第4話 うまい話には裏がある

「33歳、独り暮らし、会社員……働いていました。」


揶揄われて面白くない。大人がないとわかってるけどぶっきらぼうになる。2人は35歳でオオカミの獣人、2人で生活していて、テオは剣士でルイは魔法使いだって。剣士といっても魔法が使えないってことはないようで、得意なのが剣術だったということらしい。ルイも同様だ。


何度か彼らが口にした番について聞いてみると、番とは人間で言うパートナーのことだと教えてくれた。私をみた時に「この人だ!」と思って家まで連れてきたんだって。


「それって誘拐じゃないの?」

「番は特別だ。出会えることもあれば出会えないこともあるからみんな(獣人)こんなもんだ」

「なんで番だとわかるの?勘違いかもしれないじゃない」

「人族には分かりにくいだろうが……そのうちわかる」


テオはそう言って、座り直した。

「いやか?」

「いやというか……貴方達はどうしたいの?」

「もちろん、レイナは番だ。俺たちの花嫁だ。ここで一緒に暮らせばいい」

「私たちは働いているのでこちらにいないこともありますが、夜は必ず戻りますので。趣味を楽しまれてみては?」


ルイが好きなものを用意してくれるという。時間が出来たら手芸をしてみたかったなぁ……。この世界にはピアノがあるのかな?あったらまたここでも弾きたいなぁ……。だめだめ!家でのんびり好きに過ごすなんてそんな都合のいい話はあるわけない。



「……俺たちのというのは?結婚は1人では?」

「この国は重婚が認められているから問題ない」

「いやいや、そもそも番は唯一だと言っていたのでは?」

「私にとっての唯一はあなたです」

「俺にとっての唯一はお前だ」

「なんだかおかしくありません?」


確かにそれぞれの唯一は私かもしれないが、自分のパートナーが自分以外の異性といたら嫌じゃないのかな?


「それは心配しなくていい。俺らは元々1つだからな」

「私もテオも生まれる前から一緒ですからね。自分の一部なんですよ。」

「それに知ってるか?」

「?」

「狼は群れを形成する。親兄弟で作ることが多いな。まぁ、狼は番は1匹だが序列がかわることもある。」

「狼の獣人ですが、同じ要素もあれば違うところもあるのですよ」



双子の美形に迫られるのは正直にいうと悪い気はしない。顔がにやけるくらい。

でも、乗せられるほど若くない。

こんな上手い話があるわけはない。絶対に裏があるはず。


「私は番とか、しかも重婚とかそういうのよくわかりません。右も左も分からない中で助けていただいたことは感謝していますが……」

「異世界人は国賓扱いされるって話しただろ?」

「はい」

「レイナが嫌なら無理に引き留めはしないが、ここから出てどうする?」

「というと?」

「たとえば、水道のような技術や知識、レイナの世界の知識はとても貴重だ。国益に直結するから、異世界人は国をあげて保護する。」

「保護していただけるなら、そのほうが安心なのでは?」

「自由は無くなるがな」


自由がない……。そっか。国益になるなら狙われる可能性もあるわけで、逃げられたり誘拐されないように囲わなければならない。城から出してもらえなくなるのだろうか?そして、この国のために技術や知識をわたす。



「少なくともここなら好きにしてもらって構わない」

「異世界人が現れたことは私たち以外は知りませんし、話していません。」



「どうする?」

「どうします?」




◇◇◇





この2人を信用してもいいのかどうか。こんなことを言って騙されて身包み剥がされたり、国に売られてしまったりしないだろうか。


こんなことを言っているけど、ただ都合のいい相手を探しているだけではないのか。


もしかして風俗みたいなところに連れて行かれるのではないか。最悪のパターンが次々と浮かんでは消える。



また私は騙されるのではないか。




ちょうど2年前くらいに私は男に遊ばれて捨てられた。たまたま遊びに行った友人と行ったダーツバーで声をかけられてから遊びに誘われるようになった。共通の友人を介して知り合ったのでたいした警戒もしていなかったのはよくなかった。何度も食事に誘われたので申し訳ないから一度くらいは……と会ったところ、次の約束を強引にさせられてしまった。それも夜だった。共通の友人が経営するバーに行き、その後夜の海を見に行く。朝日が上がるころ、遠くにいたカップルがイチャついているのを見てその男にキスをされた。


シチュエーションというのは大事なのかもしれない。好きだと言われてその気になってしまった。今思い返すとその時の自分が腹ただしい。


ふんわり乗せられてしまってそのままホテルに連れ込まれた。


それから毎週のように会う約束をして、体を重ね。でも、それは全て彼の都合だった。強引に約束してデートに連れてかれて。そして、飽きたら付き合っているという事実を無かったことにされてしまった。


あのときの告白は何だったのだろうか。


あんなに私の行くところにやってきて、友人達から引き剥がしたのはあなたではなかったのか。


「友達とか好きだとかそういう、言葉では表せないんだ」


そんなわけねぇだろ。


こんなに惨めな思いをして泣いたのははじめてだった。


そして。

何だか、冷めてしまったのだ。


好きな人には出会いたい

たくさん愛されたい

甘やかされたい



でももう嫌な思いはしたくない

こんな気持ちを味わうくらいならいらない




◇◇◇



すっかり胸の奥底に詰め込んでいた思いが湧き上がって苦しくなった。


信じられるかどうかは分からない。

でも、この世界のことを全く知らないし、この国にどのように扱われるのかもわからない。


分からないなら少なくとも私に危害を与えなさそうな2人に匿ってもらったほうがいいのかもしれない。


いろんな考えがグルグルと頭の中を駆け巡るのに答えは見つからない。




「少し時間をいただけますか?」



まっすぐ2人をみて話しはじめた。

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異世界で幸せな恋したい!~双子の狼に捕獲されました~ 千賀恵子 @chika_keiko

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