代償

 新しく手に入れた2つのナンバーズ・スキルの【代償だいしょう】を確認していた。


 たぶん、すべてのナンバーズ・スキルには【代償】が付いていて、その【代償】は手に入れてからしか確認できないんだと思う。


 ほんと、心臓に悪い。


『【レベル差が倍以上ではないモンスターから貰える経験値が減少する】』

『と、』

『【蘇生スキルが発動するごとに、デスペナルティが1.5倍】ね』


 目を閉じて、スキルの内容を理解する時間を作った後に、もう1度だけ確認した。


『すぅー、はぁー、』


 深呼吸をしたヨミが目を、カッ!と開いた。


ひかえめに言っても最悪じゃないかな!?』


 トッププレーヤーの割に貧弱ひんじゃくなHPなヨミにとって、アドバンテージの1つに、蘇生スキルが比較ひかく的に発動しやすいというポイントがある。


 通常、


 確定の蘇生効果持ちのスキルはレアスキルであり、1日に1度だけ蘇生できるかでないかが確率であるスキルでも他のプレイヤーたちはのどから手が出るほど欲しがるだろう。


 だが、女神スキル【黄金の林檎りんご】は、3日で3回の蘇生できる。


 それは、ヨミが苦戦するほどの戦いが連戦にでもならなければ、1日に3回の蘇生も可能になるということだった。


 そこからして、


 デスペナルティの増加は、そのアドバンテージが大きく作用する【代償】であるため、ヨミには死活問題と言っても過言かごんではない。


『下手に死ねなくなったわ』

『最近、自爆特攻することが多かったから、ちょっと考えないとな』


 1匹のアリに5分くらいかかってた初めてのころなつかしい。

 ……まだ、3ヶ月もってないんだけど。


 まぁ、手に入れたんだから仕方ないし、これらの【代償】が重複じゅうふくした時にどこまでひどいか試さないといけない…な。


………………

…………

……


『ワン、ワン、ワン♪』


『わぷっ、ん、スズ?』


 いつの間にか、元の場所に転送されていた。


 泉へと転送されたヨミをすぐに見つけて、大型犬のように体重をかけて甘えるスズをヨミはあつかれた仕草しぐさでひらりとかわし、先程までスズがかき混ぜていたと思われる鍋に向かって歩いた。


『……』


 近づくほどに直感が危険をらし、遠方えんぽうから不気味なオーラを放つ鍋への興味には勝てなかったヨミは、ぐつぐつと沸騰ふっとうする鍋の中をのぞくことにした。



 これは、なんだろう?



『スズ、『なぁに?』この紫……しゅがーX?しゅがーX 入れた?』


 私の肩にあごを乗せたスズに、

 爬虫類はちゅうるい系の手脚や、虹色のキノコが入った鍋がある意味を聞くつもりだったけど、前にもいだことあるしゅがーXのにおいがしたので、とりあえず、ひと安心した。


『正解!さすが、ヨミ!』


 理解する。ニコニコ顔のスズは私にこの物体を食べてもらいたいんだろう。


 だけど……ねぇ?


『うーん』


 しゅがーちゃん自慢の万能調味料しゅがーXは万能。この鍋も不味くない……はず。


『スズ』


『ん~?』


『これ、味見したの?』


『毒があるから食べれなかったよ!』


 ……せめて、投入とうにゅうしている生き物の血抜きはしてあればいいなぁ…。


………………

…………

……


『メラちゃん達はどこに行ったの?』


 今の今まで、メラちゃんとタイマンの約束を忘れてたからもうし訳なかったんだけど。

ーーーとも思いながら、明らかに形がくっきりしてる固形のもの…にごり?コラーゲン?のような透明なぶよぶよも取りのぞいたスープを飲む込む、ヨミ。


『ヨミを待つのにきたから帰ってたよー、あの変態を連れて帰ってくれたから助かった』


 スズをして変態と言わせる人がララシャ以外にいるのか……


『次に、会う時を期待きたいしてるってさ』


『次も、いきなりでバトルにならなければいいな』


 ははは…っと、苦笑いする私は運営のメールが2件も来ていることに気づいた。


-ーー運営から2件も?


 えっと…1件目は……第2回イベントの内容を少し変更した?


『ふむふむ、ほんとにちょっぴりだけ変更するみたいだね』

『それにともなうアップデートもある……アップデート完了になったらスズの屋敷にお邪魔しますかな』


『いいねぇ〜、お泊まり確定~』

 

 で、


『どこを修正したのかな?』



① イベント・フィールドに夜の時間を実装する。【狼の勢力圏】は夜の扱いになる。


 安全圏のことも考えないといけないけど、ゲームで慣れてるから大丈夫でしょう!


