第1072話 弱体化した邪神のはずなのに
「クソッ!」
俺は邪神を封印したので、勝負がほとんど決まったと考えていた。最後の最後で邪卒王にひっくり返されてしまった。
「あんな方法で封神剣を取り除くなんて」
神剣ヴォルダリルを振り上げ、邪神に向かって振り下ろしながら『神斬翔』を発動。神威エナジーを斬るという魔法概念で律して凝縮した神斬翔刃を飛ばす。神斬翔刃は長さ三メートルほどの神威エナジーの刃だ。邪神が元の大きさなら、この魔法を選ばなかっただろう。
斬るためだけに特化した神斬翔刃を、邪神の膨大な邪気が受け止めた。だが、身体が変化した直後の邪神は、万全な状態ではなく神斬翔刃が少しだけ邪神の身体に食い込んだ。
『神斬翔』は邪神に通用しなかった。神と呼ばれるものに小手先の技は必要ではなく、その精神に秘めた力だけで逆らうもの全てを制圧し、滅ぼすものなのだ。
その力の差に恐怖を覚えた俺は、続けざまに五つの神斬翔刃を放って攻撃した。その一つ一つが邪神の肉体を切り刻んだが、その傷は浅かった。
邪神が右手を伸ばし、その手の先から邪気で形成された剣を作り出す。それを俺に向かって振った。その瞬間に紫色の邪気刃が飛翔し、こちらに飛んで来る。
『神威結界』を展開して受け止めようとした。邪気の刃が結界に当たり、少しずつ邪気の刃が食い込んで来る。結界が崩壊すると感じた俺は、横に跳躍すると同時に結界を解除した。
俺の横を邪気の刃が通り過ぎ、背後にあった岩を切り裂いて地面に潜り込む。その穴の深さを見ると、邪神の圧倒的な力を感じて力の差に絶望。いや、絶望しかけたのだが、ダンジョン神の存在が頭に浮かんだ。絶望するのはまだ早い。
『アキレウスの指輪』に魔力を流し込んで高速戦闘モードに移行する。その状態で邪神の背中側に回り込もうとしたが、邪気刃が飛んで来た。
神剣ヴォルダリルを振って神威飛翔刃で相殺しようとしたが、あっさりと神威飛翔刃が破壊され、そのまま邪気刃が俺に迫って来た。
高速戦闘モードを使って何とか躱し、反撃として『神威迅禍』を発動すると神威エナジーの圧縮貫通弾を撃ち出す。邪神の胸に命中した圧縮貫通弾は邪神の肉体を圧縮して破壊しようとするが、半径五十センチほどの範囲しか抉り取れなかった。
あれくらいの傷だとすぐに再生してしまいそうだ。俺が習得している魔法の中で、もっとも強力なものが『神威迅禍』だったのだが……これが人間の限界だという事か?
攻めあぐねている俺に、邪神が魔法を発動した。一メートルほどの火の玉が邪神の目の前に現れ、それがこちらに向かって飛んで来る。
まだ距離が離れているのに焼け付くような熱気を感じる。バリアや結界では防げないと感じた俺は、『フラッシュムーブ』で避けた。それをあざ笑うかのように、着弾した火の玉が周囲数百メートルを吹き飛ばす威力の爆発を起こした。
爆発で吹き飛ばされた俺は、地面に叩き付けられて全身が悲鳴を上げる。なんとか魔法薬を取り出して飲んだが、重傷となるとすぐには治らない。
「大丈夫か?」
気が付くとブラッドリーが傍に来ていた。言葉を出そうとして代わりに血を吐き出す。
「私の『天翼』で治すから、ジッとしていろ」
身体の中に温かいものが侵入してきて痛みが和らぎ始めた。そして、体内で骨折した箇所の骨が動き、正常な位置に戻って繋がるのを感じる。
邪神の方を見ると、烏天使が戦いを挑んでいた。ダンジョン神はどうなったんだ? ダンジョン神が倒れていた場所に、大きな繭のようなものがあった。俺の視線に気付いたブラッドリーが、情報を持っていた。
「あれは神の種族特有の回復する方法だそうだ。烏天使に聞いた」
ブラッドリーはダンジョン神を躬業で治そうと考えてダンジョン神のところへ行ったらしい。その時に聞いた情報のようだ。
