第4話

 午後一時。第一体育館。某有名ドーム一個分の大きさがある体育館には観客席があり、そこにはせっかくの早帰りの放課後をこんな試合を見ることに使おうっていうバカがほとんどの席を埋め尽くしている。


 「準備はいいかい?白薙君。」


 「いえ、心の準備がまったくできてません。」


 「なんでだい?君も言われっぱなしでは気が済まないだろう?君のために用意した試合なんだぞ?もっと気合いを入れなさい。」


 だったら俺にも了承の確認取れよ。勝手に決まったのと自分で決めたのとじゃ気合の入り方に差が出るんだよ。繊細なんだよ、俺。


 「あいつらを黙らせる機会を頂けたのは嬉しいんですけど、停学がかかってくると緊張もしますって。てか、停学はやり過ぎでしょ。」


 「だってあの3人が気に食わなかったんだもん。」


 いや、可愛くねぇよ。


 「それに本当は負けたら退学にしようと思ってたところを停学にしたんだ。退学よりはマシだろ?」


 「そうですね!退学じゃないなら大したことないですね!なんか緊張溶けてきたなー!ははは…」


 え、退学!?俺のこと買ってくれてるんじゃないの?!


 「君のことは買っているよ。私はね、異能捜査官には心構えと強さ、どちらかが欠けている人は要らないと思っているんだよね。」


 え、怖い。心構えのなってないあいつらとランクの低い俺、要らない奴を、どちらかを確実に処分する気だったんだ。てか、あれ、俺、今、口に出したっけ。出してないよね!?


 「あ、あの、校長先生の異能って、。」


 「よし、もうすぐ彼らも来るだろうし、気合入れなさい!」


 今、明らかに聞こえているのに無視された。これ完全に「心を読む」異能だ。じゃあ校長の若さは究極のアンチエイジングか。やられた。今までの心の中の言葉も読み取られていたと思うと冷や汗が止まらない。

 おかげで試合に対する緊張は消え失せていた。


 「お、来たね。もう五分も過ぎてるよ。時間は守りなさい。」


 3人は余裕綽々と歩いてくる。遅刻しているんだから急げよ。


 「誰が白薙君の相手をするんだい?」


 コバンザメAが自分が行こうと前に出ようとした時、リーダーがそれを止めた。


 「俺がいく。」


 「拓也が出る必要ねぇよ。あんな雑魚俺でも余裕で潰せる。」


 あ、あのリーダーの名前、拓也って言うのね。これまたいかにもな名前だな。


 「わかってるよ、んなことは。ただ俺があいつのことクソ気に入らねぇから直接潰してぇんだよ。だから俺にやらせろ。」


 それはこっちも同じだ、バカやろう。


 「わかった。今回は拓也に譲るわ。」


 「決まったね。じゃあ尾道君対白薙君の試合を始める。ルールはシンプル。降参するか戦闘不能になった方が負け。以上。それでは両者、構えて。」


 「始め!」


 試合が始まるとすぐに尾道拓也が速攻を仕掛けてくる。

 

 千はあっさりとかわした。あっさりかわせたことに千は驚いた。


 「へぇ。俺の一撃を避けるとかやるじゃん。じゃあ、これはどう?」


 さっきよりも速いスピードで拳が繰り出される。これも簡単にかわす。


 「クソ!どうして当たらない!!こうなったら!」


 リーダーはズボンから大量のチーズを取り出して一気に食らった。するとリーダーの筋肉が大きく膨らむ。どんどん膨張し、少しすると元の大きさに戻った。大きさは元のままだが、先ほどまでとは比べ物にならないプレッシャーを放つ。


 「はは!この状態になった俺はお前には止められない!」


 「格下に使うと大体一撃で終わっちまう。だがお前は特に気にくわねえからじっくり痛めつけることにする。頼むから一撃で沈むなよ?」

 

             ーーーーーーーーー


 「あー。ほら始まっちゃったじゃん!もー、かえちが駄々こねるからだよー。」


 「別にダダなんかこねてないわ。せっかくの放課後をあいつに取られるなんてなんか尺なだけ。」


 紅咲加衣は少しふてくされている。


 「もう、どうせ暇なんだからいいでしょ。あ、千の相手、身体強化系の異能かー。かわいそうに。」


 「まぁどうせまた手も足も出せずに終わるんでしょ。」


 「いや、逆だよ。かわいそうなのは相手の子。」


               ーーーーーーーーー


 「はぁ、。はぁ、。クソ!クソ!」


 尾道は膝に手を当てた。表情は険しい。


 「なんだ、こんなもんかよ。」


 千は小さくそう呟くと尾道に近づく。次の瞬間ものすごい勢いの平手打ちが尾道の頬に炸裂、そのまま吹っ飛んだ。尾道の防御は間に合わなかった。近づいてくる時から防御していれば間に合ったかもしれない。だが尾道はしなかった。千から微塵もさっきを感じなかったからだ。


 吹っ飛んだ尾道はなんとか立ち上がる。


 「なんでこんなにも攻撃が重い?!俺は筋力強化を最大限までにしている!!なのに、なんで一発の平手打ちでここまで追い込まれている!?」


 「お前が弱いからだろ。」

 

 「ランク3のお前よりランク4の俺が弱いはず無いだろぉぉぉぉ!!!!!!」


 尾道はとても見ていられないひどい形相で千に殴りかかる。それを千は片手で振り払うともう片方の手でストレートを顔面に决める。尾道がひるみ下がると、千は上段に後ろ回し蹴り。なんとか尾道はかわす。


 「は、そんな大振り、当たるわけねえだろ!」


 「そりゃそうだ。」


 千はそのまま回転し、足を払い、尾道は倒れた。千は拳を顔の前で止めた。


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 「なるほど、彼も同じ身体強化の能力者で能力の扱いが相手より格上のようね。こんだけ手も足も出ないと可哀想だわ。」


 加衣は手すりに持たれながら言った。


 「ううん。千の異能は全く別のものだよ。」


 「え、じゃあ彼は異能なしであれだけの強さを、。」


 「そうだよ。千はほとんどの武術を体得していて、それを織り交ぜて闘う。さっき使ったのはシステマのストライクと中国の後掃腿かな。優れた格闘センスがなきゃできない芸当だよね。それに加えて人並外れた力も持ってる。まぁ、あんだけの怪物おじいちゃんにシゴかれてたらそうなっちゃうよ。」


 「羨ましい、。」

 

 加衣はそっと呟いた。


             ーーーーーーーーー


 「降参したらどう?しないとこの拳を上から下ろすことになる。」


 千は尾道の上に乗り、手を足で踏み拘束している。


 「ランク3のお前に降参なんかするか!ばーか!」


 最後になんとか捻り出した煽りが聞こえるとすぐに鈍い音が響いた。






尾道 拓也 異能:ドーピング


自分の大好物を食べると筋力が向上する異能力者。食べれば食べるほど筋力が向上する。彼の大好物はヨーグルトとチーズ。ヨーグルトは持ち運びがしづらいのでチーズを常に携帯している。すぐ食べられるように包みを外してズボンに直入れしている。食べすぎると飽きてしまい大好物では無くなってしまうので食べ過ぎに注意をしている。

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