●REC:ただいま島の全容を撮影中

ちびまるフォイ

この島には非常に危険な動物がいます

「こ、ここは……」


海岸で目を覚ますと片手にはハンディカメラがくっつけられていた。

カメラを操作すると1つの動画がすでに撮影されていた。


『あなたは今、とある離島にいます。

 このカメラで島の全体を撮影することができれば

 ヘリコプターがあなたを迎えに来るでしょう』


その後も細かい説明は延々と続いた。

カメラは自分の体の生体電気を取っているのd充電不要だとか、

島の地図はカメラに入っているだとか。


でも、内容なんて頭に入っちゃいなかった。


「この島をくまなく撮影するまで、脱出できないのかよ……」


持っていきたいものを選んだ記憶もないまま、サバイバル生活が始められた。

不幸中の幸いと言えるのかはわからないが、動画編集などもかじったことがあるのでカメラの操作に困ることはなかった。


録画を開始して島のはじっこから歩きはじめる。


「こんな退屈な映像……いったいなんのために……」


ぶつくさいいながら歩いていると、島の草陰からガサッと物音がした。

「うわぁ」と情けない声を出したうえ、しっかりと録画もされてしまった。


草陰から出てきたのは小さなウサギだった。


「な、なんだよ……驚かせやがって……」


最初の説明動画の中では、島に危険な動物もいると話していた。

どうしてこんな撮影に危険をともなわなくちゃいけないのか。


「はぁっ……はぁっ……もう……限界だ……」


カメラを回しながら歩き続けること数時間。

体は限界を迎えて、島の中で休憩することに。


「今どれくらい撮れたんだろう」


地図で確認すると待っていたのは絶望だった。

体感的にはかなり撮影できたと思ったのに、実際にはまだまだ島の未撮影エリアが残っている。


そのうえ、途中で録画停止ボタンを押してしまったのか撮影動画は途切れていた。

またさっきの道のりを撮影し直さないと島からは出られない。


「あーーもう!! なんなんだよ!!」


苛立ちまぎれに手にくっついているカメラを地面にぶつけて壊そうとしたが、

ギリギリのところで「壊せば脱出できなくなる」と理性がブレーキをかけた。


徒労感にうなだれていると、ふと先の方にカメラが転がっているのを見つけた。

自分の手にくっついているものと同じものだった。


「……あれは?」


カメラを拾って撮影されている動画を再生する。

自分と同じように島の全体を撮影しようと歩いている映像が残っていた。


「かわいそうに。この島にいる危険な動物から撮影中に襲われたんだろうな」


自分以外にも撮影サバイバルを強いられている人間がいるということがわかり、無人島じゃない安心感を得た反面。

いつ自分も危険な動物に襲われるかわからない恐怖を感じた。


「よし、行くか……」


残されたカメラの遺品を元の場所に置こうとしたとき、その手が止まった。


「……そういえば、さっきの映像。俺がこれまで通ってきてない道が映ってたな」


もう一度、カメラの動画を確認する。

残された映像にはまだ自分が踏み込めていないエリアの撮影ができていた。


このままバカ広い島を歩き回って素直に撮影を続けても体力が持つかどうか。

その道中で猛獣に襲われる危険だってある。


「ようは、島の全容を撮影した動画があればいいんだろう……ならこれで、と」


自分のカメラと残されたカメラで記録されている映像を編集と合成をして、1つの映像に整えた。

これでまだ自分が撮影していない場所も撮影したことになる。


「やった! これで大幅ショートカットだ!」


思わぬ収穫に心躍らせ、さっきまでの疲れは吹っ飛んでしまった。

他にも撮影者がいるかもしれないと、島を歩きながら大声で呼びかけつつ撮影を続けた。


他の撮影者もまさか自分以外の人間がいると思っていないのか、

声に引き寄せられるようにこちらへ合流した。


「驚いた。人の声がすると思ったら、私の他にも同じ目に遭っている人がいるなんて……」


「ああ。さっき別の人と合流できて、もしかしたら他の人もいるかもと思って声をあげてたんだ」


「そうだったのか……それで、合流した人はどこに?」


撮影者が油断したとき、持っていた棒で後頭部を一撃。

うずくまったところに容赦なく殴打を続けた。

不思議と罪悪感とかそういうものはなかった。


「かわいそうに……この島の猛獣に殺されたんだな……」


そういうことにして、手にくっついてあるカメラを強引に引きちぎる。

これまでの撮影データを確かめて、まだ自分が訪れていない場所があれば切り取ってくっつける。


また一歩、島からの脱出が近づいてきた。


「よーーし、この調子でどんどん進んでいこう!」


この方法が非常に効率的だとわかってからは、自分でわざわざ撮影するよりも他の撮影者が行きそうな場所を地図で確認しては遅いにいった。

パズルのピースが揃うように島の全容動画が集まっていく。


「あとはあの海岸だけだ!」


何人もの撮影者を島のこやしに変えたことで、島の全容を撮影した一本の動画は完成あとわずか。

残りは録画ボタンを押し忘れていた海岸だけだった。


録画ボタンを押して海岸へと歩いていく。

見覚えのある風景がカメラのレンズに映りこんだとき、ピコンとカメラから音が鳴った。


「……なんだ? また撮影失敗したのか?」


カメラを確認すると、自分が撮影していない動画が1本追加されている。再生ボタンを押した。



『このカメラに島の全容データが入ったのを確認しました。

 脱出用のヘリが島に向かっています。お疲れさまでした』



どこからかヘリコプターが近づく音が聞こえてくる。


「ああ、助かった……」


実は撮影するだけ撮影して、島に取り残されるんじゃないかと不安に思っていた。

ヘリコプターが海岸に到着したとき、安心感に包まれていた。


自分が乗り込むとヘリはすぐに離陸して島を後にしていった。


ヘリのパイロットは操縦しながら、少し興奮気味に話しかけてきた。


「驚きましたよ、あの島の全体を撮影できるなんて。

 私、長く島への撮影者の送迎していますが島から帰ってこれたのはあなたが初めてです」


「そうなんですか。いや、もうホント疲れました……」


「あの島には危険な動物がいるとも聞いていますよ」


「そうですね、そりゃもう人間を襲う危険な猛獣がいましたよ」


他の撮影者には自分がどう見えたのかはわからない。

きっと本当に危険な猛獣はわかりやすく危ない見た目をしてないんだろうなと思った。


なんとなく、ヘリから遠ざかる島を眺めていると、島に向かって飛んでいく飛行機が見えた。


「あの飛行機は?」


「島に行く人を乗せてるんですよ。最近は結構人気ですかね」


「……さっき、あなたが撮影者をヘリで送迎していると言ってませんでした?」


「ええそうですよ。すべての撮影者は私が島に送っています」


「だったらあの飛行機には誰が乗っているんですか?」


パイロットは前を向いたまま答えた。




「あの飛行機には、撮影者のカメラから隠れる役の人がたくさん乗ってるんですよ。最近人気のかくれんぼゲームなんです」


気のせいか、島からは無数の目がこちらを見ている気がしてならなかった。

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