最終奥義とは

 血にまる戦いでなく、に染まる戦いになるとは、ヨミも思いはしなかっただろう。


『【守るたみのため、我は盾で全てをおおう】ーーーうぉっ!?』


………………

…………

……


 黒い壁から自由落下する身体にチョコがヒットする前に【神斧一閃・炎】で溶かす。


 足元に広がるわたあめと煎餅せんべい金平糖こんぺいとうが着地と同時に全身をおそい、私のHPを削り切った。やむなく、自己蘇生じこそせいで乗り切る。


 うわっ、上から落ちてきたチョコでチョコまみれになっちゃった。


 ベト○ターみたい。


『うぇっ、甘すぎっ』


 若干じゃっかんの息苦しさの中で、全方位バージョンの【アイギス】を使うための詠唱を終えると、蘇生後の無敵時間が終わった。


 ゆっくりと斧をかまえる。


 この詠唱えいしょうは長いし、いつ、二人がかりで襲われるか分からないからリスクがき物ね。1回分の命ならあげる。


『まだクラクラする。治らないなぁ』


 しゅがーちゃんによる催眠さいみんは、スキルの副次的効果だから蘇生後に残るのも当たり前か。


ーーーこのまま時間がぎるほど不利になっていく。


 なら、


『奥義【雷龍・覇王斬】』


 雷の龍はいばらで出来た壁と相打あいうちとなってしまう。


『お菓子が誘爆ゆうばくして安全に通すのが目的だから無問題モーマンタイ!』

『【天輪】【恩寵おんちょうの光】』

『【節制せっせいする暴食】ON』


 称号【節制する暴食】は、【MPを自分のMPへと吸収する】という効果だ。


 スキルである前者は2つは、

 長いクールタイムの関係で出すタイミングをはかるが、【節制する暴食】の効果を受ける場合は、戦闘後にMPというバッドステータスがあるために常時発動はきびしい。


『【裁きの千雷】』



ーーーーーー『あたしが守る』ーーーーーー



……チッ


 マーサちゃんの戦闘参加。

 それだけで、攻略難易度が100倍に跳ね上がったように感じるわ。


『【朝焼け《サンライズ》】』


『!』


装備スキル

【朝焼け】

 鉄球に炎をまとわせる。

 纏った炎は物体にれた瞬間にぜる。


 マーサちゃんが片手で投げた鉄球は巨大な盾と比較ひかくすると小さく見えた。


 伸びてくる…!


 【アンカー・シールド】の発動で鎖が伸び、遠心力で空間のはしを駆ける鉄球は燃え上がりながらせまる。

 

 マーサちゃんの手元の鎖を見てみると、しゅがーちゃんの茨のトーチが常に鉄球へ【灯火ともしび】を供給きょうきゅうしてるみたい。


『【フルスイング・インパクト】』


『【星崩し】!【ノックアウト】!』


 最大火力の拳でアッパー!!


 専用装備である【星天の夜明け】は、拳の威力を全て受けても破壊できない…けど!


『壁にめり込ませて止める!』


 スキルの効果で鉄球が爆発を起こし、その余波よははヨミに少なくないダメージをあたえる。


『やば……やばっ』


 ヨミの場合、

 ネームドの呪いによって一定のHPを下回った時に【ダメージ増加】が入り、リスポーンまでまっしぐらになる。


 つまり、


 現状、ヨミはダメージも時間も相手に与えることができない状況にヨミはおちいっている。


『こんのっ!』


ーーークランで1番の守備力と2番目の腕力を発揮できるマーサとはいえ、ヨミの桁違けたちがいの腕力には勝てはしない。

 

 鎖を引っ張ったヨミは同時に引っ張られた闇マーサのどうに『おりゃ!』っと一撃を放つ。



 (殺った…!)



