第3話
その後、郵便局本部の救助隊がやってきてイェスタフさんは無事に救助された。
救助用の翼竜はフォルフィッタたちよりも一回りも二回りも大きくてまるで何でも運べそうな見た目をしていた。毛布にくるまれたぼくもその翼竜に乗せてもらった。
この竜はぼくの町どころかこの地域自体に一体しかいないらしく、とても大切にされているらしい。遠くの地から迷い込んだ個体の子供らしい。
フォルフィッタはその竜の後ろをついていっていた。疲れているのか、普段よりも羽ばたきは弱々しく見えた。しかし頑張ってぼくらの後ろをついてきてくれた。
ぼくは元気になるまで何日か郵便局の本部のそばの病院で休むことになった。お父さんとお母さんにはそのことを連絡してくれたらしい。
郵便局の本部はぼくの住んでいる町から離れたところにあるから、帰るためには元気が必要だ。どうやらぼくは低体温?のせいで危ないところだったらしい。傷もたくさんあったらしい。
イェスタフさんも病院で治療することになった。
どうしてああなったのかと聞くと、いつものように空を飛んでいると乱気流に巻き込まれてうっかり落ちてしまったらしい。イェスタフさんでさえそんな失敗をするんだと考えるとぼくはゾッとした。
そしてイェスタフさんが仕事に戻るには短くて半年、長くて一年かかるらしかった。
「配達人は諦めるか?」
話を聞いて顔を青くしているぼくを見て、ベッドの上のイェスタフさんは聞いてきた。危険な目に合わせたくないという気持ちもあったんだろう。
でもぼくの気持ちは決まっていた。
「絶対に配達人になる」
*
ぼくが町に帰ると、ぼくとフォルフィッタはすっかり仲良しになっていた。会話をしたり、なでたりするのはいつものことになっていた。何なら町に帰るためにもフォルフィッタに乗ったぐらいだった。
フォルフィッタは郵便局の本部で静かに過ごすのが嫌らしく、毎日のようにぼくの家まで飛んできた。さすがに正式な試験を受けるまでは乗らないことにはしたが、きのみをあげたりなでたり話しかけたりはしていた。
はじめこそお母さんもハラハラとしながら見ていたが、実際にぼくもフォルフィッタが仲良くしている様子を見ているとだんだん安心してくれたようだった。むしろフォルフィッタにぼくのおもりを頼むようになっていた。フォルフィッタは「任されました」と言わんばかりにきゅいと鳴いた。
そして半年が経ってイェスタフさんも元気になるとフォルフィッタは仕事に戻った。
その頃にぼくは郵便局から「配達人の訓練を受けないか」とお誘いの手紙を受け取った。ぼくがやったことは色んな意味で話題になり、その結果ぜひともぼくのことを郵便局に所属させたいということだった。
イェスタフさんは無言でその手紙をぼくに渡した。フォルフィッタは丸い赤い目でじっとぼくのことを見ていた。
ぼくはあの日のことを思い出した。
寒かった。痛かった。
でも空はとても心地よかったし、イェスタフさんのことを助けられた。フォルフィッタとも仲良くなれた。
だから。
*
僕の乗る翼竜はきらきらひかる緑色の鱗に包まれている。名前は
ジュエフィッタは構われることが大好きで、何かあるたびに「きゅい」と鳴く。多分世界で一番うるさい翼竜だろう。
配達のために真っ青な空を飛んでいると、隣に同じ緑色の翼竜が並んでくる。そして「きゅい」と話しかけてきた。
「元気にしてたか、フォルフィッタ」
フォルフィッタは一回大きく翼を羽ばたかせた。ジュエフィッタも同じように翼を羽ばたかせた。
僕とイェスタフさんは顔を見合わせて笑った。そしてお互いの目的地へと向かい始めた。
緑の一陣の風 シメ @koihakoihakoi
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