第3話

「千は何クラスだった?」


 「はぁ、はぁ、お、俺はBクラスだった。お前は?」


 「私はAクラス!まぁ、あの距離を走っただけで息切れしてるし、Aじゃない気はしてたよー。」


 「は、走ってないお前にだけは言われたくない。」


 まぁ、俺がAクラスに入れる実力がないのは事実なんだが。

 この学校は1学年、AクラスとBクラスの2クラスで成績優秀者がAクラスに編成される。入試で無様を晒した俺が入れるはずもない。


 「おはよう。かんちゃん。」


 「あ、おはよう!かえちー!私たちまたクラス一緒だよ!やったー!」

 

 カンナのことを「かんちゃん」と呼び、こっちに向かってくるのはあの忌々しい紅咲加衣だった。

 

 「え、あの、え?」


 「なーに千。もしかしてかえちと知り合い?」


 「い、いや知り合いってほどじゃないけど、。二人こそ、どういう関係、、。」


 「かえちは中学の同級生で私の大親友なの!」


 「まじか、。」

 

 正直、クラスが違うのは間違いないし、関わることはもうないと思っていた。それがまさかこんなに早く出会すとは思わなかった。


 「あなたみたいに弱い人がなぜこの学校にいるの?少しこの学校が不安になってきたわ。」


 紅咲加衣の視線はまるでゴミを見るような冷たい視線だ。


 「うるせぇな。受かったからここにいるんだろ。勉強はからっきしですか?この馬鹿女。」

 

 俺はこいつにはもう微塵も好意はない。あっちが突っかかってくるならこっちもそれなりの態度を取らせてもらう。


 「馬鹿女ですって?! 前とはずいぶんと態度が違って偉そうね、黒こげのくせに。」


 「態度が違うのはお互い様だろ。可愛さのかけらも無ぇ。あと黒こげはやめろ!」


 喧嘩がヒートアップしていくと、周りに他の生徒たちが集まってきた。


 「ふん!あんたが弱いからそれ相応の態度をとっているだけよ!それに黒こげに黒こげって言ってなn…」


 「はい、もう二人とも喧嘩はやめて。何があったかは知らないけど入学式の朝から喧嘩なんてよくないよ。」


 カンナは喧嘩を止めに入った。


 「ふん、それもそうね。こいつに時間を使うだけ無駄だわ。いきましょう。かんちゃん。」

 

 少し不満げな顔しながら言った。


 「あ、う、うん。じゃあ私行くね!千も頑張ってー!」


 カンナと相変わらず癇に障る女は校舎に入っていった。


 不完全燃焼の俺も二人の姿が見えなくなってから校舎に入っていった。


             ーーーーーーーーーーーーーーー


 Bクラスの教室からちらほらと話声が聞こえる。

 

 入学式の日の教室は制服の擦れる音が聞こえるくらい静かなのがデフォルトだと思っていたので意外だった。おかげでさほど注目されずに自席につくことができた。


 席に座ってから少し経ち、ボーっと窓の外を眺めていると、後ろから肩を叩かれた。


 「俺、お前の後ろの席の 成田佑介 !よろしくな!」

  

成田は鮮やかな金髪で整った顔立ち。それでいて雰囲気も爽やか。さぞおモテになられることであろう。


 「俺は白薙千!よろしく!」


 「千か!よろしく!ところで、その髪って地毛?」


 「そう。今まで白髪で目立ってたから、この学校の校則が激ゆるで助かった。これで今までよりは苦労しなくて済みそう。」


 「苦労するよな。地毛が明るいと。俺も地毛だからその気持ちよーく分かるぞ。」


 「おぉ!同士よ!」


 「おはよう!皆揃ってるかー?」


 派手髪トークで盛り上がりだしたところだったが教師の一言で遮られた。


 「よし、みんな揃ってるな。初めまして。お前らの担任の園部だ。よろしく。じゃあまず今日の予定から。今日の予定は入学式とホームルームだけで午前中で放課だ。よかったな。じゃあ次、出席を取るー。1番、愛戸ー…」


 出席確認が終わると、第二体育館に移動し、入学式が始まった。


 式は順調に進んでいき、校長先生の話に入った。


 「では、校長先生お願いします。」


 壇上に上がってきたのは見た目が俺たちと大して変わらない青年だった。


 「えー、皆さん。入学おめでとう。私の名前は御門、御門一と言います。こう見えて年齢は結構おじいちゃんだったりします。」


 信じられない。おじいちゃんと言われても、見た目はどう見ても20歳前後。周りの生徒も驚いている。


 「好きな食べ物はタピオカとパンケーキ。音楽は米○とかよく聞きます。」


 あ、校長と仲良くなれそう。てかもう見た目も、感性も若者でおじいちゃん要素が全く見当たらない。


 「あ、そういえば先週の日曜に…」


 この後、校長先生の長い話が延々と続いた。ここはしっかりと年寄りなのかよ。


 「これから、この学校で研鑽を積み、たくさんの人を救う立派な異能捜査官になることを期待しています。以上で話を終わります。」


 ようやく校長の話が終わると、入学式は終わり、教室に戻った。


 「いやぁ、あの校長はいろいろ凄かったなー。」

 「あぁ。おそらく不老とかそんな感じの異能だろうな。」


 「30過ぎた女性がこぞって欲しがりそうな異能だな。」


 「間違いないね。」

 

 俺と成田が校長トークで盛り上がっていると廊下側の席から大きな笑い声が聞こえた。

 目を向けると廊下側の一番前の席、確かー愛戸君?の席を3人の男が囲んでいる。


 「なんでお前がこの学校にいるんだよ。気にいらねぇ。どうやって入ったんだ?賄賂か?」


 黒髪でピアスといかついリングを付けたいかにもリーダー的な男がからかうと、次はいかにもコバンザメ的な人が口を開く。


 「いや、その線濃厚っしょ!ははは!」


 「てかこいつ、特待らしいよ。やばくね?」


 コバンザメAに続きコバンザメBも口を開いた。


 「いよいよ賄賂説濃厚だな。つか学校も学校だろ。ランク2の雑魚を特待生で迎えるなんて。」


 「本当だよな!ははははははははは!」


 3人は再び大声で笑った


 クラスの皆は見て見ぬふりをした。会ったばかりの人を助けて自分が標的にされたらとか思うと体は動かない。


 「あぁ。入学早々気分が悪い。」


 一言言ってやりたいと思った。


 「おい、白薙、。」


 俺は自席を立ち、大声で笑っている3人のもとへ足を進めた。俺はこういう時頭に血が上って冷静な判断ができなくなってしまう。


 「ん?何か?」


 「お前ら、ダサいよ。」


 愛戸は目を見開き、うつむいていた顔を千の方に向けた。


 「あぁ?んだと!?」

 

 ガタイのいいコバンザメAが声を荒げて俺を睨みつける。俺も負けじと大きな声で言ってやった。


 「だからこれから異能捜査官になろうって奴がいじめなんてしてんじゃねえよ!みっともねぇ!」


 すると意外にも穏やかな口調でリーダーから言葉が返ってきた。


 「君ほどみっともなくはないよ、白薙くん。受験の時、黒こげだった君よりは。」


 「そ、それは関係ないだろ!」


 俺は痛いところをつかれた。ここでまた黒こげの話が出てくるとは思わなかった。まさか同じ実技会場だったなんて。


 「ああ、お前が紅咲に瞬殺された奴か!確かにあいつは化け物だけど瞬殺はないな、瞬殺は。まじダセェ。」


 コバンザメAが追い討ちしてくる。


 「ところで白薙君はランクはいくつなの?」


 「別に俺のランクは今関係ないだろ!」


 「あるよ。説教は目下の者にするもの。俺たちのランクは4。当然俺たちよりも強いはずだよね?」


 「で、でもランクと強さは必ずしも一致するわけじゃないだろ、。」


 「一致するさ!異能捜査官のトップたちは全てランクの上の者から並んでいる。それは日本だけではなく外国の異能部隊も全てそうだ!例外なんて無い!」


 「く、。」


 何も言い返せなかった。


 「で、いくつなの?」


 「…ランク3…。」


 「え、いや、。君も愛戸と大して変わらないじゃないか!この学校名門だよ?Bクラスでも最低ランク4はないと入れないはずなんだけど?」


 リーダーは呆れた顔で少しため息を吐いた。


 「信じらんねぇ!やっぱこの学校どうかしてるぜ!雑魚を二人も入れるなんて!」


 もう何も言い返せない。ここからはずっと相手のターンだ。


 「何もおかしくはない。二人とも私が選んだ見込みのある生徒だよ。」


 そう言って教室に入ってきたのは校長先生だった。


 「信じられないと言うなら実際に戦って確かめればいい。」


 「いいですね。そうしましょう。まぁ、ランク3の雑魚に負けるはずもないんで。」


 「ただの試合じゃつまらない。お互い停学を賭けて試合をしてもらおう。」


 「構いませんよ。」


 「よし、決まりだ。一時より第一体育館で試合を執り行う。試合形式は君たち3人の中から一人と白薙くんの一対一だ。白薙君が勝ったら君たち3人とも停学で。」


 「負けることはねぇから構わねえぜ!」


 「同じく。」


 コバンザメたちも試合を了承した。


 「では各自昼食を摂り、試合に供えるように。」


 こうして俺の了承はお構いなしに停学を賭けて試合することが決まったのだった。

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