第6話

 体育館に着くと先生の説明が始まった。


 「えー、今回の模擬戦だがクラスの親睦を深めるという意味もあるので対戦相手は自分で見つけてもらう。ただし友人は避けるように。まだよく知らないやつと組め。」

 

 各自散らばって対戦相手を探し始めた。


 「じゃあ、俺たちで対戦するのは無理だな。」


 成田は少し残念そうに言う。


 「だな。」


 「残念だわー。今注目のお前に勝って次の注目の的になってやろうと思ったのに。」


 「うわ。最低だな。」


 「冗談だ、冗談。」


 成田は軽く笑いながら俺の背中を叩く。

 ムカつく。ムカつくが憎めない。多分こいつの笑顔と落ち着く声のせいだ。女にモテる理由も少しわかる。ちょっと意地悪した後に整った顔から繰り出される爽やかな笑顔、モテないはずがない。


 「さて、冗談も言えたのでそろそろ対戦相手見つけますか。」


 「そうだな。」


 成田との会話を終え、さあ、誰に声をかけようかと迷っていると後ろから冷たい声色で話しかけられた。


 「あんたでいいや。私と対戦しよ。」


 話しかけてきた彼女は碧色の目をしていて紺色の長い髪をサイドでまとめている。


 「あ、うん。俺で良ければ。」


 「じゃあ決まりね。」


 「あの、名前聞いてもいい?」


 「志田薫。」


 「ありがとう。よろしく志田さん。俺は…」


 「あんたは別に名乗らなくていいよ。覚える気ないから。」


 とても冷たい言葉だ。仲良くしようって気がさらさら無いのが良くわかる。多分他人に興味がないのだろう。この一週間、教室で誰かと喋ってるのを見たことがない。

 

 「そっか、、。分かった。」


 「よーし、時間だ。そろそろ対戦相手も決まっただろうから次の説明をする。全員集まれ。」


 俺たちは先生の周りに集まり次の説明を聞き、それが終わると早速第一試合が始まった。


              ーーーーーーーーーーー

 −第一試合。


 「はーい。じゃあ第一試合を始める。小野田と蓬田、準備しろ。他は観客席で見学だ。」


 小野田と蓬のような髪色をした女子、蓬田桜子は向かい合った。


 「蓬田ちゃん、悪いけどうちが勝つから。先に謝っとくね、ごめ。」


 いつもの明るい口調とは違い、少し低い声で喋る小野田。集中している。


 「私ぃ、負けないよぉ。結構強いんだからぁ。」


 蓬田はゆっくりと言葉を返す。


 「では両者、始め。」


 先生の開始の合図で小野田が仕掛ける。


 「じゃあまずは挨拶代わりに!」


 小野田は手をピストルの形にすると人差し指の先から勢いよく水弾を繰り出した。蓬田は動かない。水弾は全弾命中した。顔面に。


 「ふえぇ。びっくりしたぁ。」


 蓬田の綺麗な長い髪は水弾を浴びて髪がグシャグシャになっている。


 「なーにやってんだ!桜子!ちゃんとガードくらいしろよ!」


 観客席から野次を飛ばしたのは鹿窪美兎。蓬田桜子の幼なじみだそうだ。かなり男勝りな性格をしている。


 「あら、みーちゃん。応援ありがとぉ。がんばるねぇ。」


 鹿窪は忠告を聞いてないことに少し呆れて、ため息をつくと折れて「頑張れよ」と言って腰を下ろした。


 「蓬田ちゃん、頑丈だね。うちの開幕連続水弾を受けて平気な顔してるなんて相当タフ。本気じゃないとはいえ、輪ゴムパッチンくらいの痛みはあるはずなんだけど。」


 「? 特に何も感じないよぉ?次は私から仕掛けるねぇ。」


 蓬田は素早く懐に入り、手に持った木製のナイフを振るう。


 「あっぶな!急に早く動くじゃんか!」


 小野田はかろうじてかわす。


 「ふふふ。楽しいねぇ。」


 次々と攻撃を仕掛ける蓬田。まだかわせているが徐々にナイフとの距離がギリギリになってきている。


 「笑顔でナイフ振るのやめて!ちょー怖い!あ、やば。」


 足がもつれる小野田。その隙に蓬田がナイフを当てようとしたその時。


 「いったぁぁい。輪ゴムパッチン沢山されたみたい。」


 痛み感じるのおそっ!(クラスメイトみんなの心の声)


 「え、蓬田ちゃん、今痛み来たの?」


 「うん。これ、すっごい痛いねぇ。」


 やっぱりかと頭を抱える鹿窪。


 「もしかして、痛み感じるのもマイペース的な?」


 「痛いよぉ。どんどん痛みが来るよぉ。」


 痛みで小野田の声が耳に届いていない蓬田。蓬田の額にはどんどん汗が出てきている。


 「五感が遅れてくるってどんだけマイペースなんだよ。」


 思わず俺の心の声が漏れてしまった。隣で成田はクスクス笑っている。


 「そうなんだよ…。」


 呆れた声で共感する鹿窪。


 「あいつ、基本ボーッとしすぎて何も感じないんだよ…。ただあいつの好きなこと、特に戦いになるとだんだんスイッチ入ってきて、それまで感じてなかった痛みが一気に来る。多分今は小野田の攻撃じゃなくて二週間前の膝の擦り傷、2ヶ月前の骨折の時の痛みあたりが来てんじゃねえかな。」


 「いや、2ヶ月もボーッとしてたの?!てか骨折しても痛み来ないんだ!?ボーッとしてて骨折に気づかず痛みを感じないとしても、生活しているうちに骨折に気付いて痛み感じるんじゃないの?」


 「…それが気づかないんだよ。前に階段から落ちて手がポッキリイった時も、あれぇ。なんか手が変〜。って笑ってた…。」


 もう怖いよ。蓬田さん。


 「うう。痛い、痛いよぉ。体全体が痛いよぉ…。…あぁ。」


 痛みに耐え切れず蓬田はプツンと導線が切れたように気絶した。


 「蓬田、戦闘不能。小野田の勝ち。」


 「え、ちょ、こんな勝ち方嬉しくないーー!!!」


 第一試合 勝者 小野田凛

 ・勝因

 蓬田の痛みの貯蓄が溜まりに溜まっていたため。


              




 小野田凛 異能 噴水 ランク4


 水を体の至る所から噴出できる。ただ噴出するだけではあまり威力が出ないが、水弾のように水を凝縮したりすることで威力をあげることは可能。意外とできることが多い器用な異能。全身から出せるが出す場所によっては見た目がダサいため、基本手足からしか出さない。口は特に絵面がエグくなるので絶対に使いたくないらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る