第114話 遅すぎる
翌朝、俺は大きな物音で目を覚ました。
まだ寝起きで視界は霞んでいるが、朝から家の中で大きな物音などしたことがないので何事かと目を擦ると、俺の部屋の中に飯崎が入ってきていた。
「……ふわぁ……って飯崎⁉ なんで俺の部屋に⁉」
寝起きでまだ頭が起きておらず、なぜ朝起きたら俺の部屋に飯崎が侵入してきているのか状況を把握することができない。
「なんでじゃないわよ! バカ! なんで、なんで……」
ただでさえ飯崎が部屋に侵入してきて頭が混乱しているというのに、飯崎の声は震え始め涙を流し始めてしまった。
「え、ど、どうした飯崎? な、なんで泣いてるんだ⁉」
泣いている飯崎の前であたふたしながら飯崎が泣いている原因を考える。
頭が寝ぼけていたせいで思い出すまで時間がかかったが、飯崎が泣いている原因は俺が昨夜見つけてきた筆箱だということを理解した。
昨日、帰宅してきた俺は自分の部屋で飯崎の筆箱を大切に保管しておこうかと思ったのだが、せっかくなら飯崎の枕元に筆箱を置いておいて驚かせてやろうと考えたのだ。
クリスマスでもないのにクリスマスプレゼントのような渡し方にはなるが、少々サプライズがあっても面白いだろうと思った。
「なんで、なんであんたはそんなに私に優しくするの? やっぱり家族だから?」
飯崎の言う通り、家族だから飯崎に優しくしたいし大切にしたいという気持ちはもちろんある。
しかし、俺が飯崎に対して抱いている気持ちは家族に対して向ける気持ちだけではない。
昔の俺なら飯崎に優しくする理由を問われても答えることができなかっただろう。
しかし、もうその理由を隠す必要も、恥ずかしがる必要もない。
「そうだな。家族なんだから、優しくするのは当たり前だろ」
「……そうよね。家族だものね」
「でもさ、家族だから優しくするって理由以外にも理由があったらダメって決まりはないだろ?」
「……え? それってどういう……」
「俺は家族として飯崎が好きだ。でもそれ以上に、1人の女の子として、飯崎が好きだ。大好きだ」
この一言を、たった一言を伝えるために俺はどれだけ時間をかけてしまったのだろうか。
あまりにも時間をかけてしまったが、これまでの時間に意味がなかったとは思わない。
今まで散々自分の気持ちに気付かずひた隠しにしてきた俺だったが、なぜか今は驚くほどスラスラと本当の気持ちを話すことができる。
「なっ、え、あ、あの、その……」
「飯崎はどうなんだ?」
俺の告白に驚いた様子の飯崎は動揺を隠せていなかったが、しばらくしてから俺の質問に対して返答した。
「……遅い」
「……へ? なんだって?」
「遅すぎるわよ‼︎」
「ちょ、飯崎⁉︎」
俺の告白に対しての回答をするよりも先に、飯崎は俺に抱きついてきた。
「私もアンタが好き。大好き。ずーっと前から」
「……お前だって遅すぎるじゃねぇかよ」
まだ朝日が顔を出したばかりで眩しい光が差し込む中、俺たちはお互いパジャマ姿で抱きついておりムードもへったくれもない。
しかし、これはこれで今まで同じ家で同じ時間を過ごし、生活を共にしてきた俺たちらしくていいのではないかと思いながら飯崎を優しく抱きしめていた。
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