桃太郎の話

ツヨシ

第1話

転勤で行った先は小都市の郊外だった。

田畑が多く、山も近くにある。

その山のふもとに桃太郎を祭る神社があった。

桃太郎伝説は岡山が有名だが、岡山以外にもいくつかあり、ここもその一つのようだ。

しかし神社は荒れ果てており、廃墟と言ったほうがいいくらいで、神主もいないようだ。

不思議に思った俺は転勤先の同僚に聞いてみた。

すると聞いた人間がみな露骨にいやな顔をして、はっきりとは答えてくれない。

なにかあると感じたが、気になって仕方がなかった俺は引っ越したばかりだと言うのに、同じ質問を近所に人にしてまわった。

しかし誰もが会社の同僚と同じ反応だった。

――いったいなにがどうなっているんだ?

そんなことを考えていたある日、何の前触れもなく痩せた老人が俺の家を訪ねて来た。

「なんですか?」

「おまえさん、桃太郎神社のことを聞いて回っているようだが、新参者があまり出すぎたまねをせんほうがいいぞ」

「どうしてです?」

俺が聞くと老人は大きく一息ついた後に言った。

「昔、ある男が仲間を連れてこの地にやって来て、住民を殺しまわった挙句に財産を巻き上げて立ち去った。そいつの子孫が建てたのがあの神社というわけだ」

そう言うと、老人は立ち去った。

俺は理解した。

ここで言う桃太郎とは一方的な略奪者のことで、鬼とはここの住人のことなのだということを。

ゆえに神社は朽ちるままにされているのだ。

そしてその日以来、俺は会社でも近所でも、常に人の視線を感じるようになった。


       終

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桃太郎の話 ツヨシ @kunkunkonkon

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