――おまけ読み切り
【読み切り】シチュエーション・ギルド
【#1 出会い】
店の前でうつ伏せで倒れている異物を発見した。
炎のような赤い髪。穴があき、砂埃がついている、袖や丈が半分程の黒いローブ。
見える白い細腕。腰に巻き付けた小さなバッグ。ショートパンツから伸びる真っ白な生足。
旅人? 商人? 冒険者? どれだとしても軽装過ぎる気もするが。
髪の上から押さえつけるように巻かれた黒いヘアバンド。
髪質なのか汚れたせいなのかは分からないが、トゲトゲしている髪だった。
手入れをしないような大雑把な性格なのかもしれない。
女の子。
女性として膨らむべきところが膨らんでいない、スレンダーな体型。
14か15歳くらいの女の子が倒れていた。
ここ【冒険者通り】は、その名の通りに基本、冒険者しか通る事がない。
しかも俺が店を構えているこの場所は、冒険者通りの中でも一番端にある。
すぐ側には入口兼出口があるのだが、しかし出る場所があまりよろしくない。
なので出口としても入口としても使う人はあまりいないのだ。
こんな場所で倒れても、見つけてもらえる確率は物凄く低い。今回はたまたま、俺が見つける事ができたが。とは言え、俺がこれを拾う義理もない。
このまま店に戻って知らんぷりをしていてもいいのだ。
だが、ずっとここに放置しておくのも営業に支障が出る。
本当はあまり拾いたくなかった。厄介な事を抱えている、嫌な感じがしたからだ。
「…………仕方ないな」
まあ、放置していようが営業に支障が出る事はないのだけど。
やる事もなく、ただぼーっとこれからの事を考えているよりは、たとえ厄介な事情を抱えていそうな迷える少女だろうと、話してみるだけでも有意義な時間になりそうだ。
意識があるかどうか、女の子の肩をつんつんと叩くと、
ぐぅぅぅぅぅぅうううううんっっ!!
と。
徐々に盛り上がっていく腹の虫が、空腹を主張した。
「う、ううー」
女の子の声がした。どうやら起きているらしい。
「なんだよ、腹が減ってんのか?」
「た、食べ物を……。
もしもなかったら、お金を落としてくれれば、それで勝手に食事を済ませるから……」
「意外に余裕があるじゃねえか」
倒れる程の空腹ではないのかもしれない。
とりあえず、店に戻り、一口サイズの小さな肉を女の子の目の前に置く。
匂いを嗅ぎ取った女の子が素早く片手でその肉を奪い去った。
ひまわりの種をかじるハムスターみたいに、がじがじと噛みつき、骨まで砕き、飲み込む。
俺は等間隔で肉を一つずつ置いていく。
今と同じように肉を素早く食べていく女の子は肉を辿り、店の中へ。
そしてカウンター席のテーブルに置いた最後に肉を取り、そのまま椅子に座った。
俺と向き合う形になる。
「ごちそうさまでした!」
ぷはー! と息を吐く。しかしすぐに人差し指を口元に持っていき、自分の指をがじがじと噛み始めた。そして上目遣いで俺の顔を見つめてくる。
うるうる、と潤んでいる瞳からの訴えを、俺は無下にできなかった。
「分かったよ! なんか作るから待ってろ!」
わーい、やったー! と無邪気に喜ぶ女の子。
初対面のはずだよな……? 死活問題だからかもしれないけど、よくもまあここまでがつがつこれるものだ。そして、それを嫌とも思っていない自分に驚きだった。
この女の子は、どんな種族とでも友達になれるような魔法の『
「いやー、助かったよ、ありがとね!」
「そんな男料理で満足してくれたら、こっちも嬉しいけど」
肉と野菜を炒めて秘伝のタレをかけただけだ。ほぼ、タレの味だ。
手間をまったくかけていない、インスタントラーメン並に、料理と言えるか曖昧なものを出して、そこまで美味そうに食べてくれて、しかも絶賛してくれるなんて、作った甲斐があった。
三回もおかわりをねだられたが。作るのは簡単だが、材料は有限なので、これ以上はさすがに許容できない。もう無理だと言ったら、ケチと言われた。
えー、食べさせてあげたんだけど。
感謝こそされても、文句を言われる事はないと思うぞ?
