第1話
宇宙人はいる。
そのことを信じてやまない人たちは今までいろいろな説を上げてきた。
例えば、エジプト文明のピラミッドやスフィンクスの建築技術、シュメール人の天文学的な知識や高度な医療技術などは宇宙人がもたらしたものだという説や神話に登場する神は宇宙人であり、そのことから過去に宇宙人が地球に訪れていたのだという説など、宇宙人が存在するという説は多々ある。
これらは全て真実である。
それがこの世界の常識。
この世界は
「遥か昔、文字が存在しなかった頃、地球の外から大勢の人がやってきた。その人々を地上の人々は
とかいう、いかにもぶっ飛んだ古くから伝わる伝承が信じられている世界。
この話はそんな世界の物語。
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俺は歓声止まぬスタジアムの中央に横たわっている。
黒こげで。
いや真っ黒こげで。
黒こげの俺に黒髪の美人が近づいてくる。身長は170近くはあるだろう。
スレンダーで艶やかな髪に瑠璃色の瞳の彼女は口を開く。
「無様で滑稽ね。期待外れだったわ。ほんとがっかりよ。」
俺とは真逆で汚れひとつない姿の黒髪美人は透き通った声でそう言い残すとスタジアムを去っていった。
彼女と当たるなんて俺は運がない。あんな化け物、叶うはずがない。
ああ、今日の朝からやり直したい。
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ー数時間前。朝。
「よし!忘れ物なし!じゃあ行ってくるよじいちゃん!」
「おう!行ってこい!」
がたいの良い祖父に背中を叩かれた白い髪の少年は期待に胸を膨らませ勢いよく玄関を駆け出していった。
今日は俺にとって、いや、異能捜査官を目指すもの皆にとって重要な日。
現在2020年、世界人口の約7割の人間が「異能」という特殊能力を持つこの世界は異能が国力の諸要素の中でも最も高い比重を占めている。
科学が進歩し、多数の戦争兵器が開発されたが、それでも異能の優位性は覆らず、それどころか年々(国力=
日本ではランクが高い人たちのほとんどが異能を使い治安を維持する”異能捜査官”になる。異能捜査官は高収入で、その中でも上位の捜査官の人気は俳優やアイドルの比じゃない。子供たちの”なりたい職業ランキング”は毎年一位だ。
かくいう俺も例にもれず、異能捜査官に憧れ、今まさにその第一歩、日本屈指の異能力者養成学校の名門「都立大和第一学院高等学校」の受験に挑もうとしていた。
受験会場に着くとすぐに係員の案内が聞こえてきた。
「受験をされる方はこちらに並んでくださーい。」
その案内に従い少年は列へと向かった。
「あなたが
列へと向かおうとしたその時、瑠璃色の瞳を輝かせた黒髪の美女が訪ねてきた。
「あ、は、はい!僕が
なんで名前を知っているんですか?と聞きたかったが、黒髪美人の不意打ちにテンパった俺は質問に答えるだけで精一杯だった。
「そう!じゃあ、あなたがあの!」
「それでは対戦相手のくじ引きを行います。並んでくださーい。」
係員の声は二人の会話を遮った。
「あ、私、あっちの列だから行くね!実技試験、楽しみにしてるから!」
続きがとても気になったが、彼女は太陽のような笑顔を浮かべ、別の列へと向かっていった。
黒髪美人に応援された今、俺は過去一番やる気に満ちている。
じいちゃんから鼓舞してもらった時よりやる気に満ちている。
正直、初恋と言っても良い。名前も知らない彼女に恋をしてしまった。
初恋によってやる気の権化となった俺は勢いよくくじを引き、そのまま実技試験に備えた。
対戦相手を確認はしなかった。
俺は異能がそれほど強くない。多分会場で一番ランクが低い。
誰が相手でも全力で戦うだけ。だから相手は確認しない。当たって砕けろだ。
ただ、ある一人にはどう足掻いても勝てる気がしない。
実際に戦ったことはないし、顔も見たこともないが、”緋色の女帝”の二つ名を持つ「
「やめ!勝負あり!勝者、白 受験番号356番!」
審判の判定の声が聞こえ、前の選手が退場を始めると俺は気持ちを引き締めた。
「ねぇ。次よね。あの人が出てくるのって。」
「あぁ。そうだよ。対戦相手にはかわいそうだが、俺めっちゃ楽しみにしてた!」
会場がざわつき始め、千と対戦相手の入場が始まるとドンッと会場が沸き始めた。
会場の熱量が異常だとは思いつつも、入場すると、反対側の入場口から今朝の黒髪美人が入場してきた。
