第1071話 邪神と邪卒王

 他の邪卒から大量の邪気を集めて黒い球体に圧縮したダークセベクは、その黒い球体を俺に向かって撃ち出した。黒い球体には凄まじいエネルギーを秘めていると感じた俺は慌てた。


 急いで神剣ヴォルダリルの神威飛翔刃を飛ばし、黒い球体を迎え撃つ。そして、俺とダークセベクの中間で神威飛翔刃と黒い球体が交差し、大爆発が起きた。


「ヤバイ」

 その爆発は危険だと感じて『神威結界』を発動し、周囲に神威エナジーの結界を展開する。『マナバリア』や『ハイパーバリア』では防ぎきれないと判断して『神威結界』を選択した。


 『神威結界』は強力なのだが、神威エナジーを大量に使うので攻撃に神威エナジーを使えなくなる。その欠点があるので、『神威結界』はあまり使わなかったのだが、今回はそんな事を気にする余裕がなかった。


『今の爆発で、ダークセベクが吹き飛ばされたようです』

 予想外に近い場所で爆発が起きたので、ダークセベクは爆風に耐えられなかった。木の葉のように宙を舞ったダークセベクが地面に叩き付けられる。


 とは言え、この程度で死ぬようなダークセベクではない。ゾンビのようにゆらりと立ち上がったダークセベクが、また両手を上げた。


「同じ攻撃が通用すると思うなよ」

 俺は『神威結界』を解除すると、『スキップキャノン』を発動し、ダークセベクをロックオンしてスキップ砲弾を放った。途中で亜空間に消えたスキップ砲弾が、ダークセベクの体内に飛び出して爆発する。


 ダークセベクが動きを止めていたので、狙いは完璧。ダークセベクの心臓を破壊して仕留めた。三橋師範の方を見ると、凄い勢いで黒武者の数を減らしている。問題なさそうだ。ジョンソンを探すと、邪卒王に苦戦していた。


 ジョンソンが邪卒王を倒すには、生活魔法の『クーリングボム』を急所に撃ち込まないとダメだ。だが、邪卒王はそれを知っているかのように、ジョンソンが『クーリングボム』を発動すると激しく動き出す。動く事で狙いが外れると分かったようだ。


 その邪卒王がジョンソンを無視して邪神のところへ向かった。それも必死の全力疾走である。邪卒王は体重も重く走るのに適した体ではない。それに邪卒王の前足は不器用そうで、封神剣を掴む事はできないだろう。何をするつもりだ、と疑問に思った。


「メティス、あの邪卒王は何をするつもりだと思う?」

『分かりませんが、邪神を助けようとしているのは確実です。早めに仕留めた方がいいでしょう』

「そうだな」


 俺はジョンソンに近付いて協力すると申し出た。

「ありがたい。こいつがやけに動き回るので仕留めるのに苦労していたんだ」

「そうみたいですね。まず足を攻撃して動きを止めませんか」

 俺の提案をジョンソンは受け入れた。


 俺たちは邪卒王の後ろ足を狙って攻撃した。二人とも『ホーリーファントム』のホーリー幻影弾を撃ち込む。一発ではダメだったが、二発目で邪卒王の後ろ足がズタズタになって動かなくなった。


 後ろ足が使えなくなった邪卒王が、前足だけで邪神に近付く。

「あれは必死すぎる。邪神を助ける方法を持っているのだろうか?」

 ジョンソンが疑問を口にした。

「だったら、早く仕留めなければ。同時に『ホーリーメテオ』で攻撃。ジョンソンさんは胸、俺は頭を狙う。どうです?」


「了解した」

 俺とジョンソンは『ホーリーメテオ』を発動した。上空に聖爆隕石弾が形成されて落下を始める。邪卒王が上に目を向けて大口を開ける。そして、火の玉を打ち上げた。頭を狙った聖爆隕石弾と火の玉が衝突し、爆発した。ジョンソンの聖爆隕石弾は邪卒王の脇腹付近に命中してダメージを与えた。


 そのダメージは致命傷にはならない。だが、迎撃された俺の聖爆隕石弾よりはマシだ。邪卒王は脇腹から大量の血を流しながら必死で邪神へ近付く。


 俺たちがそれを阻止しようと次の魔法を準備していた時、邪卒王がもう一度上に向けて火の玉を打ち上げる。


「えっ、なぜだ?」

 意味が分からなかった。上空に聖爆隕石弾はなく、無駄に火の玉を打ち上げたように見えたのだ。だが、この火の玉はヒュルヒュルと上昇し、二百メートルほどの高度に達すると、花火のように爆発して小さな紫色の火の玉になると地面に向かって降り注ぐ。


「ジョンソン」

 俺はジョンソンを呼び寄せてから『神威結界』を展開した。その結界に紫色の火の玉が雨のように降り注ぐ。その火の玉が地面の雑草の上に落ち、一瞬で雑草を枯らした。


「……これは毒なのか?」

 ジョンソンが青い顔をして声を上げる。

「たぶん邪気を物質化したものだと思います。触れたら身体が腐るくらい強烈な毒ですね」

 俺も顔を強張らせていた。幸いにも神威エナジーで作られた結界は邪気を弾き飛ばすので、中に居る俺たちに害はない。


 但し、その間は邪卒王が自由になってしまった。邪卒王は邪神に近付くと飛び掛かった。

「はあっ!」

 驚いたので思わず声を上げてしまう。

「あいつ、邪神に何するんだ?」

 ジョンソンが声を上げた直後、邪卒王が邪神の胸に噛み付いた。


「しまった。封神剣を邪神の肉ごと取り除くつもりだ」

 邪卒王は封印石が発する光を浴びて苦しそうだ。だが、強力な顎で邪神の肉ごと封神剣を除去した。そのせいで封神剣は邪卒王から邪気を吸い込み始め、大量の魔力を放出する。邪卒王は邪気を吸い取られてしぼみ、ミイラのようになっていく。


 一方、邪気を吸い取られなくなった邪神の肉体が再生を始める。半分だけだった脳が再生し、大きなクレーターとなった胸の傷口から肉が盛り上がって再生していく。


 それだけではない。邪神の巨体が縮み始めた。封神剣により膨大な邪気を吸い取られた邪神は、巨体を維持できなくなっていたのだ。縮み始めた肉体は六分の一ほどに縮んだ。


―――――――――――――――――

【あとがき】

昨日より新作のSF『ファンタジー銀河』の投稿を始めますので、よろしくお願いします。

場所は:https://kakuyomu.jp/works/16817330669498672030 になります。

ファンタジー風スペースオペラとなっていますので、気楽にお読みください。

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