乱歩のまなざし

作者 飯田太朗

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★★★ Excellent!!!

人が生きている。ほとんど名前しか出てこないような人達でもどんな人なのかが見える。
物語と言うか、一時的に主人公に憑依して人生の1部を眺めさせてもらった、そんな感覚。
ボクはまだ高校生で卒業論文どころか大学入試すらまだ先の事みたいに捉えているはずなのに物語に合わせて焦ったり落ち込んだり励まされたりを自分の物と捉えていた。

そして心を揺さぶられるセリフは多分自分が求めている言葉なんだと思った。
いつの間にか自分も知らなかった心の窓を覗き見していた。
読んでよかったと本気で思える。

一言で言うと面白い。

★★★ Excellent!!!

江戸川乱歩という作家を心理学的な視点で研究したら、いったい何が見えるのか。
この一見ミスマッチとも思えるテーマで卒論を書くことになった女子大生のお話です。

キーワードは、タイトルにもある『まなざし』。
乱歩の作品には『覗き見』のシーンが多く登場する。それはなぜなのか。
文学部の主人公は、心理学部のイケメン准教授のアドバイスを得て、その謎を掘り下げていきます。

専門的な用語や論理も、軽妙な会話の応酬の中で説明がなされるので、すっと頭に入ってきます。
就活や卒論で自分の意思を見失いかけた主人公が、学問の面白さに目覚める。その心の動きが実に自然で、深く共感しました。

卒論発表のシーンは、まさに圧巻!
作品の中に隠された作家の心を、如何に読み解くのか。
こんな視点があったなんて!と、鮮烈な驚きと凄まじい納得感がありました。

知識を得ることで、世界の解析度が上がる。
それを体感できるという、稀有な読書体験でした。
とても面白かったです!

★★★ Excellent!!!

【物語は】
大学三年となり、主人公がスーツを必要とするところから始まっていく。その中で、主人公がスカートを好まないことや、少しおっとりした性格であることが分かって来る。友人とのやり取りの中では、少しズレているのだろうかというところが面白い。それだけではなく、自由とは何か?という事について考えさせられる場面も。これから卒業に向けて何をしなければいけないのか、主人公が自覚するところから物語は展開されていくようである。

【物語の魅力】
この物語には、話ごとに教訓などが含まれているように感じる。例えば一話は”自由とは?”二話は”女性とお金”。しかも話の流れがとても自然で面白く、なるほどと納得する流れでもある。その前置きは、後の話に滑らかに続いていく。とても読者の心を掴む作品であると感じた。読みやすい文体であるし、すっと入って来る文章でもある。

少しおっとりした主人公とは対象に、友人の鋭いツッコミも面白いところだ。この二人のやり取りは、声を出して笑ってしまうほど。会話がナチュラルだからこそ面白いのだと思う。会話の内容も興味の惹かれるものである。流れる様な会話にはセンスを感じる。読者を惹きつけるには充分だ。女子大のイメージ(多様性はあるとは思うが)とはこんな感じであるという部分にも、共感が持てる。

【登場人物の魅力】
会話の内容が引き立つ登場人物たちである。主人公の、少しおっとりしているが慎重なところ。友人の冷静にツッコむ部分。母の娘のことはよく理解しているのよ、と感じる部分など。強い個性を持っているようには感じないが、巧くバランスがとれており、物語の良さを引き出している。突飛さではなく、自分の周りにもいそうな女性たちだからこそ共感を持てたり、こういう子いるよね、と親近感が沸いたりする。この物語はオリジナリティはあるものの、身近に良そうなタイプの人が出てくることにより、より現実… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

 タイトルにもあったので、乱歩作品を読んでいないとわからないかもという不安がありましたが、未読でも全く問題なし!という事を、まず。
 もしそれを気にして読んでいない方がいらっしゃったら、ご安心下さい。私は少年探偵団のシリーズしか読んでないけど、大丈夫でした。

 「私」視点の、「私」の物語。
 女子大生の、リアリティある心情と、学生生活、人間関係。
 ジャンルはミステリーになっているけど、人間ドラマに感じられました。「私」のドラマ。
 
