本編をお読みになられた方へ
「先生、この『利器を手にした迷子』を読んだのですが、全く意味が分かりませんでした。」
「皆、口を揃えてそう言います。作者の独りよがりな作品なのだから仕方がないのかもしれません。
ですが、貴方はこの作品を最後まで読んでくださいました。それ自体が大変優れた事です。遠い作者も大喜びしているでしょう。」
「先生、頭を下げないでください。その役目は作者が行うべきはずのものです。
そして先生、それでは作者だけが報われて、読んだ私は疑問を頭に無理矢理植え付けられ悶々とするだけです。先生の役目を行ってください。」
「分かりました。では、ヒントとしていくつかの質問お渡ししましょう。
まず一つ。この作品に出てくる『鍵』は”キー”アイテムではありますが、本物の”鍵”ではありません。」
「最後の段落で『鍵』は『私』に刺さりましたね。あそこで思考が弾け飛びました。先生、その『鍵』は何ですか?」
「題名にも含まれている単語、利器の意味をご存知ならば検討がつくと思います。」
「利器?‥分かりません。調べてみます。」
「高尚な方だ。この作品における利器の意味を掴んだのなら、読み返してみるのも良いかもしれません。その際登場動物の台詞をよく見てみるのも面白いと思います。
ああ、そういえばこの作品に登場した動物は何体か分かりましたか?」
「ええと、出てきたのは『私』、カラス、ヒツジ、ヘビ、だから四?」
「ああ、そう思えますよね。実はこの作品には三体しか出ていません。」
「え、どういうことですか、先生。」
「『私』は三体の動物と出会いますが、一体だけ別れ方が変な動物がいませんでしたか?
そして、その動物だけ随分と『私』の境界、プライバシー的な範囲に入り込んでくる。
まるで、他人には言えない、自分にしか言えないような言葉を投げかけてくる動物。
ソイツと『私』の関係、状態が分かれば、登場の動物が三体である理由がわかるとおもいます。
ソイツと『私』はどこで、どう出会って、どのようにソイツは消えましたか?
『私』がソイツを見る際、同時にある物を見ました。
それはどこで見て、そしてソイツが消えた後『私』がまたそのある物を見る時には、どこで見ましたか?
『私』とソイツの向かい合わせの関係、『私』が見つめればソイツも当然『私』を見て、ソイツがある手を伸ばせば『私』も当然ある手を伸ばす、これは至極道理なことですよね?」
「先生、落ち着いてください。何か不気味です。この作品のヒツジみたいで、気持ち悪いです。」
「ウフフ、失礼しました。貴方は正しい感性をお持ちですね。素晴らしい。
ちなみにソイツの状態、率直に言えば見た目が分かれば、必然的に『私』の事も分かるはずです。
なぜ『私』が居場所を失い、こんなにも夜を恐れている事も、もしかしたら想像できるかもしれません。
そして、動物達のモチーフを調べるのも読み解く上での一つの手がかりでしょう。
登場した動物三体は、キリスト教においてそれぞれイメージがあります。
それを踏まえれば題名の意図も汲み取れるはずです。”何”を手にした”誰”かをね。」
「面倒な作品ですね先生。教科書的安眠に繋がるという意味が分かります。昔やった[山椒魚]とか[赤い繭]を思い出します。」
「ええ、安部公房さんの[赤い繭]をオマージュした作品ですから。読み進める内に貴方も『私』も眠りについてしまいますね。
本当に手間暇がかかる作品です。文章自体10分足らずで読めるのに、読み終わると意味が分からない。その解決の為に、作者の細かいチメチメとした描写等を拾いにもう一度読み返す。
ああ、作者の言い回しが何とも憎ったらしい。
はっきりとは言わずに、遠回しの伝え方。
ペタペタと本質の表面だけを触るような。──────私達もその内でしょうか?」
「はい、そのとおりです、先生。」
利器を手にした迷子 ぬえべ @oishiine29
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます