最終話 恥ずかしくない涙
「まさか本当の本当に家族になる日が来るなんて、あの頃は思ってもみなかったよな」
「流石にあの頃は想像してなかったわね」
大扉の前で、俺たちは昔を懐かしみながら会話をしている。
「じゃあどの頃は想像してたんだろうな」
「う、うるさい」
本番当日になればもっと緊張するかと思っていたが、意外と緊張しないもので俺は自分の横にいる花嫁との会話を楽しんでいた。
「……なあ莉愛、幸せか?」
「当たり前でしょ。陽子さんにベールダウンをしてもらって、隆之さんと一緒にヴァージンロードを歩く。こんな幸せな家庭に嫁げるお嫁さん中々いないんだから」
昔よりも少しだけ素直になった莉愛は、昔からずっと、いや、昔よりもずっと可愛くて魅力的な女性になっている。
こうして俺の横で莉愛が笑顔を見せているなんて、俺と莉愛が仲違いをしていた頃の俺に言っても信用しないだろうな。
「一番幸せなのは俺と結婚できることだろ?」
「そうね。それは間違いないわ」
「--っ。本当、変わったよな。莉愛は」
「何にも変わってないわよ。昔からずっと藍斗が好きだってこともね」
素直になった莉愛からの思わぬ口撃に俺は顔を紅潮させた。
「……そうか。まあじゃあ先に行くから。ゆっくり歩いて来いよ。莉愛ならドレスを踏んでこけるなんてこともありそうだからな」
平然を装いながら冗談混じりに会話をしているが、俺の目じりは熱くなっていた。
母さんがベールダウンをして父さんが一緒にヴァージンロードを歩くとはいえ、本音を言えば莉愛の花嫁姿を羽実子さんやお義父さんに見てほしかったし、ベールダウンをするのも、ヴァージンロードを歩くのも、実際の両親にお願いしたかった。
もし死後の世界なんて物が存在するのなら、せめて莉愛の姿をどこかで見守ることができていてほしい。
「バカ。こけるわけないでしょ」
「どうだか。じゃあ、先行くからな」
「うん。いってらっしゃい」
時間が経過していくのは早いものだ。
昔は漠然と莉愛とはいつか結婚して本当の家族になるのだろうと思っていたが、それが今まさに現実のものとなっている。
きっと俺たちが本物の家族になったこの先の時間も、予想以上にあっという間に過ぎていくのだろう。
そんなことを考えている間に大扉が開き、俺は目の前の1本道を歩いていく。
ヴァージンロードの両端には俺たちより早く結婚した瀬下とくるみ、そして俺たちの学校生活になくてはならない存在となっていた金尾と小波が座っており、全員涙を流している。
涙を流すのはせめて莉愛が登場してからにしてほしいもんだ。
仲間たちが祝福を与えてくれる中、これまでの人生を思い出しながら歩いていく。
これまでの人生、紆余曲折あったと思うが結局は何があってもこのゴールに辿り着いたのではないかと思う。根拠はないがなぜかそう強く確信できる。
そしてそのゴールに辿り着いた時、俺は必ずこうしてヴァージンロードを歩きながら涙を流すのだろう。
その涙を羞恥心から隠すことはなく、前を向いて堂々と歩き続けた。
この涙は誰かに見られて恥ずかしいものではない。
この涙こそが、俺と莉愛が二人で歩んできた証なのだから。
幼馴染は天涯孤独 〜俺のことが嫌いな幼馴染がやたらと俺に擦り寄ってくる〜 穂村大樹(ほむら だいじゅ) @homhom_d
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