第1075話 凱旋
俺たちはブラッドリーの遺体を回収した。ブラッドリーの身体は邪神の邪気に侵食されてボロボロになっていた。この状態だとエリクサーでも生き返らせる事は無理だし、神でも元に戻す事は困難だという。
ダンジョン神が無理だと言わなかったのは、万全な状態だったら可能だという事らしい。
【地球のダンジョンの事だが、その数を半分に減らす事になるだろう】
いきなりダンジョン神が爆弾発言した。それを聞いたアヴァロンが納得できないという顔をする。
「理由を教えてもらえませんか?」
【これほどダンジョンの数を増やしたのは、邪神と戦える戦士を増やすためである。その戦いが終わり、邪神を宇宙の果てに向けて飛ばす事になった。そのためにエネルギーが必要なのだ】
ダンジョンを増やすために、ダンジョン神自身のエネルギーを使っていたようだ。邪神を少しでも遠くに飛ばすためというなら、仕方ないだろう。
「仕方ありません」
【その代わりに、一緒に戦ってくれた者たちには、上級ダンジョンの種を一つずつ贈る。好きな場所にダンジョンを創るがいい】
それを聞いたアヴァロンたちは喜んだ。俺だって思わず頬が緩んだ。上級ダンジョンの種か、これは凄いご褒美じゃないか。ダンジョンを創る時、そのダンジョン構造を自分で決める事ができる。俺なら浅い階層に貴重な資源を回収できるような構造にする。
ダンジョン神の褒美は、それだけではなかった。
【一人ひとりに希望する魔法の賢者システムを贈ろうと思う。ただグリムはどうする? 代わりのものが良いか?】
「いいえ、妻のために分析魔法の賢者システムを頂きたいです」
【なるほど。そうしよう】
賢者システムを使うには、該当する魔法才能が『S』でなければならない。選ばれた戦士なら『才能の実』を手に入れ、自力で『S』にする事が可能だろう。
「賢者になれる」
アヴァロンが珍しく興奮している。ジョンソンも賢者になれると聞き、片手を上に突き上げて喜んでいる。これで六人の賢者が増える事になる。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
アリサはグリムが突然消えたと連絡を受け、邪神との戦いが始まったのだと不安になった。それを紛らわせるために、避難場所であるグリーン館で息子の虎太郎をあやしながら天音たちと話をした。
「邪神に勝てると思う?」
アリサが不安そうに声を上げた。それを聞いた天音がアリサの横に寄り添う。
「大丈夫よ。グリム先生は強いんだから」
「でも、相手は神なのよ」
「長い間封印されていたから、弱っているという話でしょ。こっちにはダンジョン神様も居るんだから、きっと勝てる」
そこに千佳が近付いた。
「タイチとシュンから連絡があった」
「秋葉原は大丈夫なの?」
千佳が頷いた。
「ええ、邪卒は全部倒したそうよ。ただ隠れている邪卒が居るかもしれないので、東京の冒険者が引き続き探すみたい」
タイチとシュンの話では、冒険者たちの方にも死傷者が出たらしい。それからグリムと三橋師範がどうやって消えたのかを、タイチから聞いたようだ。
「ダンジョン神の声が聞こえた直後に、グリム先生と三橋師範の姿が光に包まれて消えてしまったそうよ。たぶんダンジョン神に召喚されたのだと思う」
「そう、邪神と戦っているのね」
「世界各地の冒険者ギルドから報告が上がっているのだけど、アヴァロンさんやジョンソンさんも召喚されたという事だったわ」
「それを聞いて、少し安心した」
アリサは虎太郎を抱き上げると頬ずりした。虎太郎はキャッキャッと喜びながら紅葉のような小さな手でアリサの頬を叩く。
その時、頭の中にダンジョン神の声が響いた。
【地球の者たちよ、邪神に勝利した。邪神は霊体だけの存在となり、宇宙の果てへと放逐した。残念ながら完全に滅ぼす事はできずに放逐せざるを得なかった。だが、安心するがいい。もし、未来において邪神が地球に戻ったとしても、我々は勝利するだろう】
それは力強い言葉だった。その直後、世界中が沸き立つような歓喜に包まれた。
「勝ったぞー!」
小躍りして喜ぶ人々が世界中に溢れた。シェルターに避難していた人々は、外に出て無事に生き延びた事を喜び、教会で祈っていた人々は神に感謝した。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
俺と三橋師範は日本に戻った。ゆっくりと休もうと思ったのだが、日本では盛大な祝勝会が用意されており、俺たちは半ば強制的に参加させられ、大勢の人々から感謝の言葉を受けた。
それらが落ち着き、いつもの日常に戻れたのは数日後の事だ。俺は自宅の屋敷に戻り、アリサの腕の中で眠っている虎太郎を見詰めてホッとした。
「本当に良かった」
アリサが目をうるませて言う。
「心配を掛けて、済まなかった」
「謝らないで、あなたのせいじゃないから」
俺は頷いた。
「そうだ。凄いものをダンジョン神様からもらったんだぞ」
アリサが首を傾げた。それを見て虎太郎も首を傾げる。俺は巻物を取り出してアリサに渡した。アリサが見れるように虎太郎を抱き上げる。
「これは何の巻物?」
「分析魔法の賢者システムだ」
アリサの目が丸くなった。アリサは急いで巻物を広げ、中を見ると硬直した。たぶん賢者システムがアリサの脳に流れ込んでいるのだろう。
虎太郎がアリサに手を伸ばすが、今邪魔するのは良くないと思い、虎太郎を抱えたままベビーシッターのトモエを探して虎太郎を預けた。
元のところに戻ると、まだアリサは硬直したままだ。そのままアリサが賢者になる瞬間を待つ。数分後、アリサが急に声を上げた。
「こ、これが賢者システム……」
日本に分析魔法の賢者が誕生した瞬間だった。
―――――――――――――――――
【あとがき】
1/5より新作のSF『ファンタジー銀河』の投稿を始めましたので、よろしければ御覧ください。
場所は:https://kakuyomu.jp/works/16817330669498672030 になります。
ファンタジー風スペースオペラとなっていますので、気楽にお読みください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます