EX 魔力の根源と意思の構築
精霊という存在が作られた時まで遡ろう。
その昔、『地球』という星で争いが起きていました。
争いの激化を考え、オーディンという神が『地球』の一部を切り離し、新たな星を作りました。
その名は『神欧星』。
最初は何もない星でした。
そこに、オーディンの友達の神様が集まり、神欧星を管理しました。
神々は、魔力を具現化し、それぞれの因子を埋め込み、『精霊』という存在を作りました。
精霊は魔力を受け継ぎ、それぞれの役職の元、魔女らを創り出しました。
これはそんな創造時代の話。
『破壊』の精霊ヴィクトの伝説だ―。
まだこの世界に、生命はいなかった。
「静かなのも悪くはないな…」
緑色の草原が地平線の奥まで続いている。
海はない。雲もない。上では他の精霊が働いている。
「サボるなよ‥‥」
空から降りてくる一人の精霊。
「おぅ…悪いな。『禁忌』カントラインディケイト。」
揺らめくワインレッドの髪。
黄色く光る瞳孔。
ヴィクトと同じ『否定因子』で作られた精霊の一人だ。
「サボってたんじゃねぇよ…土壌がちゃんとしてるか的な?」
カントラインディケイトは、『あっそ』と言って立ち去ってしまった。
実質サボっているのだが―。
「どのみち、この世界は俺が破壊する‥‥」
そんな小さな欲望があった。
時の流れの終着点。
「―あとは、生命だな。」
『秩序』の精霊、ディクリスが天から呼びかける。
「生命ねぇ…」
ヴィクトも呆れながら草原の草を蹴る。
次の瞬間、『生命』の精霊、イグジステンによって金の種がまかれた。
それは大地に芽生え、見る見るうちに成長していく。
「大気中の魔力が風の力で具現化か…簡単な原理だ…」
人生に不服があるかのような顔をしてヴィクトは呟く。
何も無かった草原に、花や草木が咲き乱れていく。
その中で、ひと際ヴィクトの目に留まる花があった。
「これは‥‥」
創られて初めて得た感情。
―綺麗という感情だ。
「黒い薔薇なのか…」
ほのかに、ほろ苦い香りを漂わせる不思議な花。
ひとまず摘み取ろうと―。
「その花に触れてはいかん!」
遅かった。
ヴィクトの手には茎を千切られた哀れな黒薔薇が握られている。
「何故だ…」
声の主は、『繁栄』の精霊、フロスェル。
「そうか、お主は『否定因子』だったから干渉されんのか…」
『肯定因子』には毒。
ならこの花にはどんな力が秘められているのだろうか。
「試しに破壊して―。」
自分以外の時が止まった。
この黒薔薇に魔力が干渉されている。
血の巡りが悪くなるような感覚。
強い吐き気とめまい。
「―はッ!」
五感の復活。
干渉が治まった。
「これは…一体何なんだ。」
自分の能力、ヴィクトなら『破壊』の力を使うには、魔力を必要とする。
体内に蓄えている魔力をだ。
それが急激にこの薔薇に奪われたため、吐き気やめまいがしたのだろう。
ヴィクトはとりあえず、出来たばかりの泉の水を汲んで飲んだ。
「これが水の魔力の塊か…なかなか美味だな。」
口を拭おうとするが―。
同時に黒薔薇を落としてしまった。
泉の中で、花弁が散っていく。
「ダメだ!そんなの!」
―時は遡る。
誰かがヴィクトの心にそう叫んだ。
次の瞬間だ。
ヴィクトの脳内に、知らない思い出が再生される。
燃える大地。
滅ぼしているのは赤と黒の服を着た禍々しい連中。
ひと際、闇を発している男。
二本の黒い剣を持つ怪しき者。
―自分によく似ていた。
神龍が空を舞う。
未来から送られた神龍の魂が、泉の薔薇に宿ったのだ。
「共鳴している‥‥これは覚醒なのか⁉」
恐る恐る、光る薔薇を取り出してみる。
泉の中では薔薇だったが、泉から出した途端にそれは美しい黒い剣に変わったのだ。
二本の黒い剣。
黒き神龍の魂が宿りし剣。
「これが…」
黒光りする刀身。
神龍の刻印が施された
柄巻きにも、神龍の皮が使われている。
「これほどまで俺にフィットするとはな…」
持ちやすく、扱いやすそうだ。
泉の中にはもう一本ある。
「二本…ツイン・ℬ・ローズ…なかなかいいセンスじゃね?」
そう言って剣を持った瞬間―。
黒い世界。
前には先程の黒き神龍がいる。
「お前は…いぇ、神龍か。」
精霊と同時期に創られた存在。
この世のどっかに飛び立った6体の神龍の子供。
これはヴィクトが放った神龍だ。
「まさか、未来であんたがこんな姿になっているとはな…」
黒い世界で、ヴィクトの声が反響する。
「さぞ驚きであろう。お前は後に闇に染まる。」
低い、重低音のような声が響く。
「闇にか…何はともあれ、お前との未来を楽しみにしている。」
黒き皮が光る。
「この剣はお前のものだ。我を呼び出すこともできる。」
こいつが味方なら百人力だ。
「期待している、ヴィゴル・レヴィアス。」
記憶の世界が解放される。
こうして、ヴィクトはツイン・ℬ・ローズを手に入れた。
―大火が起こるのも、そう遠くない。
ヴィクトを遠目で睨みながら、『祝福』の精霊、ブレィシンクは悟ったのだ。
―闇に染まる、絶望と陥落の未来を。
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