第1076話 未来
自宅で寝て朝起きると、やっと邪神との戦いに勝利したのだという実感が湧いた。それからしばらくの間は、何もする気が起きずに虎太郎と遊んだり、アリサと他愛もない話をして過ごした。
「ねえ、この子が生きている間に、邪神が再来する事になるの?」
「いや、たぶん早くても六世代くらい後になるだろう」
「そんなに遠い先の話なのね。私にできるのは、良い魔法を創って後世に残すくらいかしら」
それを聞いて頷いた。
「時間はあるから、ゆっくりと生きていこう」
ここまでの人生は、何かに
邪神戦を勝利した事で、心の中で一区切り付いたようだ。次の邪神戦があるかもしれないが、時間はたっぷりとある。
気になっていた事がある。俺以外の戦士たちが、どの賢者システムを選んだかという事だ。ちなみに、三橋師範だけは生活魔法の賢者を選んだと分かっている。
その年末にイタリアで賢者会議があり、そこで何を選んだかが判明した。ハインドマンは攻撃魔法、ジョンソンは魔装魔法を選んだという。意外なのは勇者シュライバーとアヴァロンで、シュライバーは付与魔法、アヴァロンは生命魔法を選んだ。
賢者会議でアヴァロンに、なぜ生命魔法を選んだのか尋ねた。
「私はたくさんの魔物を殺し、この力を手に入れた。だが、邪神戦の後になって、何の意味があったのだろうと疑問に思うようになった」
「それで生命魔法ですか?」
「ああ、逆の事をやってみたくなったのだ。ところでダンジョンの事を聞いたか?」
「ええ、ダンジョンが消えているそうですね」
アヴァロンが頷いた。
「ダンジョン神は半分に減らすと言っていた。中に入っている時にダンジョンが消える事もあるから、気を付けた方がいい」
ダンジョンが消える時、中に入っていた者は、強制的に外に放り出されるという。そういう混乱はあったが、世界は平穏を取り戻した。
邪神戦において、俺が活躍した事と、生活魔法が多用された事が世界に広まった。それにより才能がある者は、生活魔法を学ぶべきだと言われるようになった。
俺が願っていた事が実現したのだ。冒険者たちの間に生活魔法が根付き、大きく広まった。俺は満足して家族と穏やかな日々を過ごすようになった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
人類が少しずつ発展しながら新たな文明を築き、邪神戦から二百年が経過した頃。遠い宇宙で邪神がダンジョン神の繭から解放された。
【あのゴミのせいで……許さんぞ】
邪神は乗っ取った烏天使の身体を改造した。元の姿に戻ろうとしたのだ。そして、復讐しようと地球に向かって飛び始めた。
だが、あまりにも遠くまで飛ばされたので、地球に戻るのに数百年単位の時間が掛かってしまった。地球に近付いた邪神は、人類に向かって怒りの声を上げた。
【皆殺しにしてやる!】
その声が引き金になって、前回と同じように新たに作られたダンジョンへ邪神は引きずり込まれた。邪神は学習という言葉を忘れたようだ。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
そのダンジョンに召喚された俺は、数百年ぶりに邪神と再会した。
「久しぶりだな」
【……あの時のゴミだな】
「ふん、そのゴミに負けて、宇宙に飛ばされたのは誰だったか?」
【ゴミが大した口を利くようになったな】
今回召喚されたのは、俺一人である。ダンジョン神が一人で十分だと判断したのだ。俺は数百年の修業を経て寿命というものがなくなり半神となっていた。
寿命を持つアリサはすでに他界しており、
アリサをなくした俺は、人との付き合いが嫌になって神域へと引っ越した。ダンジョン神から教えを受けて神への道を進み始めたのである。御蔭で半神となった。
邪神が以前より強くなっているのを感じた。宇宙を旅している間に、大量の邪気を蓄えて自身を強化したらしい。
邪神から膨大な邪気が放射され、多数の邪卒が召喚された。三百以上の邪卒を見て変わっていないと思い、なぜか笑いが込み上げた。
俺は膨大な黒炎エナジーを取り込む。その凄まじいパワーを秘めた黒炎エナジーを圧縮して数百の槍の形にすると邪卒に向かって撃ち出した。その一斉攻撃により邪卒が駆逐される。
ダークセベクも邪卒王も黒炎エナジーの槍によって貫かれ、黒い霧となって消えたのだ。
【そんな馬鹿な】
その光景を見た邪神は動揺したようだ。邪神が悔しそうにこちらに目を向ける。
【前回戦ってから短い時間しか経過していない。貴様に何が起きた】
人間とは違う時間感覚だと感じた。神の感覚だと数百年は短い期間のようだ。
「何が起きたか、身をもって感じろ」
俺は九つの人格を使って取り込んだ神威エナジーと同等の量を刃として飛ばす。邪神は邪気を身に纏い盾とした。その盾に神威エナジーの刃が命中して押し除けると、邪神の頭を縦に真っ二つにする。左右に分かれた頭が、ギギギッと音を立てるかのような動きで元に戻っていく。
邪神と戦いにおいて、俺が圧倒した。一つ一つの攻撃が以前とは桁違いの威力を秘めたものとなっている。その様子を見ていたダンジョン神も驚いた顔をしていた。
俺はもう一度神威エナジーを集めた。それは以前に巨大鮫の形にして放った時の三倍ほどのエネルギー量があった。その膨大な神威エナジーに『滅却』の意志を込める。万物、いや魂さえも消滅しろという意志を込めた神威エナジーが、ブラックホールのような球体となって邪神を襲う。
邪神は恐怖した。逃げようとしたが、滅却球体はその身体を引きずり込み、分解して物質的なものを消滅させると同時に、邪神の核となる精神を砕き滅却した。
その瞬間、邪神が蓄えていた知識や権能が、俺の中に流れ込んできた。それは半神だった俺が神に昇格した瞬間だった。だが、あまり嬉しくない。アリサたちと暮らしていた時が、何倍も楽しく幸せだった。
ダンジョン神がこちらに視線を向ける。
【グリムよ。そなたは神の一柱を倒し、新しい神となった。その力で何をするかは自由だ】
俺はゆっくりと考えて結論を出した。旅に出ようと思う。目的地はないが、大宇宙を旅して何か心を埋めてくれるものを探すつもりだ。こうして地球で生まれた神が故郷を去った。
―――――――――――――――――
【あとがき】
今回の投稿で、この物語は終わりとします。長い間、ありがとうございました。
よろしければ、新作のSF『ファンタジー銀河』も御覧ください。
場所は:https://kakuyomu.jp/works/16817330669498672030 になります。
ファンタジー風スペースオペラとなっていますので、気楽にお読みください。
生活魔法使いの下剋上(web版) 月汰元 @tukitashi
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