江戸川乱歩という作家を心理学的な視点で研究したら、いったい何が見えるのか。
この一見ミスマッチとも思えるテーマで卒論を書くことになった女子大生のお話です。
キーワードは、タイトルにもある『まなざし』。
乱歩の作品には『覗き見』のシーンが多く登場する。それはなぜなのか。
文学部の主人公は、心理学部のイケメン准教授のアドバイスを得て、その謎を掘り下げていきます。
専門的な用語や論理も、軽妙な会話の応酬の中で説明がなされるので、すっと頭に入ってきます。
就活や卒論で自分の意思を見失いかけた主人公が、学問の面白さに目覚める。その心の動きが実に自然で、深く共感しました。
卒論発表のシーンは、まさに圧巻!
作品の中に隠された作家の心を、如何に読み解くのか。
こんな視点があったなんて!と、鮮烈な驚きと凄まじい納得感がありました。
知識を得ることで、世界の解析度が上がる。
それを体感できるという、稀有な読書体験でした。
とても面白かったです!
タイトルにもあったので、乱歩作品を読んでいないとわからないかもという不安がありましたが、未読でも全く問題なし!という事を、まず。
もしそれを気にして読んでいない方がいらっしゃったら、ご安心下さい。私は少年探偵団のシリーズしか読んでないけど、大丈夫でした。
「私」視点の、「私」の物語。
女子大生の、リアリティある心情と、学生生活、人間関係。
ジャンルはミステリーになっているけど、人間ドラマに感じられました。「私」のドラマ。
文学の話かと思いきや、心理学についての内容が濃密で、読み終えると色々な知見が得られている点も一読をお勧めできる部分ですが、これら一見、難しそうで尻込みしてしまう要素に見えて、それが面白さに転換されているという。
作者の文体、構成、表現が秀逸。馴染のない理論や用語がわかる、すらすらと。
最初は軽く読もうと思って、まず各話の最初の二行、最後の二行だけを見たのですが、その間が読みたくて仕方なくなりまして。
全部読みたい。
この引力をどう表現したらいいのか。
難しそうで、自分に合わないかも?と思われるなら、まず私と同様に最初と最後の二行を読んでみて欲しいです。間違いなく、全文読みたくなります。
「私」のキャラも、准教授の名木橋のキャラも、とても印象と記憶に残る人物像で、各話でいろいろと、心揺さぶられます。最初に人間ドラマと書きましたが、強いてミステリー感を感じたのは名木橋という人物ですね。カッコイイけど、存在が何気に謎めいているというか……。
熱く感想を語れる要素が多いので、この作品レビューを書く人は、自然と長文になる点でも、色々とお察しください。
タイトルの通り、江戸川乱歩をテーマにした卒論に挑む女子大学生の「私」。
大学生活を経験したことのないですけど、とても読みやすかったです。
語り手の「私」の性格のおかげでしょうか。もちろん、作者の描写力があってこそですけども。
「私」のあけすけな本音や、行動力、観察力といったものが、リアリティをもって綴られているので、作中で「私」が覗き見する乱歩の小説の登場人物を介して小説の世界を覗き見しているように、読者のわたしたちも、彼女の奮闘を覗き見しているような読書体験を与ええくれます。
「私」の奮闘ぶりを見守っているうちに、彼女が向き合う「まなざし」は、乱歩の小説の中だけでなく日常のどこにでも溢れていることに気がつくでしょう。
最後まで読み終わってから、イケメンの名木橋先生からアドバイスを与えられる前から、「乱歩のまなざし」は「私」のためにある課題だったのだと静かな驚きとともに気がつかされました。
江戸川乱歩が好きな人はもちろん、名前だけしか知らないという人も、ぜひ読んでほしいです。