矛盾なき戦い

『ふむふむ、


 服脱ふくぬげば、ビキニアーマー、いとおかし』

『私も、服、脱ぎたい』


 正直に言って暑い。それに、呼吸する空気も熱い。


 うぅー。なんか、【熱暴走オーバーヒート】の後で頭がポワポワするんだよなぁー。



 闇マーサが持っていた2メートルを超える大盾は、ヨミがつかんだ篭手こてと一緒に【熱暴走】の高熱が広がる前に捨てられている。

 もちろん、捨てられた大盾はヨミの足にまれてアツアツになっていた。


 そして、


 全身を黒にめていた鎧もヨミの熱からのがれるために脱がれており、


 結果、


 マーサちゃんが設定した12とは思えないほどの長身の身に黒のパレオと白銀のビキニをまとう美少女が出来上がった。


 ちなみに、私はアバターの身長を弄ったけど、マーサちゃんは自分が成長した姿を見てアバターを設定したみたい。


……私の身長からの推定すいてい年齢は、6歳だったけど。まぁ、そんなことより、


『【アイシクル・ランス】』『圧縮』


 応急処置として作り出した氷を粉砕ふんさいして、頭上から舞い散るダイヤモンドダストで身体を冷やす。


 きもちぃ〜♪


『それに装備を外しても、下着や裸になんてならないで布製の上下一式なんだから……温泉のアレは特殊な例よね…?』


 ヨミの現状の状態を例えるなら、死(に)体に近い。

 

 身体のしんから約2000℃の熱が神経を熱し、脳が悲鳴を数秒の間をえたその身体は立っていることが奇跡。


 すでに痛覚の半分は麻痺まひしている。


 火照ほてった身体で今なお立っていられるのは、ヨミの病的びょうてきなVR適正がみちびくボディーイメージが立つことを許しているのだ。


ガシャンッッ


にぎれない……)


 手元に呼びせたが、手から落ちた白い斧が(土は無いが)地面の上で空気を焼く音をかすかにらせていた。


 斧が白いのは【破壊不能】の【神斧パラシュ】がヨミから流れる熱を受けたからで、直前に放った自称・最終奥義【終雷】の激しい反動に手に残る感覚が残るはずもなく、武器を持つことさえできない状況になっていた。


『例えるなら、


 体温40℃超えでコンビニへ風邪薬を買いに出かけたら曲がり角から来た10トン・トラックを受け止めたって感じかな』


 あれは、死ぬ。(※実体験か、定かではない)


『っと、ととと、そんなことより……マーサちゃんのあつしてね?』

 

ーーー【-Raily-】は漫画でよく見る強敵のオーラを再現することに成功していた。


 アバターから流出する感情値、ヘイト、レベル差からのプレッシャー、etc.エトセトラ、その全てが情報量として対峙たいじする者に提供ていきょうされていき、それをプレイヤーはイメージとして可視的かしてき?にとらえるというシステムみたい。


 うっ、説明書なんて見てないよ?


 そのオーラの変化を自身の感性やスキル【危機感知】によって処理しょりしなければ、一瞬で勝負が決まるのが強者の戦いなんだけど、ここまで圧力が変わるとか、ぼう・戦闘民族並だよね。


『うーん、でいいや』


 ちなみに、


 現在進行系でマーサちゃんの圧力=存在力は増えていく……イベントで最終形態になった双竜を超えていると思うんだけど。


 この状態の彼女に対して武器を使わないで戦うのは決してめプではなく、ヨミの直感が持てない【神斧パラシュ】以外の武器で戦うために戦闘スタイルを変えるのは危険だと判断したからだった。


 【神斧パラシュ】は背中に背負せおって装備し直して拳をかまえる。


『あっ、未成年お酒禁止!!』

『メッ、だよ!』


 マーサちゃんが空間に出来た穴から次々に流れる液体をグビグビと飲んでる。

 一見して、水に見えるけど……


 だって、


 それ、お酒くさいんだもん!


