第40話 最後の切り札


 ヴェルディは召喚されたと同時に、咆哮をあげて部屋の壁を完全に崩壊させる。


 夜の闇で周囲が全く見えなく……ならなかった。


 周囲に大量の魔力の塊が発生し、それらが夜を切り裂くように眩く輝いている。5メートルはある魔力の塊が、無数に空中に浮かび上がっているのだ。


 いや魔力の塊だけではない。雷、炎、氷、土、水……様々な物質の塊がヴェルディの意に従うように空に存在していた。


 魔王はそれを驚愕の表情で茫然と、力なく眺めていた。


「こんな……私の全力レベルの攻撃が無数に……」


 ヴェルディは神のように傲慢に魔王を見下す。


 これがヴェルディの真の力なのだろう。今までまともに戦ったことがない切り札、強いのは知っていたが魔王の心を折るまでとは。


 …………よく考えたらエセ勇者と戦っていたがノーカンとする。ただの一吹きで倒してたし。


 魔王からすれば計算外過ぎる戦力が現れたようなものだ。断言するがヴェルディのことは計算してなかっただろう。


 ダンジョンバトルで一切使わなかったし、計算していたなら俺達とゆっくり戦うなんてあり得ない。


 最後の最後まで切り札を温存できたこと。これが極めて大きい。


 魔王は何とか戦うために構えるが、明らかに身体がこわばっていた。


 ヴェルディの力に完全にのまれている。


「この世を彩る素」


 ヴェルディの詠唱と共に、周囲の様々な塊が光りだした。


 その輝きは今まで見た何よりも美しく、そして巨大な力を連想させる。


「世の理をその身に受けよ」


 周囲に発生した塊が、ヴェルディの上に集まって交わり凝縮されていく。


 氷、土、水、雷、雲……色々な塊がぶつかり溶け合った。


 そして周囲の塊が全て合体し、七色の光を発する巨大な球体へと変化する。


 それはまるで太陽なような底知れぬエネルギーを感じる。


 魔力とか全然分からない俺ですら直感がヤバイと叫ぶのだ。


「万象全て、我が意なり」


 七色の球体が魔王へと襲い掛かる。


「……あああああぁぁぁぁ!」


 魔王は絶叫と共に、襲い掛かる球体に魔法を撃ちこむ。


 だが全て吸収されて、球体がより光を強くするだけだ。


「こんな! こんなことありえな……」


 魔王は球体に飲み込まれる。そして球体は恐ろしい速度で回転を始めた。


「我が主よ、魔王の見た目はどう思う?」


 ヴェルディがいきなり変なことを聞いてくる。


 魔王の見た目は悪くない。胸が足りないのは減点だが。


「えっ? 胸が足りない以外は悪くないが」

「わかった。ならばこやつは戦利品としよう。理よ、逆行せよ」


 ヴェルディの言葉に呼応するように、魔王を飲み込んだ球体は更に回転を速める。


 そしてしばらく回り続けた後、光の粒子になって破裂した。


 破裂した球体の跡には、ケガひとつない魔王が倒れていた。身体が少し上下しているので息もある。


 よく見ると少し幼くなっているような……いや待て。何で魔王が生きているんだ!? 


「ちょっと待て。魔王残してどうするんだ!? もうお前動けないだろ!? 誰もこいつを止められないぞ!?」


 ヴェルディはもう動ける時間を使い果たしたので、微動だにせずに。


『安心せよ。もはや魔王は王にあらず。こやつは弱き頃の身体へと戻った』

「弱き頃の身体へ戻った?」

『魔王の身体の時を巻き戻して子供に戻したのじゃ。ほれ、お主も女子は好きなんじゃろ?』


 なんということだ。さっきの球体内で時間を操ったというのか。


 それはもはやチート以上の何かではあるまいか……まあそれはそれとして俺はヴェルディに親指を立てる。


 よくやった! つまり魔王を好き放題できるということだ!