 闇マーサが腕力を発揮はっきする場合、

 【攻撃】を上げるために【防御】を0にする必要があり、それを知っているヨミは、打ち込んだ拳に勝利を確信する。



ーーーーーーーーー違和感ーーーーーーーーー



『え!?』


 ばらばらになった部位の断片だんぺんき通っている。


 違和感から、粉になった部分を食べてみると甘かった。


『……飴?』


 それは、精巧せいこうな飴の人形であった。




 私が間違えた?




ーーースキル【熱暴走オーバー・ヒート】は発動中に内側から熱を上げ続け、全身を文字通り焼いていく。


 約2000℃にたっした脳は情報処理機能の数十%を失い、ヨミに本来ではありえないミスを誘発させた。


 さらに、


 熱でボロボロになった身体で強力なアーツを発動する代償だいしょうに、ヨミが地面にひざを折ることになる。


『【不夜城ふやじょう】』

『【チャージ・バリケード】』

『【全属性耐性障壁オーロラ】』

『【門前払もんぜんばらい】』


『【凶打】!!!』


………………

…………

……


かたすぎる』


 大きなヒビが広がっているが、

 純白じゅんぱくに光る城と分厚い城壁がてられ、全ての属性スキルの攻撃から守る障壁しょうへきが広がり、侵入しんにゅうすることを防ぐスキル【門前払い】が発動した。

 そして、それら全ての防御スキルを1つに纏めた職業スキル【要塞】で完成する。


 さらに、城の中は茨の森が侵入者をはばむようにうごめいている。


『もう再生してるし、茨が邪魔ね』

『正面突破しかないけど、でも、使える手札がもう……』


 可能性が少しずつ減っていく感覚はヨミを見えない鎖でしばりつけるイメージを与えている。


 所持しょじしてるスキルはクールタイムが長いものが多く、今、使えるのは、通常の格闘アーツと初級魔法くらいしかない。


 ヨミも予定してないほど、怪物女神との戦いにスキルが消耗しょうもうしていた。


ーーー【裁きの雷】が使えるようになったね。


『これしかない』


 

 だ。



『リリス!』


ーーーはーい♪


ーーー相手が2人なら、私とあなたで2人よ。


『私を支えて、リリス』


 リリスがヨミをいだくように包み込む。


 背後霊としてる女神リリスがヨミを物理的に支えることはできないが、リリスが代理だいりで【スケルトン】を操作し、地面にることができないほど弱ったヨミに骨のアンカー付きの台座を用意する。


 台座は不思議なことにが付いていた。


『圧縮合成!』


 ヨミにとっての奥の手とは、

 

 【断罪の万雷】、


 【星崩し】、


 【凶打】の3つのスキルである。



ーーーーーーーー『【終雷】』ーーーーーーーー



 これらのスキルより、すぐれた火力、敵をすみやかに殺す殲滅せんめつ力を超えるのが、ヨミにとっての最終奥義になる。


 この奥義の作り方は、


 空中にホーミングで待機たいきした【ボルト】と【大満月スーパームーン】で手元に集めた【裁きの千雷】、そして、【雷神の拳】の3つの雷属性スキルを合成させたスキルである。


①同じ属性を合成することで融合ゆうごう率が上がり、暴発までの時間が長くなる。


②【雷神の拳】を発動したまま、【圧壊】で雷のたまにぎつぶす。


③一番威力の弱い【ボルト】が合成されることで、暴発する雷は指向しこう性を持つ。



 手から伝わる衝撃が針のように全身へ響く。


 今ほど、無理やり腕力で合わせるだけの簡単なやり方で良かったと思う。


『むぐぐ』


 ちなみに、【終雷】より多くの数を合成できない。


 それは、戦闘中に処理量による脳のパンクと激しい反動による戦闘続行が困難になるため、クッションとなる骨の台座が必要になるからだ。


『ーーー発射ァ!!!!!!!!』


バリィッッッッッ!!!!!


 雷の球が手元から分裂し、右手を突っ込んだ骨の砲身に沿ってぐに超極太のレーザービームが走る!


