第4話

世界は崩壊した。

が、国家機密は国家機密なのだ。


 名前は伏せさせて頂こう。

 蔵人所を含むこの建物一帯は、「明かされない記録」「隠された秘密」を保存するための、国内随一の情報保管庫となった。


 理由としては、この敷地全体に、さらに敷地外までにも『結界』が貼ってあるからだ。

 どのような理由で結界の効果が、ウイルスやそれに応じて生まれた化物に対して効いているのかは判明していないが、ともかくここが、今現在この国で1番安全な場所となっている。


 まるで、そうであることが当たり前かのように。

 この辺りは平穏が歌を潜めていた。


 ...まあ、このような余談は止そう。


 ということで国家機密。

 捌緋は、蔵人所に行き着くまでの少々長い道を知らない。

 それは、捌緋が『目を瞑っている』からだ。


 捌緋のもつ蛇としての神通力...

 主に八つあるのだが、そのどの能力に関しても、発動条件は『目を開く』ことだ。


 捌緋の体には、顔に二つ、その他六つの目がある。顔の目以外は目としての主なはたらきを持たない。

 それぞれの目を開閉することで、能力を使用することが出来る。

 少し複雑だが、慣れてしまえば楽なもの。


 顔の目の能力は【瞬きをしない】と【蛇を移動させることが出来る】の二種類だ。

 もっとカッコイイ名前をつけてくれると言った物語は、もう何年も引き伸ばしている。


 そして都合がいいんだか悪いんだか、捌緋が両目を能力を《塞ぐ》という意味で瞑ると、全身の感覚が完全に遮断される。

 道を曲がった感覚を覚えることも、車輪から鳴る音が変わったことさえ気づかない。

 この理由は解っていないのだが、とりあえずこの自分の特性を相手に理解して貰った上で、捌緋は蔵人所までの同行の許可を貰っている。

 普通なら入り込めない禁書庫にすら、弱点を利用して進んでいる。


 ちなみに、司書さんが何者なのかはよく分からない。

 名前も知らない、顔も知らない。

 だが音楽の趣味は知っている。

 恐らく代々この蔵人所の管理者の家系だったぽいらしい。

 すごく優しい、それくらいしか知らない。


 それぐらいの関係以外を、想像しない。


「着きましたよ。」

 句読点の着いた会話文。

 彼の声に、捌緋は全身で目を開けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

穢土の蛇 紡わかめ @kakuwakame

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