俺と女の子、二人しかいない、がらがらの店内。
食器を洗う音が響く中、俺から質問をする事にした。
「で、なんで行き倒れていたわけ?」
厄介ごとはごめんだが、それでも、首を突っ込まざるを得なかった状況ではあるものの、
こうして助けたのだ、俺には責任がある。
――さあ、聞かせてもらおうじゃないか。
退屈な毎日は、もう飽きている。
平和に慣れると、トラブルが欲しくなるものなのだ。
―― ――
―― ――
【#2 酒の席】
「おーい、あんまりいじめてやんなって、小娘ちゃん」
すると、どかっと体の半分くらいの樽を置き、その上にあぐらをかいて座った三十路の女性。
酒瓶をラッパ飲みして、ぷはあ! と息を吐く。なにしに来たんだ、このおばさんは。
「言っておくが、あたしはまだ二十九だ。おばさんじゃねえ」
「言ってないですって。酔ってます?」
いんやあ? と言うが、その状態は酔っていると言います。
だるい絡みをしてくるこの三十路の女性は、俺と同じように、この店の常連の客だ。
一応、【ギルド・アント】に所属している冒険者になる。
俺がギルドを作った時は【フリー】だったくせに、俺が誘った時にはもう決めてやがった。
あれだけ一緒に酒に付き合ってやったって言うのに。
まあ、ギルド・アントの方が収入は安定するだろうけどさ。
俺が言うのもなんだけど、毎日ここにいるな、この人。暇人なのか?
「この小僧は一応、すげえんだぜ? なんとこの歳で、めちゃくちゃ酒が飲める」
「そこはどうでもいいだろ」
見た目は十歳だけど、実際はもっと年上なので。
ああいや、でも、召喚される前だとしても、成人はしていないけど。
「へえー。君って凄いんだねー!」
「お、小娘ちゃんも飲む? お酒。おいしいよー?」
「お酒は飲んだことないなー! ちょっと飲んでみようかなー?」
「好きにすればいいけど、俺は助けないぞ?」
お酒を分けて貰った赤髪の少女は、躊躇う事なく一気に飲み、
ぶぅー! と、俺に向かって全てを噴出した。
あっはっは、とおばさんが高らかに笑う。
こいつ、吹き出すようなアルコールの強い酒を飲ませやがったな……。
「うげー。超苦いよこれー」
「小娘ちゃんにはまだ早かったかな。まあ、すぐに飲めるようになるさ。
そしたらまた、あたしに付き合ってくれよ」
「本当になにしに来たんだあんたは」
俺はタオルを持ってきてくれた若い女性の店員にお礼を言いながら、顔を拭く。
酒瓶をくるくると回す彼女はそうだったそうだった、と二回、繰り返した。
「小娘ちゃん、この小僧は【ギルド】っていうシステムを作り上げた先駆者なんだぜー?」
意外にすげーだろー? と自分の事のように自慢する。
まあ、悪い気はしなかった。
「ふーん」
「興味なさそうだな、おい!」
いつもハイテンションなのに、なぜここだけ!?
どうしてだろう……俺って、結構、凄い事をしたはずなのに。
電気を生み出したのと同じくらいの偉業を成し遂げたよね?
「あっはっは! そんなもんだぜ、世間なんてのは。だからお前のギルドには人が集まらねえんだよ。そりゃ、元々人望がある奴のところに集まるもんな、人はよ」
あたしだって、あんたをすげえと思うけど、入るならギルド・アントだって思ったしよ――と言う。面と向かって、お前は信用できねえ、と言っているようなものなのだが、そこのところは理解しているのだろうか? 俺だって傷つくんだからね?
「分からねえかもしれないけど、小娘ちゃんが思っているよりもな、この
それだけ、分かってくれていればいいぜ」
「うん! 分かったよ!」
「なんだか洗脳みたいに見えるんだが……?」
最弱の前衛パーティ 渡貫とゐち @josho
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