第113話 素直になれるとき

 日付を跨いでいることもあり人通りの殆どない真っ暗な道を1人歩いて到着したのはくるみの家だ。


 同居中の瀬下はどうやらもう眠っているらしい。


「いらっしゃい」

「いらっしゃいじゃねえよ。本当にあるんだろうな」

「もちろんだよ。いい品揃ってますぜ」


 胡散臭さ満載のくるみの話し方のせいで、本当に俺が探し求めている物があるのかどうか若干不安になるが、くるみは机の上に置いてあった物を差し出してきた。


「お探しの品はこちらでしょうか」


「……これだ。これを探してたんだよ」


 俺は財宝を見つけた海賊のように飯崎の筆箱を両手で持ち天に掲げた。


 そして筆箱の中身を確認し、飯崎が言っていた大切なペンが入っていることを確認する。


「ほら、大事なものが見つかったんでしょ? お礼の言葉とかないの?」


 得意げにそう話すくるみの頭を俺は少し強めに小突いた。


「レ、レディになにするの!」


「お前が間違えて持ち込んでたんだろ」


「……ごめんなさい」


 素直に謝るくるみがいたずらをして親に怒られる子供の様で少し笑いがこぼれた。

 

 どうやらくるみは飯崎の筆箱を自分の物と勘違いして鞄の中にしまってしまったらしい。

 

 間違えて持って帰った事に気が付いていながらなぜ連絡しなかったのかと問い詰めたくなったが、大事な物が入っていると知らなければたかが筆箱くらい翌日に返せば十分だと考えるのが普通の価値観なのでくるみを攻める気にはならなかった。


「まあ見つかってよかったわ」


「大事なものだったんだね」


「ああ。命と同じくらい大事と言っても過言ではないな。まあ失くした本人にも責任はあるから、くるみのせいってわけじゃねぇよ」


「そうだよ。そんなに大事ならなくさないようにもっと管理を徹底してほしいもんだよ……ってイタッ⁉︎」


 こちらが下手に出たところで調子に乗りそうだったくるみの頭を俺はさらに小突いた。


「調子に乗るな。……まあくるみが持っててよかったわ。どこかで落としたとかだったらどうしようもないからな」


「ならよかった」


「じゃ、もう遅いし帰るわ。遅くにすまん」


「全然大丈夫。……天井くん、莉愛ちゃんのこと好きでしょ?」


「急になんだよその質問は」


「いや、なんか今なら素直に答えてくれそうな気がしたから」


「……さあ、どうだろうな。まあまず間違いなく、家族として好きなのは事実だろうな」


「まあそう言えるようになっただけでも前進したってことにしておくよ」


「俺にとっちゃ大きな進歩だ」


 くるみからの質問に対していつもの様に、そんなわけないだろ、と答えるのは簡単だ。

 しかし、なぜか今日は素直な気持ちが心の奥底から流れ出す様に出てきた。


 なぜその言葉が素直に出てきたのかは分からないままだが、俺は筆箱を大切に抱き抱えながらながらくるみの家を飛び出して、急いで自宅へ向かって走り出した。

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