第12話
「優希、いつものやつ、やるよ」
「いつもの?」
「そう、いつもの挨拶」
そう言うと、優希はぱっと顔を輝かせる。
「うん!」
修司を車から降ろして、古い木のベンチに座らせる。いつもテレビを見つめたままだった彼の視線は朝日に向いている。どことなく、彼もいつもより嬉しそうだ。
朝の来ない世界で太陽を見せる。
どう、これが私なりの奇跡だよ。
そう言って、得意げな顔をしてやりたかった。
白い朝日に照らされたまま、私と優希は顔を見合わせる。そして、彼に向かって「せーの」と声を合わせて言う。
「おはよう、パパ」
我が家に帰ったらまず優希には料理の仕方を教えよう。それから、食料の手に入れ方、いずれは車の動かし方も教えなくちゃいけないかもしれない。
私にはまだやり遂げなくちゃいけないことがある。
だから、もう少しだけ、私はこの止まった世界で生きることにする。
太陽を背にして、私はそう誓うのだった。
【了】
夜に祈りを、朝に願いを 雪瀬ひうろ @hiuro
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