第7話

「じゃあこのまま二回戦に…って言いたいけど一旦中断だ。先生は蓬田を保健室へ連れて行きます。戻ってきたらすぐに再開するから第二試合の成田と鹿窪、準備しとけー。」


 「よし!じゃあ下に降りて準備するか!」


 成田は拳を合わせ、パンっと音を鳴らす。


 「いいねぇ。気合溢れてんね、佑介!これはアタシも気合入れてぶちのめすよ!」


 成田のことを佑介と名前で呼ぶのは成田と鹿窪、それから蓬田さんは小学校からの古い付き合いだからだ。3人ともとても仲がいい。


 「全くぶちのめすとか品がないなぁ。前も言ったろ?そう言う汚い言葉遣いやめた方がいいぞって。そんなんだから鬼嶋さんにフラれんだよ。もうちょい上品な言葉使いをお使い遊ばせ。」


 成田は肩をすくめ、ため息をつく。


 「悪りぃ。言葉間違えた。」


 鹿窪の声は震えている。怒りを堪えている声だ。成田は地雷に触れたようだ。


 「そうそう、もう少し上品に言おうね。」


 「ぶちのめすじゃ無くてぶち殺すだったわ。」


 鹿窪は笑いながら右の拳を振り上げる。


 「え。」


 右の拳は成田の顔面にめり込んだ。成田の顔はクシャクシャだ。いつもの整った顔とはかけ離れている。


 「ちょ、mだ試合mえだz。」


 「今のは試合前のあいさつだ。本番はこんなんじゃすまさねぇ。」


 「い、いやー。棄権しよっかな。」


 「棄権なんてさせねえよ。ほら下行くぞ!」


 「謝るから許してぇぇぇ!」

 成田は鹿窪に引きずられていった。


 結局謝るなら最初からやらなきゃいいのに。

 引きずられていく成田を呆れて見ていると細々とした男子がか細い声で話しかけてきた。


 「あ、あの。白薙くん。」


 愛戸くんだ。


 「ん?どうかした?」


 愛戸くんとは入学初日から一言も喋っていない。初会話だ。


 「あの時はありがとう、。」


 愛戸は顔をうつむけ、細々と言う。


 「あ、あぁ!気にしないで!俺は言いたいこと言おうとしただけだから。」


 「それでも僕は救われたんだ。ありがとう。…それと、ごめんなさい。本当だったらすぐにお礼を言うべきだったのに…。」


 「いいよ全然!言ったろ?俺は言いたいこと言っただけ。だから気にしないでいいよ!」


 「ありがとう!本当にありがとう!白薙くんはとってもいい人だね!」


 目をキラキラと輝かせる愛戸くん。先ほどまでの緊張した面持ちは消え去っている。俺も緊張が取れて頬の強張りが取れた。


 「あ、あの、もし良かったらお友達になってくれませんか?」


 愛戸は顔を下げ、手をこちらに差し出す。


 「ぷ、はは!」

 

 告白の空気感で友達申請されたので思わず笑ってしまった。


 「もちろんいいよ。よろしくね。愛戸くん。」


 「う、うん!よろしく!白薙くん!」


 愛戸は先ほど以上の満面の笑みを浮かべた。


 「千でいいよ。」


 「じゃあ僕も救世って呼んでほしいな。ユ、ユキくん。」


 「わ、分かったよ。キュ、キュウセイ。」


 愛戸くんは少し照れている。その気恥ずかしさが俺にも伝染した。


 「で、でも不思議だな。僕、下の名前で呼ばれるのあまり好きじゃないんだけど、ユキくんだと平気みたい。えへへ。」


 救世、可愛すぎない?!女子だったりしないよね?!よく顔を見たことなかったけど、身長とか顔の整い具合とかもう完全に女子。何、えへへって、そこらへんの女子なんかよりよっぽど可愛いよ!?鹿窪美兎より全然可愛い!!


 下から威圧感満載の視線を感じる。


 「美兎、何で白薙を睨んでんだ?」


 「いや、馬鹿にされた気がして。」


 俺は救世の可愛さにうろたえながらも会話を続ける。


 「下の名前で呼ばれるの好きじゃないって何でなんだ?かっこいいと思うけど。救世って名前。」


 救世は少し顔をうつむけ理由を話し始めた。


 「かっこよすぎる名前だからなんだ。僕、おじいちゃんがなくなった日に生まれたんだけど、おじいちゃんが死際に僕にこの名前をつけてくれたんだ。誰かを救える救世主になるようにって。でも僕は弱虫で、おまけに異能も弱い。ランク2の落ちこぼれ。誰の救世主にもなれない。僕には分不相応すぎる名前なんだ…。」


 どんどん顔が曇っていく。


 「尾道くんたちの言う通りなんだ。僕みたいなやつが特待生なんておかしい。そう思った。でもここに来たら何か変わるかもって思ってたんだけど、結局何も変わらない。いつまで経っても落ちこぼれなんだ。僕。」


 「おかしくなんかないと思うぞ。」


 「この学校は日本屈指の異能学校。きっと救世のまだ見えない素質を見抜いてんじゃねえの?俺も俺自身に何か秘めた力があるからこの学校に合格できたと思ってる。」


 千は言い切った。自分には才能があると。


 「ふふ、ふふふ。あははははは!自分で才能があるって言えるなんてすごいね!!」


 「まぁ、ほんとは自分でそう思ってないと不安でどうしようも無くなるからなんだけどね。」


 「自分には才能がある、か。うん、そうだよね!僕には才能があると言い切ることは僕には出来ないけど、名前に見合う男になるように頑張るよ!」


 救世が可愛く笑って両手を合わせる。


 「ああ、お互い頑張ろうな!」


 親友になれると思った。

 あって間もないし、会話をした時間はそんなに長くはない。加えてとてもネガティブ。正直苦手なタイプだ。けれど不思議と救世とは仲良くなれると思った。


 断じて可愛い男の娘だからという理由では無い。断じてそういう理由では無い。


 「あ、先生戻ってきたよ。」


 蓬田を保健室に運び終え、先生が戻ってきた。

 

 「第二試合始めるぞー。」


 鹿窪と成田は位置についた。第二試合が始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

拝啓 何光年も離れた君へ 「お命頂戴いたします」 敬具 @mifune0710

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