 高堂家では食卓に酒は並ばない。

 ヨミは、父親のつよしが隠している酒を舐めたことがあるので、ほんの少しの酒気でも分かるようになっていた。


ーーーなぜなら、

 その後に起きた事件によって母親の加代かよよりも、酒が大嫌いになったから。


『教育的指導だよっ!』


『【鬼火】』


 【鬼族】が使える初級魔法【鬼火】は、MPが溶けたお酒を飲むことによって強化され、ヨミなみの【ファイヤー・ボール】の大きさになって襲う。


『【天翼】』


 4枚の光の翼で小さな身体を包みんで、もう壁と言っても過言かごではない【鬼火】を正面突破する!


『【朝焼け《サンライズ》】』


『!』


 正面から火の玉を突破したヨミに、今度は横から熱球ねっきゅうせまった。


『【大満月スーパー・ムーン】!!!』


 脱着式の鎖をったマーサちゃんが、【鬼火】を鎖に辿たどらせてふたたびび点火した鉄球が私に投げられる前に、マーサちゃんの後ろに魔法陣を展開してマーサちゃんを強制的に下がらせる!


ーーーって遠心力で結局、炎の鉄球が向かって来るしぃ!?


ーーー【氷界】!


『っっ〜〜〜!?!?!?(泣)』


 ヨミのりとマーサの鉄球の対決は、鉄球が氷漬こおりづけになることで決着する。


 だが、吹き飛ばすつもりだった鉄球がいつまでも足裏に吸い付くと衝撃だけが瀕死ひんしの身体を走ることでヨミは必然的に涙目になった。


 それは、闇マーサが【硬化】の派生スキル【固化】によって伸びた鎖を固めたことによる、一体化した鉄球と鎖がハンマーとなったからであった。


『こしゃく〜!小癪こしゃくだよ!マーサちゃん!(涙目)』 


『フッ』


『あ、笑った♪ーーーっ、』


 鉄球+鎖のハンマーを戻す時に息をいただけなのかもしれないが、ヨミの警戒心がゆるんだ瞬間に、闇マーサが発動したスキルがヨミの警戒をMAXにまで引き上げた。


 マーサちゃんのステータスを【攻撃】に極振りするスキル『【デストロイ】』か!


『【鬼狂おにぐるい】【が身を盾に】』


 この動きは…、デンプシーロール…!


『あははは!

 いいね!なぐり合おう!』

 

 私の身体はボロボロなのに対して、マーサちゃんは鎧を脱いで軽くなっている。


 戦闘Aiは物理的にヨミを倒せると判断するには条件が充分なため、合理的な判断であった。


『ふふふ』


 お互いにステップを踏む。


 格闘技ではがあるけど、身体のコンディションと若さでは……誰がBBAよ!!←言っていない


ーーーそれに、マーサちゃんはクラン内で私の次に高いVR適正がある。


 現在、小学生のちびっ子マーサちゃんとは思えないくらい、ゲーム内アバターの成長した身体を見れば分かることだけどね。


 私でも身長差が1・2センチほどなのに、以前いぜんに見たマーサちゃんの背丈せたけより10センチ以上は、マーサちゃんとゲーム内のマーサちゃんはちがうもん。


『勝率は半々?…以下?』

『まっ、私が勝つけど、ねっ!【神激】!』


 私はスキルアシストに身体をゆだねて突っ込む!


 ステータスには変化がないから、急加速でマーサちゃんとの距離を一気にちぢめて、そのいきおいのままにマーサちゃんのほっぺたを殴る。


ガンッ!


『人間を殴った感覚じゃないや♪』


ヴモ゙ォォォ!!!


『!?』


 牛!?


 うわっ、マーサちゃんにエリザベスがいることを忘れてた。やっぱり、熱で頭が回ってない。こんな状態だと【神回避】は……なら、【空気投げ】!!!


ーーーっ!?』

『うぉおおあああああ!?』


 これ、は、【パンツァー】かっ!


