第3話 給餌行動とはなんぞや?
日差しを感じて目を覚ますと頭がスッキリしていた。はじめてみる天井に見慣れないベットと窓枠、旅先のホテルで起きたような感覚がする。もぞもぞとベットの中で向きを変え、昨日のことを思い出してみるけれどなんだか現実味がしない。ふんわり枕元から香るラベンダーの匂いが心地いい。
「起きましたか?」
扉をたたく音がして起き上がると、ルイが扉を開けて部屋へ入ってくる。彼のつやっつやな真紅の髪がここは私の知る世界とは全然違いますよっという現実をみせられているような気がする。
「これを着てくださいね」
ニコニコしながら水色のワンピースを差し出すので思わず受け取ってしまった。
「ありがとうございます?」
「そちらのクローゼットにも用意しているので気に入ったものがあればそれを着てかまいませんよ。靴も用意してあるのですが、サイズがわからなかったもので……合わなければすぐに取り換えるので一旦試してもらっても?」
「あのっ!!」
「レイナのために用意したものなので遠慮はいりません」
「いえ……そうじゃなくって!」
気に入りませんでしたか?と眉を下げて困った顔をされるとなんだか悪いことをしてしまっている気がする。いや!そうじゃない。
「あの。ここはどこでしょうか?どうして見ず知らずの私にこのような……むっ」
ぷにっ
人差し指で唇をつつかれて言葉をとめた。
「それについては朝食のときにお話ししましょう?」
ダイニングで待っているからと言って下手を出てくルイの背中を見つめて顔が熱くなる。
「超絶美形……」
なに?あの白い肌!すっとした切れ長の目にしなやかな身体は女性にもみえなくない。うらやましい。うらやましすぎる。……私の体は……。違う世界だというなら私の体も……!
「……」
クローゼットを開けて姿身を見ると全く変わらない平凡な私。染めた髪はチョコレート色。黒い大きい目はチャームポイントかもしれないけれど、普通の丸顔に人並よりはちょっとは大きめの胸、そして二の腕や腰から太ももにかけてムッチリ贅肉。うっすらと小さなシミが気になる……。そして150センチのちんちくりんな背はこの世界でもチビなんだろうか。
「私より30センチくらい大きそう」
ルイとテオを思い出す。そういえば二人は似ているような気もしなくない。目のあたり?髪の色は全然違うけど、ふわっふわな耳は同じだよね。
「ふわふわしてそう……」
お願いしたら触らせてもらえるのかなと不埒なことを考えながら、ルイから手渡されたワンピースに着替えた。
◇◇◇
「あのぅ……何度も申し訳ないのですが、なんでこんなことに?」
私の隣にぴったりくっついて座ったルイが、パンをちぎって口元に運んでくる。飲み物をとろうと視線をやればサっとティーカップを私の元にもってくる。
「給餌行動だからな。気にするな」
アレコレ世話をやくルイをみることなく、テオは朝からガッツリ食事中。
「きゅうじこうどう……なぜ?」
「番だからな」
「サラダもいかがですか?」
しゃべろうと開けた口にレタスを入れられててしまい、仕方なく食べた。
「その上目遣いいいですねぇ……」
「……!」
ぞわっと鳥肌がたった。給餌行動って鳥じゃないのかな?ルイは鳥なのか。
「獣と全く同じというわけではないが、狼族も給餌行動はするな」
「番のことは何でも知りたいですし、してあげたいんですよ」
「……狼……」
なんで私の考えていることがわかったんだろ。口にしていたのかな……
「顔にでてる」
「レイナは分かりやすいですね」
何を考えているか分からないとよく言われることはあるのに。昔投げかけられた言葉を思い出して胸が痛くなった。
「ほら、こい」
すぐそばまで来たテオに腕を引っ張られて、勢いよく椅子から立ち上がりそのままテオの胸にぽすんっとつつまれた。
「これも求愛行為だな」
「あぁぁあぁぁぁ!!!」
お姫様抱っこをされて羞恥の絶叫をあげながら広間のソファへ運ばれてく私に「面白いですね」とルイが後ろから話しかけた。
「あのっ!おろっおろして……」
「減るもんじゃないしいいだろ」
「減るっ!減る!!私の心の平穏が!?」
「ドキドキしているんですか?」
ルイはテオに抱かれている私を見下ろしながら頭を撫でる。
「わっ私は子どもじゃありませんっ!33歳っ!とっくにとうの昔に33歳になってるんです!」
「「…33さい?」」
目を丸くしてポカンと私を見る二人。
「わっわるかったですね!そりゃちょっと背は低いかもしれません。ですがこれからまだ背も伸びる可能性はあります!たっ多少幼く見えるかもしれませんが、肌なんかもう……若い子とは違ってちょっと荒れ始めましたし、ちょっとシミなんかきになちゃったりしていますけっどっ……!!」
ぜぇぜぇ 息を吐きながら言い終わると
「「ぶはっ……!」」
吹き出すのも同じタイミングかよっ!
「お前、チビなの気にしてんの?」
「あなたは、肌を気にされているんです?」
「ふぁぁぁぁぁ(絶叫)」
顔中に全身の熱が集中して苦しい。いい年した33歳らしからぬ発言。消えたい。今すぐこの場から消えたい。
「あなたたちみたいな肌が綺麗で目鼻立ちスッキリ整っていて、背が高くってイケてる人に言われたくないです!」
どうどう……とまるでウシかウマかのように背中を軽く叩かれながら、ソファに座らされた。
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