「やりましたね、ご主人様!」

「……魔王を無力化」

「おめでとうございます、我が主よ」

「スグル殿! まさか本当に魔王を倒すとは!」


 ライラにエイスに勇者ゴブリン、後オマケのマサムネが駆け寄ってくる。


 魔王から受けたダメージなどなかったかのように元気だ。


『我が回復させておいた』

「そうか、なら完璧だな。後は魔王の処分だが……ゴブリン! お前はどうしたい!」

「はっ! 無力化した魔王は殺さず、丁重に扱うべきかと!」

「なにいってるんだ!? お前は勇者の前にゴブリンだろう!? 犯せよ、薄い本やれよ!」


 勇者ゴブリンの模範的な回答に、俺は心底ガッカリする。


 こいつらは勇者になってことで、ゴブリンの心を失くしてしまったのだ。


 残念だが仕方がない。マサムネで我慢しよう。


「マサムネ、魔王を慰み者にしろ」

「ごめん被る」

「マサムネよ、毒の剣を握ったのまではよかった。だがお前にはまだ誇りが残っている。それを捨てなければ、また何もできないぞ」

「なっ…………」


 マサムネは俺の言葉にたじろいでいる。実際、こいつは魔王城で何もできていない。


 最後くらいは役に立って欲しい。


 マサムネはしばらく目をつむって逡巡した後。


「……いくら私でも、スグル殿のように極悪非道にはなれない。私とて堕ちてはならぬところのラインは理解しているつもりだ」

「誰が極悪非道だ! 人を堕ちてはダメなラインにするんじゃねぇ!」


 やはりマサムネは役に立たないな。


 俺は自分の状況も分からずに寝ている魔王を見る。


「仕方ない。帰ったらツバに飲み込ませるか」

「……思うのだが、スグル殿が自分でやればいいのでは?」

「馬鹿野郎! こういうのは見てるからいいんだろ! 自分でやると罪悪感出るだろ!」

「ええ……」


 やはりマサムネはわかっていない。俺は決して極悪でも非道でもないのだ。


 同人的な薄い本フィルターなしでは、生々しくて嫌悪感が出てしまう。


 ゴブリンやオーガ、スライムだからこそなのだ。


 他の皆に同意を求めようとすると、いつの間にか距離をとられていて。


「ご主人様、ライラは絶対に味方ですから」

「……屑」

「……性癖は人それぞれですので」

「私はスグル殿にはなれぬ。剣に毒を塗るのが精いっぱいだ」


 ……皆の視線が痛い。


 くそう、魔王め! 倒してからも俺を苦しめやがって!


『安心せい。我が主が望めば、魔王は洗脳して好き放題できるようにしてやろう』

「……最低」

「ご主人様……ら、ライラは見捨てません!」

「いや俺言ってないけど!? そこまでしてって言ってないけど!?」


 俺の反応を見て、誰からともなく笑い始めた。


 なんかヴェルディの掌で踊らされている気がする。


 何はともあれ魔王を倒したのだ。これでダンジョンの運営に集中できる。


 いやそもそもダンジョンを大きくする必要もないような……元々魔王を倒す戦力集めのためだったし。


 あれ? これからすることがない?


『安心せい。ダンジョンを大きくしていけば、いずれ我が主は元の世界とこの世界を自由に行き来できる』

「まじで!? それだったら大きくしないとな!」


 元の世界に言うほど未練はない。だが元の世界で欲しい物は結構あるのだ。


 同人誌、ゲーム、プラモデル、漫画……いくらでもな!


 どうやら今後もダンジョンを大きくする必要があるようだ。


 だが今後は容易に拡張することが可能だろう。今の俺には仲間がいる、そしてチート神龍がいるのだから。


「じゃあヴェルディ、これからも鉱山よろしくな」

『なにっ!? まだ我は解放されぬのか!?』

「お前は基本的に置物だからな」


 これからもヴェルディ産の鱗や牙で、強力な装備を作りダンジョンを発展させる。


 我ながら完璧な計画だ。明るい未来に思わず笑ってしまうのだった。


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これで完結です。ご読了ありがとうございました。


新連載の宣伝です。

『俺専用の魔物の国をもらったので、育てた魔物を召喚して無双します!

 ~ザコ魔物と舐めたな? 残念、うちのザコは特別性なんだ~』


ぜひよろしくお願いします!

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チート龍を配下にダンジョンマスター! ~ただし神龍は置物である~ 純クロン @clon

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