第2話
「う、受かってる、、。」
「うおおおおお!よっしゃあ!合格だあああ!」
手違いの可能性も一瞬考えた。瞬殺された俺だ。その可能性も十分に、、いや無いな!
相手はあの紅咲加衣だし、それに今時手違いなんてありえない。あの一瞬で俺の潜在的な能力を見抜いてくれたに違いない!
さすがは名門大和第一、慧眼でいらっしゃる!
白薙千は調子に乗った。
「いやぁ、めでたい!今日は儂のガールフレンドたちを招いて赤飯パーティーじゃな!」
「うん。ガールフレンド抜きで赤飯にしてくれると孫的には嬉しい。」
「なんだぁ、つまらん。」
「あのなぁ、いつも言ってるだろ?いい歳して女遊びなんかみっともないからやめろって。」
このエロじじい、白薙大聖、俺のたった一人の家族。常時、最低6人は彼女がいる。多い時は10人を超えることもある。とても76歳とは思えないたくましい肉体が女性を惹きつけるのだろう。
本人曰く、じいちゃんには欲しいものがないらしい。働いていた頃の貯金がたんまりあるのでお金の心配は無く、山に豪邸を建て、俺以外家族がいないことをいい事に、女性をはべらせ、ウハウハしながら生活している。いつもどこかをほっつき歩いていて学校の行事に来てくれたことは一度もない。
こんな人なので俺にとっていい反面教師なのだが、尊敬できる部分も多少はある。
「みっともないとはなんだ!それから女遊びという言い方はやめろと言ったろ!儂は皆を等しく愛している!皆本命なんじゃ!」
「仮にそうだとしても相手は誰もそう思っちゃいねぇよ。皆遊びで付き合ってるに決まってるだろ。」
「よし、表へ出ろ!久々に稽古をつけてやる!黒こげ小僧!」
俺は今一番聞きたくないワードを言われた。
「……今、一番言ってはいけない言葉を言った………。上等だコラァ!俺が勝って女遊びやめさせてやる!クソジジイ!」
「いいだろう。お前が勝つことなど満に一つもないが、お前が勝ったら、心苦しいがガールフレンドたちに別れを告げよう。だが儂が勝ったら今夜はガールフレンドたちと赤飯パーティだ!」
「言ったからな!」
「あぁ、男に二言は無い。」
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「去勢しやがれ!クソジジイ!」
俺は外に出るとすぐに殴りかかった。
じいちゃんは笑って顔面で受け止める。まるで山のように微動だにしない。
じいちゃんのこの強さ。これがこの人の唯一尊敬できるところ。肉弾戦において無敵に思えるタフさ。それから、。
「軽い!」
刹那、じいちゃんの拳が俺の腹を捉える。俺は近くの木に打ち付けられ、倒れた。
この強さがじいちゃんの尊敬できる唯一の部分。この破壊力抜群の攻撃力。これでさらに強い異能も持っている。反則的に強い。
「手加減ゼロじゃんかよ…。」
「当たり前じゃ、彼女たちとの別れがかかっているのに手加減なんてできるわけなかろう。」
「でもこれじゃ稽古になってない、、。」
「知るかそんなもん。」
「そんな、、。」
俺は全身の力が抜けていき、気を失った。
その日の夜、俺はじいちゃんとその彼女たちと赤飯を食べた。
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一ヶ月後。四月。
「行ってきます!」
「おう!行ってこい!」
俺は勢いよく玄関から駆け出し山を降りた。
天気は快晴。そよ風が俺の髪を揺らす。とても気持ちの良い朝だ。
山を降り、一般道へ出て、さあ、学校まで走って行こうとした時、「何か」が大きな足音を立ててすごい勢いでこっちに向かってくる。
「おっはよー!」
「何か」の正体は一匹の白い虎と同じ制服を着た女だった。
綺麗なアメジスト色の瞳をした彼女は綺麗な茶髪ロングで、左の耳上に富士の花の髪留めをしている。
「おはよう。朝から元気だな。」
俺はこの朝から元気な女と白い虎をよく知っている。女の名前は 藤宮カンナ 。じいちゃん同士が古い仲で小さい頃からよく遊んでいた幼なじみだ。二世代前までは強い異能力者を多く輩出する「色家」の一つに数えられた名家のお嬢様だ。
カンナは自分の異能で動物たちと仲良くなることができ、仲良くなった動物と契約を交わしている。動物は義理堅い生き物らしく、契約を破らない。なので彼女は一般道を虎に乗って走っていても許されるのだ。
「うん!私と三郎は朝から元気だよ!」
そしてこの女はネーミングセンスが壊滅的にない。虎の名前は三郎。見た目の勇ましさが微塵も感じられない。
「また一緒の学校に通えるね!嬉しい!」
「そうだな。俺も嬉しいよ。」
カンナとは中学校は別だった。異能が優れているカンナは中学では珍しい異能実技のある学校に行ったためだ。
「私は強くなって『色家』に返り咲くこと、千はあの人に追いついて再会を果たすこと、お互い目標に向かって頑張ろうね!」
「ああ!頑張ろう!」
「じゃあ、学校まで競争しよう!よーいどん!」
勝手にスタートの合図をすると三郎に乗り、学校に向けて走り出した。
「いや、お前、フェアじゃないだろぉぉ!これぇぇ!」
俺も急いでカンナを追いかけた。
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