第1074話 邪神霊体

 霊体となった邪神は、多くの邪気を失った。それにより益々弱体化したようだが、それでも人間とは桁違いの力を秘めていた。こんなものに取り憑かれれば、簡単に乗っ取られてしまうだろう。


 今の俺は無理をしすぎて精神がボロボロになっている。もう一度人格を増やして攻撃しろ、と言われても無理だ。俺が弱っていると気付いたのか、邪神の霊体が近付いて来る。その幽鬼のような姿は背筋が凍るほどの恐怖を呼び起こす。


【貴様の身体をもらってやる】

 危ない事を言いながら近付く邪神に、エルモアが走り寄ってオムニスブレードで斬り付けた。だが、邪神の霊体は弾き飛ばされるだけで、あまりダメージは受けないようだ。


『ファントムなどの魔物とは、全然違うようです』

 メティスの声が頭に響く。


 アヴァロンが駆け付けてくれた。そして、『ダークネスレイン』を発動して一万五千発の黒炎弾を邪神の霊体に向けて撃ち込む。


 黒炎弾にも破邪の力があるので、邪神の霊体にも効果があるかもしれないと期待。だが、黒炎弾は霊体を素通りして効果がなかった。


 メティスはまず俺の安全を確保しようと考え、エルモアと為五郎に俺を抱えさせて退避してくれた。


 俺の退避を確認したアヴァロンたちが、攻撃魔法や生活魔法で邪神の霊体を攻撃する。だが、ほとんど通用しなかった。


 三橋師範とジョンソンに邪神の肉体だけを消滅させた場合の事を話したが、どうやらそれが現実となったようだ。救いを求めるようにダンジョン神と烏天使に目を向ける。


【代理神様、私が参ります】

【いいのか?】

【これが私の務めです】

 そう言った烏天使が邪神に向かって走り出す。邪神と烏天使が交差した時、烏天使の肉体に邪神の霊体が潜り込んだ。その途端、烏天使が苦しみ藻掻き始めた。俺は助けようと立ち上がる。


【後は任せてもらおう】

 ダンジョン神の声が頭に響いた。


 そのダンジョン神が身体を包んでいた繭を邪神の霊体が潜り込んだ烏天使目掛けて投げる。繭は吸い寄せられるように烏天使へと飛びながら解けて無数の糸へと変わり邪神ごと烏天使を絡め取って捕縛する。


 邪神は肉体を失い霊体だけの存在となって弱体化していたからできた事だろう。本来の力を持っている状態の邪神だったら、烏天使を殺して糸を引き千切っていたはずだ。烏天使を包んだ糸はかいこを包む繭のようになった。


 あまりの事に俺たちは呆然とした。

「烏天使は?」

【戦いには犠牲が付きものだ】

 その冷たい響きの言葉に、神の非情さを感じた。


「これで邪神との戦いに、勝利した事になるのか?」

 俺が呟くと、頭の中にダンジョン神の声が響いた。

【そうだ。我らの勝利である】


「うおおーーー!」

 その声はアヴァロンたちにも聞こえたらしい。勝鬨かちどきの声が聞こえた。


 ダンジョン神が近付いて来たので質問した。

「邪神をどうされるのですか?」

【我も弱っている。この状態では滅する事もできぬ。このまま放置するのは危険なので、繭に包んだ状態で宇宙の果てに向かって撃ち出す】


 霊体になった邪神は、ダンジョン神にとっても厄介な存在らしい。通常の攻撃はもちろん、破邪の力を持つ魔法などで攻撃してもトドメを刺す事はできないという。


「邪神が繭を破って出て来ませんか?」

【出て来た頃には、遠い宇宙だろう。ここに戻るまでに、邪神を倒す準備をするのだ】


 それは遠い未来の事のようだ。今生きている者は死に、子孫が迎え討つ事になる。その繭を管理して邪神が復活しないようにできないかと尋ねると、ダンジョン神が首を振る。


 神域に邪神を入れる事はできない。そうなると人類に管理を任せる事になるが、責任を持てるかと確認された。


「無理ですね。宇宙に飛ばしてください」

 俺は即答した。ギャラルホルンさえ守れなかったのだ。無理だろう。


【分かった。宇宙の果てに向け飛ばす事にしよう。次に邪神が戻った時は、そちが中心になって対処する事になるかもしれなんな】


「ご冗談を。その頃には死んでいます」

【仙丹を飲んだはずだ。あれを服用した者は百年や二百年では死なんぞ】

「えっ」


 仙丹がそういう薬だという事は知っていたが、また邪神と戦わなければならないと知って愕然とした。

「そんな。それでは長生きは罰じゃないですか?」


【邪神より強くなれば良いだけの事】

「ですが、邪神はダンジョン神様でも滅ぼせなかったのですよ」

【我は代理神だ。戦神ではない。そなたは戦神になればいい】


 ダンジョン神は烏天使に乗り移った邪神を宇宙の果てに向けて撃ち出した。それは加速し、亜光速に達して宇宙の果てに向かう。邪神はどれほど未来に戻って来るのだろうか?


 三橋師範とジョンソンが俺のところへ来た。ブラッドリーは治療途中で殺されたようで、二人とも満身創痍のままである。魔法薬でもすぐに治せないほどの重傷で、よろよろしている。


【二人にはこれをやろう】

 ダンジョン神が薬瓶を渡す。それはエリクサーだった。万能薬と呼ばれているもので、それを飲んだ二人はすぐに回復した。


「凄え、本物のエリクサーだ」

 ジョンソンが変な驚き方をしている。


【これくらいで驚くな。そなたたちには、もっと凄い褒美を用意しているのだぞ】

 それを聞いたジョンソンが嬉しそうに笑った。



―――――――――――――――――

【あとがき】

1/5より新作のSF『ファンタジー銀河』の投稿を始めましたので、よろしければ御覧ください。


場所は:https://kakuyomu.jp/works/16817330669498672030 になります。


ファンタジー風スペースオペラとなっていますので、気楽にお読みください。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る