いつの間にか邪卒と戦っていたアヴァロンたちが、邪神の周りに集まっていた。アヴァロンが『デーモンイレイザー』を発動し、邪神に向かって聖光紡錘弾を叩き込んだ。封神剣の力で弱体化しているというのに簡単に聖光紡錘弾を撥ね返した。
それを見た三橋師範が邪神に接近し、滅棍カトヤンガを叩き込むと同時に衝滅波を邪神の体内に放った。だが、それも邪神の膨大な邪気により撥ね返された。
邪神にギロリと睨まれた三橋師範がブルッと身震いして高速戦闘モードで離脱する。邪神の強さを感じたのだろう。
烏天使がダンジョン神が作った槍を邪神に向かって投擲した。槍が音速を超えたせいで衝撃波が発生し、轟音を周りに響かせる。その槍には膨大な神威エナジーが内包しているのを感じる。俺はブラッドリーの治療を受けながら、戦いを見守っていた。
邪神にも槍が内包する神威エナジーが分かったようだ。邪気剣を振るって槍を受け流した。万全な状態の邪神なら身体に受けて撥ね返したかもしれないが、やはり大量の邪気を失って弱くなっている。普通ならチャンスなのだが、弱体化している邪神であっても人間が倒すのは不可能に近い。
俺とブラッドリー以外が邪神に向かって魔法を放った。それぞれの魔法が邪神に命中したが、邪神は平気そうだ。だが、攻撃されたのが不快だったようでゾーッとするような目で戦士たちを見回すと魔法を発動した。
邪神を中心に風が吹き始め、それが渦を巻いて竜巻となる。それが拡大を開始するとアヴァロンたちが後ろに下がり始めた。だが、邪神の近くに居た三橋師範とジョンソンが竜巻に吸い込まれるように引き寄せられて巻き込まれた。
「師範!」
思わず叫んでいた。三橋師範とジョンソンは竜巻により五十メートルほど持ち上げられ、空中に放り投げられた。ジョンソンは気を失っているらしい。そのジョンソンの身体を掴まえた三橋師範は、苦しげな表情を浮かべて『エアバッグ』を使って空中で落下を止める。
だが、その衝撃で三橋師範も気を失い、残り七メートルほどを落下して動かなくなった。
「俺はもう大丈夫だ。二人を頼む」
ブラッドリーにそう言った俺は立ち上がる。
「無理するな」
「行ってくれ」
俺の言葉に押されるようにブラッドリーが駆け出した。まだ邪神の周りで渦巻いている竜巻をチラリと見てから、よろよろと烏天使の傍に向かった。
「ダンジョン神様を復帰させられないのですか?」
【あの状態になった代理神様は、外界から遮断されている。声さえ届かないだろう】
邪神を倒す方法を聞きたかったが、そんな方法が分かっていれば、とっくに指示を出しているはずだ。ブラッドリーに目を向けると、俺が頼んだ三橋師範とジョンソンの治療をしている。
竜巻が収まって邪神の姿が見えるようになった。その邪神が不快そうな目でブラッドリーを見ると、邪気剣を振るった。邪気の刃がブラッドリーに向かって飛ぶ。治療に集中していたブラッドリーは気付くのに遅れた。そして、邪気の刃がブラッドリーの首を刎ねた。
「な!」
それを目撃した俺は瞬間的に頭が沸騰した。そして、目を吊り上げた憤怒の形相で邪神に向かって走り出そうとすると、烏天使が止めた。
【回復していないお前では無理だ】
烏天使がそう言って邪神に向かって走り出す。その後姿から俺では手に入れられない量の神威エナジーに満たされているのを感じた。
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【あとがき】
1/5より新作のSF『ファンタジー銀河』の投稿を始めましたので、よろしければ御覧ください。
場所は:https://kakuyomu.jp/works/16817330669498672030 になります。
ファンタジー風スペースオペラとなっていますので、気楽にお読みください。
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