「紅 受験番号2846番 白薙千!」
会場はさほど沸きはしなかった。ここで気づいた会場の熱量の原因は彼女だと。
「私も!なんたって次の試合は15歳にして最高ランク、ランク7の一つ下、ランク6に到達した逸材!”緋色の女帝” 紅咲加衣の試合なんだから!」
「白 受験番号4256番 紅咲加衣!」
会場はものすごい声援で満ちた。今日一、いや過去一、会場が盛り上がったに違いない。
「え、君が、あの、紅咲加衣、?」
思考が停止し、何も考えられない少年。
「ごめん、今朝、自己紹介しようと思ったんだけど、言いそびれちゃった。」
加衣は軽い笑みを浮かべながら軽く謝った。
「できれば言って欲しかったな。ははは...。」
絶望が顔に出ている少年。心ここに在らずな少年。そんなことはお構いなしに黒髪の美女は口を開く。
「正直、私は幸運だわ!唯一負けるかもしれない相手と対戦できるのだもの!毎日いいことを積んできた甲斐があったわ!神様ありがとう!」
彼女は高揚感の絶頂にいた。
なんだ煽っているのか。馬鹿にしているのか。と誰もが思うだろう。
しかしながら、彼女は本心から千に負けるかもしれないと思っていた。
「両者、戦闘態勢を取りなさい。実技試験をを始める。」
壁のような体の審判員に指示され、二人は戦闘態勢をとった。
「では、始め!」
「君には手加減は無用だよね。最初から火力全開で行くよ!」
炎炎とした赤い炎が彼女の体を覆う。
「え、いや、ちょ、お手柔らかに、、!」
千の言葉は猛々しい赤色の炎にかき消された。
炎はすぐに千に炸裂した。
「かはぁっ...!」
燃え盛る炎を浴びた俺は倒れ、空を見上げた。
黒こげだ。
熱い。熱すぎる。
「止め!勝者、受験番号4256番!」
審判が試合を終わらせ、4256番に勝利を告げる。
「無様で滑稽ね。期待外れだったわ。ほんとがっかりよ。」
彼女の俺に対する今まで向けてきた視線とはかけ離れている。
正直、彼女の言葉には腹が立つ。期待なんかされても応えるだけの実力はない。
俺はランク3だぞ。どうやってランク6と互角に戦うんだ。
俺は体術には自信があった。じいちゃんから習ったとっておきもあった。
言い訳だが他の奴なら勝てた。少なくともいい勝負までは行けたんだ。
紅咲加衣が退場していく。
この馬火力女に思ってることを全部ぶちまけてやろうと思った。
でも黒こげの体はそれを許さなかった。
「終わった...。」
ようやく口に出せた言葉はそれだった。
その言葉は受験に失敗したことと、初恋が失恋に終わったこと、二つの事象を意味した言葉だった。
俺は夢を掴むために、異能捜査官を数多く輩出する日本屈指の名門異能力者養成学校を受験し、たった今、実技試験で黒髪美人に黒こげにされたのだ。
この学校の受験に筆記試験はない。実技配点100%の受験方式だ。
ここから挽回する機会はない。
俺は黒こげの体をなんとか起こし、退場を始めた。
「兄ちゃん!気にするな!相手が悪かっただけだ!」
観客のおっさんの慰めの言葉が聞こえてきた。
やめろ!優しくすんな!泣いちまうだろうが!
俺は退場した後、一人で泣いた。
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「郵便でーす!」
頭に響くうるさい郵便屋の声で起きた。
ただでさえ、受験に失敗してから毎朝寝覚めが悪いのに、これ以上俺の寝覚めを悪くしないでくれ。
「ご苦労さん。いつもこんな山奥まですまないな。」
「いやいや、いい運動になって助かってますよ!彼女にも最近痩せてカッコよくなったって評判良いですし!」
「そうか。ならよかったわい。これからも頼むぞ。」
「はい!では失礼します!」
うるさいポジティブ郵便屋とじいちゃんの会話が終わると、自分の部屋を出てじいちゃんに挨拶をした。
「おはよう、。誰宛ての郵便?」
「おう!おはよう!えーっと、お前宛てだな。」
「え、誰から?」
「都立大和第一学院からだ。」
「え、今なんて?」
「だから第一学院からだって。」
「え、ほんとに、?」
恐る恐る第一学院からの手紙を開いてみた。
<受験番号2846 合格 判定の結果合格となりました。後日、正式な通知が届きますので、その指示に従って入学手続きを行ってください>
「う、受かってる、、。」
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