 文学の話かと思いきや、心理学についての内容が濃密で、読み終えると色々な知見が得られている点も一読をお勧めできる部分ですが、これら一見、難しそうで尻込みしてしまう要素に見えて、それが面白さに転換されているという。

 作者の文体、構成、表現が秀逸。馴染のない理論や用語がわかる、すらすらと。
 最初は軽く読もうと思って、まず各話の最初の二行、最後の二行だけを見たのですが、その間が読みたくて仕方なくなりまして。

 全部読みたい。
 
 この引力をどう表現したらいいのか。

 難しそうで、自分に合わないかも?と思われるなら、まず私と同様に最初と最後の二行を読んでみて欲しいです。間違いなく、全文読みたくなります。

「私」のキャラも、准教授の名木橋のキャラも、とても印象と記憶に残る人物像で、各話でいろいろと、心揺さぶられます。最初に人間ドラマと書きましたが、強いてミステリー感を感じたのは名木橋という人物ですね。カッコイイけど、存在が何気に謎めいているというか……。
 熱く感想を語れる要素が多いので、この作品レビューを書く人は、自然と長文になる点でも、色々とお察しください。

★★★ Excellent!!!

タイトルの通り、江戸川乱歩をテーマにした卒論に挑む女子大学生の「私」。

大学生活を経験したことのないですけど、とても読みやすかったです。
語り手の「私」の性格のおかげでしょうか。もちろん、作者の描写力があってこそですけども。
「私」のあけすけな本音や、行動力、観察力といったものが、リアリティをもって綴られているので、作中で「私」が覗き見する乱歩の小説の登場人物を介して小説の世界を覗き見しているように、読者のわたしたちも、彼女の奮闘を覗き見しているような読書体験を与ええくれます。
「私」の奮闘ぶりを見守っているうちに、彼女が向き合う「まなざし」は、乱歩の小説の中だけでなく日常のどこにでも溢れていることに気がつくでしょう。

最後まで読み終わってから、イケメンの名木橋先生からアドバイスを与えられる前から、「乱歩のまなざし」は「私」のためにある課題だったのだと静かな驚きとともに気がつかされました。

江戸川乱歩が好きな人はもちろん、名前だけしか知らないという人も、ぜひ読んでほしいです。

★★★ Excellent!!!

この主人公、めちゃくちゃ俗っぽい!
本を読み続ける起点は人それぞれだと思いますが、、
私の場合は主人公が好きになれるか否か、この一点に尽きます。
そして俗っぽいと称した「乱歩のまなざし」の主人公「私」ですが、
この人は好き、と頷くに十分過ぎる魅力を備えています。

本作は「私」が視点になる一人称の小説です。
お金欲しさに主人公が応募した怪しげなバイトに端を発し、
卒業論文に奮闘(?)する様が描かれていきます。

「私」の心情が駄々漏れの物語では、
子供と大人の狭間に揺れる欲望に塗れた本音や、
読んでいて思わず、死ね男子、と叫びたくなるようなあるある話、
バイト先で登場するデリカシーのないイケメンへの感情に爆笑し、
お父さんとのやり取りでは胸を暖かくさせてくれるなど、
大学生のリアルな現代ドラマとしてもお勧めです。

そしてタイトルになっている乱歩といえば、江戸川乱歩。
ミステリー小説界のレジェンドですが、
本作のミステリーはレビューを書いている2021/2/27現在、
殺人はおろか、あからさまな事件が起きるわけでもありません。
主人公の視点が日常のなかに謎を見つけ出し、
そこに興味と理解で踏み込んでいくようなお話に見受けられます。
ここで重要になるのが、乱歩のまなざし、というタイトルです。

江戸川乱歩が好きな方なら、
このタイトルの意味が作中で示されたとき、
なるほどね、と思わず手を打つのではないでしょうか。
私は、ああ確かに、と思うと同時に、
この題材に取り組む姿勢を見せた「私」がもっと好きになりました。

ミステリーが好きな方は、
初野晴や米澤穂信に代表される日常の謎というジャンルに、
こういう話の作りもあるんだ、と唸らせると思います。

普段はミステリーなんて読まないよという方には、
難しいことは考えずに、リアルな大学生の「私」が紡ぐ物語を楽しめば、
いつの間にか… 続きを読む