第1073話 逆転

 烏天使と邪神の戦いが始まった。アヴァロンたちも加勢しているが、攻撃魔法や生活魔法は邪神に通用しないようだ。結果的に邪神と烏天使の一騎打ちという形になった。


 さすがに烏天使は強い。良い勝負をしているように見えるが、邪神は時間が経つに従い力を取り戻し始めている。ただ完全に力を取り戻すには数ヶ月は必要だろう。


 自分の身体を回復させるために、俺は神威エナジーを使った治療を試みる事にした。神威エナジーに『癒やしたい』という思いを込めて体内を循環させる。ブラッドリーの『天翼』により骨折は治ったが、骨の内部や神経がまだ完全ではなかった。


 それを神威エナジーが癒やしていく。『天翼』の躬業ほど効果が高くないが、一分ほど続けるとほとんど痛みを感じなくなった。


「戦線復帰だ」

『ですが、『神威迅禍』でも小さな傷を与えただけです。どうしますか?』

「急所を狙う。頭、首、心臓を狙うつもりだ」

 心臓がどの位置にあるかがはっきりしないが、胸の真ん中にスキップ砲弾を撃ち込めば効果があるかもしれない。


 俺はエルモアたちを探した。エルモアと為五郎は三橋師範とジョンソンを安全な場所まで運んでいるところだった。メティスの指示だろう。烏天使の近くに向かう。


 最初は互角だった烏天使と邪神だったが、今では少し邪神が押していた。烏天使はスピードを活かした攻撃を邪神に当てて小さなダメージを積み重ねるようにしているようだ。


 邪神は邪気剣で攻撃し、その一撃が烏天使に命中すれば大きなダメージを受けそうだ。烏天使が傷を負っているので、一、二発は斬撃を受けたのかもしれない。


 邪神も動き回っているので、攻撃するタイミングが難しい。烏天使が邪神の斬撃を避けるために後ろに跳び退いた。その瞬間、邪神の心臓があると思われる辺りをロックオンすると、『スキップキャノン』のスキップ砲弾を撃ち出す。


 亜空間に消えたスキップ砲弾が邪神の体内に飛び出そうとしたが、膨大な邪気により邪魔される。その結果、スキップ砲弾が邪神の横に出現して爆発した。そのせいでほとんど邪神にダメージを負わせる事はできなかった。


 クソッ、それなら『神威迅禍』はどうだ。『神威迅禍』を発動し、圧縮貫通弾を邪神の首に向かって放った。邪神はそれを嫌い、邪気剣を振るって圧縮貫通弾を斬り捨てる。


 邪神が首に圧縮貫通弾を受けるのを嫌がったという事は、効果があるという事だろう。だが、さすがに簡単には攻撃させてくれない。


 その時、烏天使が動いた。目にも止まらぬ速さで邪神に接近すると、膨大な神威エナジーを流し込んだ槍で邪神の胸を刺し貫こうとする。邪神は邪気剣で槍を払う。そして、全身から濃密な邪気を放った。


 避ける暇がないと判断し、神威エナジーで全身を覆った。その直後に邪気が俺を襲い、弾き飛ばした。宙を舞った俺は、何かに導かれるようにダンジョン神が作った繭の近くに落下する。


 烏天使も撥ね飛ばされたのが見えた。起き上がって邪神に向かおうとした時、頭に声が響いた。

【もうすぐ動けるようになる】

 ダンジョン神から指示をもらった。邪神の肉体を滅ぼし、霊体だけにして捕縛するという作戦だ。その邪神の肉体を滅ぼすという役目を俺に任せるという。


 その方法も指示されたが、難しいものだ。俺は邪神と烏天使の戦いを見守りながら、準備を始めた。一瞬だけ邪神がこちらに視線を向けたが、馬鹿にするような目をして鼻で笑う。俺がダンジョン神側の戦力にならないと考えているのだ。


 俺は『神慮』の躬業を使って人格を増やし始めた。三次人格は簡単に作れた。次に四次人格、五次人格と増やしていく。その数を増やすごとに、その作業が難しくなる。そして、九次人格まで生み出した時に限界に達した。


 俺は主人格を合わせて九つの人格に神威月輪観の瞑想を行わせ、神威エナジーを取り込ませる。それぞれの人格が高次元から神威エナジーを取り入れ、膨大な量の神威エナジーが俺の中に集まり始めた。


 集まった神威エナジーを練り上げながら圧縮する。そして、時間を掛けて集め圧縮した神威エナジーをある形に形成する。そこまでした時、邪神が気付いた。


 そのワニのような顔に驚きだと思われる表情が浮かんだ。但し、俺がそう思っただけで、本当に驚きの表情だったかは分からない。


【ゴミめ、何をするつもりだ?】

 邪神はちゃんとした念話が使えたらしい。俺は答えずに、烏天使に合図する。烏天使が慌てて邪神から離れた。


 それを確かめた俺は、邪神に向かって膨大な神威エナジーで作り上げた巨大な鮫を放った。全長五十メートルほどの圧縮した神威エナジーだけで作られた鮫が邪神に向かう。


 その瞬間、主人格以外の人格を維持できなくなって解除した。頭が痛い、吐き気がする。立っていられなくなって地面に座り込む。


 邪神は避けようとしたが、巨大鮫は追尾して大きく口を開けた。邪神はダンジョンの壁まで追い詰められる。壁を破壊して逃げようとする邪神。だが、その壁は烏天使とダンジョン神が念入りに創り上げたもので、神でも破壊するのに時間が必要だというほどのものだった。


 追い詰められた邪神は、巨大鮫に向けて邪気刃や邪気玉をぶつけた。しかし、巨大鮫はそれらの攻撃を撥ね返し、邪神を呑み込んだ。巨大鮫は内包する膨大な神威エナジーを使い、邪神を噛み砕き始めた。神威エナジーで作られた牙が邪神の肉を引き裂き、咀嚼そしゃくする。


 そして、巨大鮫に呑み込まれた邪神は、細かく引き裂かれ分解していく。

【これで終わりではないぞ】

 また邪神の声が聞こえた。肉体が消滅しても霊体だけで生きていける邪神は、肉体から霊体を引き剥がして巨大鮫の体内から出てきた。


 邪神は肉体で抵抗するのを諦めたようだ。巨大鮫は邪神の肉体を消滅させた事で役目を終えて消える。ほとんどの神威エナジーが邪神の肉体を分解する事に使われたのである。


 邪神の霊体は一番近くに居た烏天使に向かって移動する。その身体を乗っ取って復活しようというのだろう。


 それが合図だったかのように、ダンジョン神が繭から出てきた。


―――――――――――――――――

【あとがき】

1/5より新作のSF『ファンタジー銀河』の投稿を始めましたので、よろしければ御覧ください。


場所は:https://kakuyomu.jp/works/16817330669498672030 になります。


ファンタジー風スペースオペラとなっていますので、気楽にお読みください。


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