② 【狼の勢力圏】内にボスモンスターが配置される。実装される【狼】の増加。


 これは、そんなに気にならないや。向かって来る敵だけ倒せばいいんだよ。


 あとは、


 【人狼】を指名できる【リーダー】は、赤の頭巾ずきん、ポンチョ、手さげかごを強制的に装着する!?


『うわぁ…こんな恥ずかしい服装、私なら着てられないわよ。スズは、大丈夫そう?』


?』……え?何?


『もう1パーティーは、ヨミを【リーダー】で登録しといたって聞いたよ?』


 1パーティーが3〜5人までだから、7人の【黄泉送り】のメンバーは、3:4で分かれていた。


 あっ、


 私から、スズには【リーダー】になってもらうって言ってたから、スズのパーティーに私が入ると思って、マーサちゃんに人選じんせんを丸投げしたんだった。


 あの時は、【7つの試練しれん】にいどむ前だからメールでパパッと送ったんだった。


『前半はヨミと離れ離れだけど、おそろいの衣装だし嬉しい!』

うれしい!(2回目)』


 にぱぁっ!って顔に対して、今さら、【リーダー】を辞退じたいしたいなんて言えなかった。


 本気で駄々だだをこねこねしたら誰かが変わってくれるはずだけど、別にいい。

 なんだかんだ言ってもスズに甘いんだよ。私。


………………

…………

……


………………

…………

……


………………

…………

……



 あれぇ?ベッドの上だ?




美代みよ、具合は大丈夫なの?』


『お母さんだ?(かすれた声)』


 さっきまで、ゲーム……さっきだっけ?結構けっこう、時間が経ってたかな?……うぅっ、頭がぐわんぐわん。


 天井って、下だったっけ?


『こんなに熱を出してまでゲームをするなら、お母さん、ゲーム禁止にしますよ』

『お父さんが帰ってきたら、一緒に説教せっきょうだわ』


 それは理不尽だよって、私が2人に怒られるのか。


『今日は安静にしなさいね?』


『はーい』


 【黄泉送り】のみんなにも怒られそうかな…。怒られるならまだしも、泣かれそうだから心が痛い。


ーーーあれだ。【熱暴走オーバー・ヒート】で無茶苦茶しちゃったから熱を出したんだ。


『美代、またゲームの中で無茶したんでしょ』


 私の身体は強くて弱い。

 出力に対して器ができてないし、これからも少しくらいしか成長しないと思う。


 いつまでも、蛇口が壊れてるイメージ。


『そんなには無茶はしてない、かも?』


『嘘。無茶して身体をこわすのなんて何回もあったでしょ?』


ーーーあの事件があっても、両親は私がゲームをすることに反対しない。


 私にとってはゲームの中の方が楽だって分かってるからだと思う。


 ありがたい。


 そして、ゲーム禁止にならなくて良かった。


 親に心配をかけたくはないし、今日はできるだけ、ゆっくりと身体を休めよう。


『ふぅー…(でも、起きたばかりで目がスッキリなんだよなぁー)』


 【魔物の氾濫スタンピード】は、2日後だし。【人狼狩り】は、来月になる。

 残りのナンバーズ・スキルは、あと4つだから準備も入れてギリかな。


 学校の宿題も…いや?……うん。やり終わってからログインしたから宿題は終わってる。


 あぁ、そういえば、来月には2泊3日の臨海学校があるんだっけ。お嬢様のみんなは大丈夫なのかな?

 ……私の班には、サバイバル技術をレクチャーしたほうがいいかな?


 あっ、だったら、ますます余裕よゆうが無くなってくるな。ある程度、訓練しないといけない……ペちんっ。


『あ、たっ』


 ひんやりとしたチョップをらっちゃった。少し気持ちいい。


 氷水でしぼったタオルを持っていた手だから冷たい。


ぺちんっ


『こらっ』

『今、一番お熱が高いんだから何も考えずにちゃんと寝なさい』


『はぁー…い……zzz…………チラッ、

 

『こ〜ら?』


 ふふっ、おやすみなさーい、ママ』


『もぅ、お母さんでしょ?』


 今日は心配かけた分だけ甘えよう!



ーーー今回は暴れぎたんだ。


 でも、また暴れる時は、きっと来るけど。


 、その時の私にたくして、今回以上、今回より、上手く暴れるための元気をたくわえるために…目を…閉じ……よ…ぅ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私、女神になりました♪~MP頼りのステータスで敵をボコボコに!~ 翡翠まな @takano1133

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