人によって感じ方の違う作品だと思う
- ★★★ Excellent!!!
【物語は】
ある一文から始まるのだが、強調の効果を上手く使っている印象。
この物語は緊迫した一場面から始まっている。本編に入るとこの世界の歴史について触れており、そこから現在の国の様子や、人々の様子などを知ることとなる。その後ガラッと雰囲気が変わり、主人公の日常風景が描かれていく。ここで分かって行くのは、主人公の普段の様子と、同僚との関係などについて。とても丁寧であり、分かりやすく、滑らかな文体であると言える。人が体験しそうな事柄について、追って感想を漏らすところや、視線を追うように感じる情景や人物描写はとても自然で、まるで映画を見ているような気分になる。
【物語の魅力】
巧い人にも、いろいろとタイプがある。例えば、話しの展開に繋がりがあり、結果必然性で作られていると感じるタイプ。モチーフの活かし方が秀逸で、メッセージ性を強く感じるタイプ。構成自体が神がかっているタイプ。この物語は、この3タイプとはまた違う巧さを感じる。というよりも、どれもしっくり来ない。流れに無駄がなく、とても巧い。巧過ぎて、『こうだ』と明確にいうのが難しいというのが、近いかも知れない。必要な情報が流れるように読者に与えられていくので、まったくストレスを感じない。言葉にするのが難しい類の巧さという意味合いである。
冒頭に戦うこととなる人物を含まなければ、中途の拝読で主要人物は主人公を含め三人。同僚と上司にあたる人物。それぞれに個性的で、簡単に見分けがつくほど個々性格や言動が違う。しっかりとした世界観、個性的な登場人物。この物語がどう冒頭の場面に繋がっていくのか。そこが現時点では、分からないところが見どころの一つなのかもしれない。3Pあたりからは本題に入っていくのか、含みなどもあり、これから何が起こるのだろうかと、好奇心が刺激されていく。
【登場人物の魅力】
主人公を含む三人は、確かに性格も違い個性もあるのだがチームという感じがする。同じ目的を持ち力を合わせる仲間。信頼関係で結ばれ、絆というものを感じる。もちろん、個人の想いも描かれているのだが不思議なバランスの物語だと感じる。
国の為に犠牲になった彼らの日常。彼らは人でありながら、心を殺さなければならなかった。戦争の真の恐ろしさとはこういうところにあるのかもしれない。この物語の三人は、個々の人物というよりは戦争によって犠牲になった”人間のカタチ”なのかもしれない。
【この物語を通して感じたこと】
あくまでも個人の見解に過ぎないが、戦争が齎す真の恐怖とは何だろうか、という事について考えさせられた。一定年齢に満たない者を戦争の兵器にする理由。彼らがどんなに従順であろうとも最終的には、自国にとっても恐怖の対象になるのではないだろうか?
人は不安から逃れることは出来ない。一度持ってしまえば、相手がどんなに裏切らないと言っても、信じることはない。彼らは生きるために国の犠牲になった。それなのに、自由を奪われる理不尽さ。これは現実世界でも起こっていることであり、決して他人ごとではないはずだ。親が子にしていることも大して変わらない。凄く深いテーマが隠された作品なのではないだろうかと感じた。
この作品を読んであなたはどんなことを考えますか?
恐らく読む方によって感じ方は違うと思われます。
是非あなたもお手に取られてみてくださいね。