『【星天】』


 闇マーサは威力をごうとしたが、レーザービームがまるでけるチーズのように広がり、細く増え、立体的に動く雷は、【星天】をくぐり【要塞ようさい】を襲う。



 時には、上に、


 時には、左右に、


 時には、下から、



 雷の終着地点を1点に集中して【要塞】に穴をけた。


………………

…………

……


 とある日。


『っちぃ!?』


ぴこん♪


≪スキル【温水】が、スキル【熱暴走】に進化しました≫


 空島に戻ったヨミは出来心で考えていた、クランハウスの隣の空き地に温泉を作ることを決行けっこうしていた。


『ひぃはぁぁ!?(舌がぁぁ!?)』


 冷水とマグマが流れる【ダイヤモンド・ドルフィン】戦では、熱々になった熱湯を舌に受けるなんて油断はしなかっただろう。


 っと、が…


『わちぃい゙い゙い゙!?!?!?』


 また、


 ヨミは【状態異常無効】で【火傷】はしないが、ねっせられた舌に【熱水】を発動し続けていた右手でさわるなんてことも。

 

………………

…………

……


 ストーカーのように対象を狙うこの奥義をスズは『【終雷】って言うより、襲う意味の【襲雷】だよね〜』と呼んだ。


 カッコよくないから却下した。


『なんで〜、ヨミ〜』


『カッコよくないからぁー』


………………

…………

……





 あ、意識が飛んでた…。


 疲れたのか、眠たいのか、分からなくなってきた。


『見る』

『読む』


 ふぅ。


『このルーティンをやると、不思議と動けるんだよ…ねっ!』


 ギンッっと目を刮目したヨミは力を振りしぼって走り出すーーーがっ!


 もう足が……転ぶ…『【神速】!』


 倒れそうなくらいにかたむけた態勢は偶発的ぐうはつてきに走ることに適した形となっている。


『エリザベス』


『ふんっ』


 【終雷】で開いた穴からの黒マリモ……闇マーサのアクセサリーけんペットの【エリザベス】の突進を合気あいきによって天井に投げる!!



ズドンッッ!!!



 真上に放り投げた【エリザベス】が空中で鎖によって急落下した。


『【神回避】』

 

ーーー1行動分の時の停止した空間の中で私がどれだけ動けるかは、発動した場所を起点として身体のじくから半分ほど移動できるくらいが適切な例えかな?


 足で言えば、1歩くらい。


『そして、時は動き出す』


 1歩目を踏み出す時、

 つま先から筋肉を総動員して床を踏みしめる…!


 意識空間での時間の停滞ていたいが消え、ヨミの脚力きゃくりょくに耐えきれない床が崩壊ほうかいする前に、前へ前へと向かうように身体を押し出す。


つかまえた♪』


 閉じかける穴に高速で飛来する身体を無理やり入り込ませたヨミは【要塞】の中を跳ね回り、闇マーサと闇しゅがーの左右の腕をつかんだ!


 スピードではヨミが圧倒あっとうしているのと、なぐるではなく、ただ掴むという行動に反応は遅れたのもあり、闇マーサと闇しゅがーは捕まえられていた。


『無駄だ!』


 私の身体からあふれ出す熱のせいで、全方向から来る茨がえ始めた。



ーーー私は、


ーーー限界をえる!

 


 放熱したはずの身体への熱の再来に、身体よりも脳が悲鳴を上げるのをおかまいなしでヨミは掴んでいる腕を振り回し続ける!


『ぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』


(まさに、ゴリラ)


 赤いふちの【ログアウト推奨すいしょう】の表示が視界上でブレ始めた。


 ギュギュッっと掴んでいた右の腕の感触は消え、左の腕の感触はグシャッとつぶれた。


 シンキングタイム。


ーーー視界上に見えていた茨が消えた理由から、しゅがーちゃんは熱と暴力で死んだことは分かる。しゅがーちゃんより硬いマーサちゃんも?……あ、限界……【熱暴走】解除。


『【要塞】がくずれてく……マーサちゃん。


 ずいぶんと、薄着だね』

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る