 どんな態勢たいせいからでも、力をほとんど使わずに投げられるスキル【空気投げ】で突進してくる牛を右から左へ投げ飛ばしたヨミの肩が衝撃を受ける。


 ショルダーチャージ(サッカー)である。いや、電車道(相撲)だ。


 疲労ひろう眠気ねむけ→高熱からの判断能力が低下もだいぶん回復できてきたけど、元々、存在感の捉えづらい堕天使の接近に気づかなかったのかぁ。


 くっ、ぐんぐんHPが減っていくっ。


『な、にく、そぉおいぃや!』


 ヨミは【光翼】の光る翼を大きく広げる。

 4枚の翼の空気抵抗を利用して両足を地面から離し、巴投げの要領ようりょうで闇マーサを天高てんたかく蹴り上げた。


 バク転で態勢を立て直した私は翼を一気に羽ばたくと、ロケットのようにマーサちゃんのお腹へと突っ込み、ホールド!


 空中でさらに縦に半回転すると同時に背中に回り込んで、釘のように地面へと突き落とす!


『天空パイルドライバー!!!(プロレス)』


 硬い地面に亀裂きれつが走った。


………………

…………

……


ガンッ!


ガンッ!


ガンッ!


『あはははは!ほんとに硬い!』


 音は一方的。拳がヒットしているのはヨミだけ。



ーーーマーサちゃんは腕だけで、あの攻撃を受け止めた。


 勝利を確信した私が少しだけ油断した時、力ずくで開脚かいきゃくしたマーサちゃんのあし旋回せんかいして、私の脇腹わきばらにクリーンヒットしてしまう。


 蹴りのダメージは、HPがレッドゲージまで減って【被ダメージ増加】が加わっていた私の蘇生枠を使わせるのに充分だった。



 息を吸って、流される身体にブレーキをかけ、息を吐いて、ヨミがした。


 


 私の拳にえる、私を殺せる人型ひとがた




 感情を持つ、人との純粋な殴り合いがひさしかったヨミを興奮こうふんするのは仕方がないことである。


 あふれ出したアドレナリンが疲れを上回り、る気にちた時には、ヨミは闇マーサを襲っていた。


『ゥゴオオオオォ…ォォ』


 ふん!


『よし、死んだ♪』


 マーサちゃんとの間に割り込んできたお邪魔虫エリザベスには、【星崩し】で地面に叩きつけて、その耐久値をけずり切った。


 ヨミは、足場がだいぶんくずれても気にしない。


 武器が壊された時の青のエフェクトが舞うが、ヨミの狂気が宿やどる瞳にはうつらない。


 自身の強力な一撃によりくぼみの中心に立ったヨミへ闇マーサがせまってくるのをうれしそうにヨミはむかえいれた。


『楽しい楽しい殴り合いだぁ!』


 消えていく巨大な牛・エリザベスから放出した青のエフェクトに赤いダメージエフェクトが混ざっていく。


 避けて、流して、はじいて、相殺そうさいして、ぎゅっと握った拳を打つべし!


 スキルでマーサちゃんの防御力が、いくら固くても私の攻撃力にはおよばない。


『なら、しこたま殴ればいい!』


 堕天使のHPは映らないのでヨミは知らないが、闇マーサは既にHPを1だけ残す【不夜城】を発動していた。

 つまり、闇マーサのHPは自然回復していた分しかない。



 戦闘楽しい時間の終わりが近づいていく。


………………

…………

……


……約1分と少しの戦闘時間は、あまりにも少ないが、ヨミには長く濃密に感じた戦いであった。


 『たのしかったぁ』


 人との殴り合いが成立すること事態じたいが少なくなり、本気の拳をまともにらって立っていられる者はいなかったヨミは、いっぱい殴れて満足である。


『どうせなら殴られてもみたかったなぁー』

『次に会った時に、マーサちゃんへ決闘をもうし込むかぁ』

『うん。そうしよう』


ーーー戦いの中でヨミの身体は熱が冷めてきたが、デイリークエストを消費していたマーサには訳の分からないの悪寒おかをが襲っていたのだった。


………………

…………

……


さびしがってるスズのために、確認だけして戻りますか』


 ヨミの目の前には、2つのウィドウが浮いており、最初に手に入れた【節制せっせいする暴食】と同じで【代償だいしょう】の文字が赤く示されていた。


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