第5話

「勝負あり。勝者、白薙千!」


 体育館がどよめいた。

 ランク下位がランク上位に打ち勝ったのだ。それも圧倒的に。これでどよめかないはずが無かった。


 「おめでとう。白薙君。期待以上だったよ。」


 「あ、ありがとうございます。こ、これで少しは弱い奴って認識を改めてくれますか?」

 

 校長に気に入られないのはまずい。弱いってイメージを脱却せねば。


 「あはは。ごめんよ。あれは少し意地悪だったね。初めて見た時から君のことを弱いとは思ってないよ。」


 「あ、ありがとうございます。嬉しいです。」


 俺の頬は緩んだ。めちゃくちゃ。


 「正直言うとね、君は手違いで入学させてしまったんだ。」


 「え、、。」


 俺の頬は固まった。めちゃくちゃ。


 今時手違いって、大問題だよ、それ新聞載っちゃう奴だよ。ていうかやっぱり俺は不合格だったんだ。そりゃそうだよな。瞬殺黒こげ男だもんな。


 「でも、君を入学させて良かったと思っている。いじめをしている彼らを止めている君を見た時、強い人だと感じた。強きをくじき、弱きを助ける、そんな私の理想とする捜査官になる可能性を感じたんだ。」


 嬉しい。感情の高低差が激しすぎて涙がこみ上げてくる。


 「それにね、弱い人は要らないと言ったがそれは捜査官になる直前での話だ。弱いのなら学校で研鑽を積み強くなればいい。ただ、思想は今までの人生で積み上げきたものからできてるから中々変えられるものじゃない。偏見や差別は特に変わらない。だから彼らのようにいじめをするような人間は早々に退場してもらいたかったんだよ。」


 俺もあいつらは異能捜査官に向いていないと思う。でも学校長が入学したての生徒を退場させるってのはよくない気がー。


 「そう、私もそう思ったから停学っていう処分にしたんだよ。あと、白薙君が負けた時が可哀想だと思って。」


 あ、心の声聞こえてるんだった。


 「ちなみに停学は何週間の予定なんですか?」


 短かろうと入学してすぐの欠席は痛い。クラスに馴染めなくなってしまう。


 「うーんとね、半年。」


 「え、。」


 俺と伸びているリーダーを介抱するコバンザメたちは開いた口が塞がらなかった。


                ーーーーーーーーーーー

 

 「ねぇ、あの人でしょ?この間の試合の人って。」


 「うん。あの子。まさか低ランクが高ランクに勝つなんてね。」


 あの試合以来、ずっとこうだ。廊下を通ればざわつく。最初の数日は休み時間のたびに先輩たちが物珍しさで教室に俺を見にくる始末だった。試合の後、あの3人は本当に半年間の停学になり、彼らが次に学校に来るのは10月だそうだ。さすがは異能学校のトップ。こんな横暴も平気で許されてしまう。


 ため息をつきながら教室に戻ると金髪の男がニヤニヤしながらこっちを見ている。成田だ。


 「いやー有名人も大変だねー。羨ましいねー。」


 あれからずっとこんな感じでからかってくる。少しずつ成田の本性がわかってきた。こいつの本性はからかうのが大好きな下衆だ。


 「それ、もう良く無い?引っ張りすぎ。」


 「いいや、まだ引っ張れるね。中学の同級生が間違えて女子トイレに入った時は3ヶ月は引っ張った。これはそこまでは行かずとも1ヶ月はいけると俺は踏んでる。」


 ドヤ顔の成田。このゲス男は結構女子から人気が高いのだが何でモテるのか分からない。


 「なんでちょっと自慢げなんだよ。」


 「へへ。あ、先生来たな。」


 「ういー。みんな席につけー。HR始めるぞー。」


 担任もこの一週間でもう覇気がなくなり、今では挨拶の「おはよう」は「ういー」になっている。たった一週間でもう化けの皮が剥がれた。早すぎる。


 「はい。出席はー、ま、全員いるね。よし。」


 出席確認もこの通り省略。


 「えー。今日の予定だが、知らせていた通りクラス内で模擬戦しまーす。」


 教室内がざわつく。当然だ。知らされていないのだから。


 「先生、知らされていません。」


 黒髪おさげで眼鏡をかけた女子が先生に申し立てる。


 彼女は頭崎鈴蘭かしらざきすずらん。うちのクラスの学級委員長だ。


 「そうだったか?じゃあ、今日はクラス内模擬戦です。はい、今知らせたんでこれから体育館行くぞー。準備しろ。」


 「それは急すぎます。準備も何もしてません。」


 冷静に抗議する学級長。大して先生はこれまたダルそうに口を開く。


 「準備って何?心の準備?それなら今ここでしろ。早急に。」


 「違います。異能使用にあたって武器を使う生徒もいます。その生徒たちの準備が出来ていないと言う話です。」


 「あー、それなら問題ない。模擬戦は学校で用意した武器以外は使用できない。」


 「そうですか。なら問題ありませんね。体育館に向かいましょう。」


 いや、意外とあっさり引くのね。心配だった点はそこだけなんだ。


 「いや待って。急すぎだし、先生。うち、訓練着持ってきてないし。どうすればいいわけ?」


 クラスメイトの女子が担任に抗議する。


 「よし、小野田。タメ口は今回だけ見逃してやる。訓練着の無い者がいるなら全員制服で行うことにする。」


 彼女の名前は小野田凛。茶髪ののショートヘアがよく似合っている。


 「えー。制服じゃ戦いづらいじゃんですか。」


 敬語がいびつすぎる。今まで目上の人に敬語を使ってこなかったんだろう。


 「じゃあお前にひとつ聞こう。犯罪者は予告をしてから人を襲うのか?自分が戦闘服を着ていない休みの日に犯罪者に遭遇したらお前は戦わないのか?」


 「それは、。」


 「答えはどちらもノーだ。いつ事件が起きてもおかしくないし、休みの日でも戦わなくてはならない。それが異能捜査官だ。だからお前たち大人しく体育館へ行きなさい。」


 園部先生はいいことを言ったと満足げな顔をしている。


 「社会人の基本中の基本の連絡もできない大人にどうこう言われたくないんですけど。」


 小野田の言ったことはド正論だった。小野田の言葉に先生はぐうの音もでない。


 「その通りです。すいませんでした。皆さん今回は多めに見ていただいて体育館に向かってはいただけないでしょうか。」


 完全に先生の負けだ。先生の威厳は全くない。


 「バーゲンダッツ買ってくるってので手打ってあげる。次からは気をつけてよね。」


 そう小野田が吐き捨てると俺たちは先生を尻目に体育館へ向かった。

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