とある魚達の心拍数‏

冬迷硝子

とある魚達の心拍数‏


海底に住んでいる深海魚。

彼らは、どうしてあんな水圧にも負けず生きていられるんだろう。

空気も少ないのに。

酸素が無ければ生物は生きられないはずなのに。

一体彼らは何の目的のために生きている?

一時戦時中に沈んだ大型魚雷を探しているんだろうか。

はたまた深海にはブラックホールがあるという根も歯もない噂を実証しているのか。

沈む人体骨格を眼にしながら、のうのうと過ごしている。

意もなく沈んだダイバーのことも知らずに。

自らその世界に飛び込んだ自殺者も含め、

あんな暗い世界で一生。

そんなのとても我ら人間には無理だ。

人は闇を嫌う。そして、光を求める。

それが人だ。

灯りがなければ、何もできない臆病者。

対立なんて分かりきってる。

もし人間と魚類が争うことになればきっと結果は...。

いや、今はそうならないことを祈ろう。


『世界が平和でありますように』


そんな思ってもいないありきたりな願い事を、パンダの大好物に吊らし私はそこを離れた。

きっと、あの笹は最終的に餌にされるんだろう。

書かれた願い事も一緒に。

織姫と彦星になんて届くわけがない。

燃やされれば短冊もただの灰だ。

灰は土となり肥料となり芽を育てる。

そうやって遠回りながらも願いを叶えてくれる。

子供の夢なんてその程度なんだろう。

まぁそんなこと誕生日とクリスマスが同じの子供たちには敵うまい。

必ず年に二回はくる、このチャンスも一回減るだけで随分と違うものだ。

証拠に、


『はいこれ。誕生日プレゼントとクリスマスプレゼント』


そう言われた身になれば分かる。

このむずがゆしさ。

今か今かと待っている学生カップルには微塵も分かるまい。

彼らは今絶頂期なのだから。

しかし、改めてこう見ると本当に都会は人が多いと感じる。

都会人の言う台詞ではない。

全国各地から夢見る少年少女が上京し、現実を見せれてはこれが人の多い街なんだと勘違う。

彼らにしてみれば想定内の出来事だろう。

誰が自分の力でなんでもできるだ。

そんな綺麗事が通じるのは二世代も前の話。

日本の物価が上昇しみなが浮かれ騒いだ時代。

通称、バブル。

崩壊と共に人は奈落に落ちていった。

無念な話だ。


『ねぇねぇ、来週はどこいこうか?』

『動物園がいい。新しいライオンの赤ちゃんが産まれたんだって。絶対可愛いって!』


こういう会話を耳にするだけで鬱になる人の気持ちが非常に共感する。

いくら鮮明な詞とアップテンポな歌を鼓膜に押し当てても聞こえるものは聞こえる。

仕方ない。

そう諦めるしかない。

私は自宅付近のバス停に下りた。


暑い。


さっきまで北極並の雪風が吹いたと思えば一歩、外に出るだけでここなつのプールだ。

サイドを歩くあのごつごつとした感触に似たものを感じる。

帰宅する。


「………」


しばし沈黙。

誰も居ないようだ。

溜息を含んだ二酸化炭素を撒き散らす。

きっと家中の菌は大喜びだ。

階段を上がり自室になだれ込む。

エアコンはないので扇風機のスイッチを押す。

何ヶ月も伸ばしっぱなしの髪か汗を含んでベタつく。

眼鏡を取り真っ正面から風を浴びる。


涼しい。


パラソルの下にでも居るかのようだ。

だがそれもしばらくして終わる。

服を投げ出し、洗濯機へと持って行く。

やはり裸は涼しい。

今来客が来たら、何の遠慮もなしにドアを開けてしまいそうだ。

それくらいに頭をやられてる。

リビングの熱帯魚に餌をやりながら思う。

こいつらは暑くないんだろうかと。

一匹つまみ出して、庭に放り投げたらどうなるだろうかと、妄想。

まぁこいつらが干からびようがなんだろうが私は一向に涼しくならないが。

その口をパクパクと開き、餌を欲しがる姿が面白くて飼っている。

しばらくそうしているの気持ちが落ち着く。

あの口に指を入れてかき混ぜてやりたいといつも思う。

まぁ実際、何度かやってみたがどれも失敗に終わった。

今はこうして見ていよう。

彼らが生きている様を。

しかし暑いな、この水の中は。

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