思いつきでしかない話

澄岡京樹

超ノープロット

思いつきでしかない話


「というわけで、今回のテーマは『二度とやりたくない』だそうです。ワンドロ……というかワンライ企画のお題そのものをシナリオ中でこうやって明確に言ったの初めてですね」


 などと言う冬夏ふゆか先輩。彼女は文芸部の先輩である。ついでに言うと部長である。あとなんというか思いっきりメタ視点で喋りまくる人である。……なぜメタ視点を使いこなせるのかというと、尺の都合です。僕も使えます。なぜなら今日は三十分ほどでバーっと書かないといけないからです。微妙に時間が取れなかったのです。


「それで先輩。これどうやってオチをつけるつもりなんですか? 『うわーん、もう(任意の物事)なんてこりごりだぁ〜〜』とか言ってギャグオチにするんです?」


 と訊いてみたものの、先輩は


「フッ、甘ェ、甘ェよ春秋はるあきくん。ガムシロップ入れすぎたコーヒーより甘ェ」

 などと半目で見下しながら僕に言ってきた。


「元が苦いんですが、それは僕が苦いってことなんですか」

「そういう生意気なところが苦味って感じね」

「そうですか。それなら先輩は常時ブラックコーヒーって感じですね」

「いえ、私は低糖よ。カフェオレになることで究極に美味しいのよ」

「カフェオレになるには牛乳が必要じゃないですか。牛乳みたいな人ってどんな人なんですか」


 そう言うと先輩は——


「わかんないわね。まだ思いついていないから」


 なんて、超ドヤ顔(しかし美貌である。先輩は美しいのだ)でテキトーなことを言ってのけた。


「あー。今日これ完全にノープロットなんですね」

「ええ。いつもなら作者の脳内で多少はオチまでの道筋が浮かんでいるのだけれど、今日はいつにもまして思い浮かんでいないようなの。……となると必然こうなってしまうわけなのよ」

「あぁなるほど。まあ作者って確か何も考えずに四コママンガ描いたこともありましたよね。その時のノリでなんとかなるんじゃないんですかね」


 そう言うと先輩は首を横に振った。否定である。否定のニュアンスである。


「ノー。断じてノー。作者的にそういうノープランな四コママンガを描いた覚えはあるようなのだけれど、そういう時ってどうしてもクソマンガになる可能性が高まるようなのよ。やっぱり起承転結はある程度決めてから書(描)いた方が良いと思うわね。これに関しては色々な意見があると思うけど、私はそう思うわね」


 と、言うだけ言って先輩はストンと椅子に腰掛けた。足を組んだその姿は、まるで芸術作品であるかのようだ。まぁメッチャシンプルに言うと先輩超美人ってことである。


「先輩の考えはよく分かりました。大変、ええ、引くほどよく分かりました」

「いや、引かないでよ。それはちょっと傷つくわ」

「あ、すみません。引くほどって言うのはあくまでも例えです。僕が先輩に引くことなんてありま……せんよ」


 ちょっと引っかかってしまった。先輩の独特すぎるアイデアの数々に何度か引いたような覚えがあったからだ。それを瞬時に思い出してしまったので三点リーダ二つ分ほど言葉を詰まらせてしまった。


「オイ。今の『……』ってなによ。やっぱ引いてんじゃないの」

「すみません。たまにあります。でも僕は先輩のそう言うところも好きなんです。超大好きなんです——あ」


 勢い余って愛の告白めいたことを言ってしまった。うーん何で? これもほぼ完全ノープロットのなせる技ということか?

 などと思いながら先輩に視線を向け直すと、先輩は半目で微笑んでいた。あとちょっと顔が紅くなっていた。


「なぁんだ。春秋くんってば私のことそういう感じで見てたのね」

「はいそうです。僕は先輩のことメッチャ大好きなんです。付き合ってください」

「ハッキリ言うわね」

「ハッキリ言いました。どうでしょうか、付き合っていただけないでしょうか」

「お——おぉ、メッチャ積極的ね……」


 みるみるうちに先輩の顔が紅くなっていく。うーんなんかわからんがなんとかオチがつくのだろうか。どうなんでしょうか。


「どうなんですか、先輩……!」


 僕と先輩の間にある机に両掌を置きながら言った。するとついに先輩が口を開いた。口を開いたのだ……! さぁ——どうなるッ!?


「ごめんなさい。私、春秋くんとは恋愛関係より今の師弟(姉弟)(ただし義理の姉弟)関係でいたいの」


「あ——ウッス……」


 あー、今こう思いました。


 ——勢いで告白なんて二度とやらない、やりたくない。


 はい、オチがつきましたー、ちゃんちゃん。




思いつきでしかない話、了。

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思いつきでしかない話 澄岡京樹 @TapiokanotC

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