EX 封印の原因と己の覚悟
精霊は、役目を終え、人として過ごすのだ。
精霊ということを隠して―。
ヴィクトが魁星、ブレィシンクと戦っている最中の話だ。
―ハルカカナタ―
この大地は何もない大草原だ。
北の国の最北端。
つまりこの国の最北端だ。
「精霊が産まれ、死すべき場所とも言われているな―。」
ワインレッドの髪。
黄色い眼。
彼こそが『禁忌』の精霊、カントラインディケイトだ。
「―あれか…」
草原にポツリと佇む一つの泉。
「―時が逆転する泉…元々はフィルゴールだがな。」
かつて、『生命』の魔女、サイルフォン・クロノスデーリバルトによって創られた死の遺産。
「―
カントラインディケイトは髪を掻きながら泉を覗く。
「この世界の起源を知るものとして―。」
南の方から微かに爆音が聞こえた。
次第に紫の瘴気が立ち上り始める。
「まさか…ヴィクトの奴!」
精霊石を強引に改竄された。
ヴィクトとは、案外仲が良かった。
しかし、精霊石を書き換えられると、これまでの記憶の半分は欠落する。
「誰が…!」
怒りが収まらない。
『カントラインディケイト様!』
誰かが走ってくる。
「どうした…ヴァルゲイラ・ラシル。」
カントラインディケイトの従者だ。
「ヴィクト様が、謎の男に精霊石を書き換えられたとの連絡が。」
その連絡にカントラインディケイトの瞳孔が縮む。
「なん…だと?」
「それと、ブレィシンク様がヴィクト様と決闘の末、消滅なされました…」
心なく伝えたその一言に、カントラインディケイトは、崩れ落ちる。
「そんな…馬鹿な…ヴィクトがそんなこと!」
草原を叩く。
「誰…だ?」
「はい?」
拳で叩いた草原の草が凍り付く。
「誰だ、改竄したのは!」
「それはまだ分からな…」
「散れ!」
腕を横に振り、ヴァルゲイラが氷の粉末になって殺される。
「誰だ…ヴィクトを…変えたのは!」
一歩踏み出すたびに、そこが凍る。
「来い、スラルヴァ・ルードル。」
草原が凍り付いていく。
空には巨大な水色の龍。
『氷滅神龍』スラルヴァ・ルードルだ。
「精霊石を変えたやつを召喚しろ。」
グェェーと鳴き、召喚魔法陣が出現する。
「今日は全く忙しいな。」
呼び出されるや否やいきなり胸倉を掴まれる。
「お前か!ヴィクトを変えたのは!」
男のローブが凍り付いていく。
「初見で早々罵声か…」
男は魔法杖で、カントラインディケイトの手を叩く。
電撃が走ったかのような痛みがカントラインディケイトに伝わり、掴んでいた手を離す。
「お前…一体!」
「リヴァス・テラー…ヴィクトを改竄した男さ。」
「お前がッ!」
ヴァルゲイラ動揺、粉状の氷の粒になり殺される。
「おいおい、さっきヴィクトに殺されかけたばかりだ…」
「なん…で⁉」
粉になったはずのリヴァス・テラーが再生された。
「そんなことより、あの神龍はッ!」
リヴァスの口から血が出る。
腹部には白いレイピアが刺さっている。
傷口の血液は凍り付いている。
「この…お前は‥短時間で何度も殺しやがって…」
その時だった。
死の際に照準がぶれ、針が神龍に刺さった。
「え…」
「ヘヘッ・・」
突如、神龍の周りに詠唱が表れる。
「お前…何をした!」
死んでいる。
短時間で殺すと再生にも支障が出るらしい。
『グァァァァァァァァァァァァァァ!』
巨大な咆哮と共に、草原が凍り付いていく。
一番近くにいたカントラは足元から凍り付いていく。
「おい!落ち着け、言うことを聞け!剣に収まれ!」
浮遊する龍は、口元をカントラインディケイトに向け、氷の粒子を噴射する。
一瞬にして、剣が粉々になり、カントラインディケイトは氷柱に封印された。
一人の男が吹雪を切り裂いてやってくる。
氷柱に閉じ込められながら―。
「賢者か…お前自身も凍るぞ―。」
それが最期の言葉だった。
ここは『絶氷の大地』ハルカカナタとなったのだ。
粉みじんに粉砕された武器の破片は地に埋まり、無数の白薔薇を咲かせた。
雪原を舞う龍、その下にある氷柱、それを縁取る白薔薇。
「ここまでアイツが…レイ・W・デュランが強力とはな…」
氷原の遠くでリヴァスは呟く。
「照準が狂ったのは予想外だ…アングルボザ様に謝らねば‥‥」
吹雪が勢いを増していく。
「寒い寒い。そろそろ死ぬ…帰るか…」
そう言ってリヴァスはハルカカナタを後にする。
「―いつか、その封印が解かれるときにまた会おうぞ。」
リヴァスは振り向かず、そう告げた。
淵源を守る理由 如月瑞悠 @nizinokanata2007
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