の子がいたの! 確か 人間の剣士さんと同じで 旅をしていたわ。でも よく一緒に踊ってくれたわ!」

「これって……」


アルドは、さすがにこの展開には見覚えがあると思ったが、もしかしたら違うかもしれないという思いで聞いていた。


「特に わたしには よく逢いに来てくれて いつも踊ってくれてたの! だから いつでも踊れるように その人間さんがはめていた指輪に 私の力を宿したの!」

「……。」


アルドは確実に先ほどまでと同じ流れだと悟った。


「でも ある時 「まだ見ぬ世界へ旅をする」っていって そのまま 二度と姿を見なかったわ。でも その時 その人間さん 指輪をしていなかったの。」

「……それで お願いっていうのは?」

「その指輪を 人間の剣士さんに 取ってきてほしいの!」

「やっぱりか……。それで どこにあるかわかってるのか?」

「ええ! それがあるのは…… ナダラ火山の 噴火口よ!」

「噴火口だって!? まさか あんな高くて危険な火山を登れっていうんじゃ……。」

「それなら大丈夫よ! 前に わたしの眷属が わたしの羽を渡したでしょ?」

「ああ。持ってるよ。」

「なら 大丈夫! よろしくね!」

「……。行ってくるよ。」


そういって、アルドはヴァシュー山岳へと向かった。


>>>


 ヴァシュー山岳のナダラ火山の入り口まで来たアルド。


「本当にこれを登るのか……?」


すると、どこからかシルフの声がした。


「さあ それじゃ 羽を出してくれる?」

「ああ。」


そういって、アルドは、もらった風精霊の羽を取り出して手に持った。


「そしたら そのまま行くわよ! あっ そうそう その羽を放しちゃったら 落ちちゃうから気を付けてね!」

「落ちる!? わ わかった!」


アルドは、背筋がゾッとしながらも、その羽を握りしめた。


「じゃあ 行くわよ! それ!」


すると、風が起こると共に、急に体が軽くなった。そうかと思うと、足がいつの間にか地面から浮いていた。


「う 浮いてる!」

「それじゃあ いくわよ!」


そして、その風は強くなり、一気にナダラ火山の火口部まで、飛んでいった。


「オレ 飛んでるのか……?」

「あっ そうそう。下は見ちゃダメよ。」

「えっ?」


アルドは、シルフが言うより一歩早く、下を見てしまった。


「うわっ!!!」


アルドは、驚きで思わず羽を落としそうになった。それもそのはず、先ほどいたヴァシュー山岳がかすんで見え、ラトルの村は手でつまめるくらい小さく見える高さまで、来ていたからだ。


「よく 落とさなかったわね!」

「ああ 危なかったよ……。」

「さて それで 指輪は見つかりそうかしら?」

「飛んだといっても ここからだと さすがに…… うん?」


アルドは火口付近に緑色に光るものを見つけた。


「もしかして あれか……?」

「見つかったのね? そしたら 少し前のめりになれば 火口に近づけるわ!」

「こ こうだな……?」


アルドは、ふらふらしながらも、何とか近づくと、緑色の光の正体は思った通り、指輪だった。アルドはさっそく回収する。しかし、この時アルドは、うっすらと不安を感じていた。


「さあ それじゃ 戻ってきて!」

「……! またか!」


すると、2体のヒクイドリが、こちらに向かってきていた。


「こんな時に……! でもここで剣を振ると 羽が……!」

「わたしに まかせて!」


すると、羽がひとりでに浮き、さらに強い風を生み、空を歩いているような状態になった。


「よし これなら……!」

「この状態 あまり持たないから 早く倒しちゃってね!」

「ああ!」


アルドは、そうして剣を構えた。


>>>


 言われた通り、さっさと倒したアルドは羽を回収すると、シルフは言った。


「じゃあ おろすわね!」


すると、徐々に風は弱まり、少し経った時には、もう陸地についていた。


「さて それじゃ シルフの所へ戻ろう!」


アルドは、再び煉獄界のシルフの所へと戻っていった。


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 「人間の剣士さん! 指輪は見つかったかしら?」

「ああ。これであってるか?」

「ええ! それよ それ!」

「じゃあ これ シルフに……」

「いや これは あなたにあげるわ!」

「いいのか? 大事なものなんだろ?」

「それを持ってたら いつでも あなたと踊れるでしょ?」

「そ そういうことか……。」


アルドは、少し呆れてはいたが、シルフの言葉に甘えてもらうことにした。


「じゃあ そうさせてもらうよ。それで 他には何かないか?」

「ええ! 本当は踊りたいところだけど わたし 疲れちゃったわ。」

「まあ 確かに すごい風だったもんな……。」

「それじゃ わたしの羽を その指輪に近づけてくれる?」

「こうだな?」


言われたとおり、羽を持っていくと、羽は指輪にはめられていた宝石の中に吸い込まれていった。その宝石は、好奇心のままに踊る緑風の如く翠に光り、魔力を帯びていた。


「ありがとう シルフ。」

「ええ。大切にしてね 人間の剣士さん!」

「ああ。それじゃ オレはこれで。」

「今度は一緒に 踊りましょうね? あと ノームによろしく言っておいてね!」

「ああ わかったよ。」


そして、アルドは、シルフの元を去った。


「さてと 次で最後だな。それじゃ ノームのところに行こう!」


こうして、アルドは、ノームのいる地精霊の磐座へと向かうのだった。

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