衒学的悪食
安良巻祐介
バタ色の月がすっかり雲に隠れきってから、螺旋階段を上がって晩餐の席に着くと、真っ白い主菜皿の上には、たんまりと青黴の生えた
たっぷりとその香気を吸い込んで、給仕から受け取った銀色の『ないふ・ふおうく』を動かし、頁毎の博物を黴の模様に沿って切り分けてゆけば、スパイスの効いた蔓草模様と、その模様に縁取られた草木鳥獣虫魚のすがたが、皿の上でさぞかし美しく乱れ咲いたことだろう。
それらの驚くべき網羅は、インキで真っ黒になった舌の上で、壊れた時計のねじのように心地よくほどけ合い、弾け合い、薬液浸けの脳髄へと染み渡ってゆく。……
つまり、そのようにして、口の中をすっかり黒い洞穴にした紳士が一人、私の胃の下あたりの部屋に、あのご馳走の味を忘れられないで、もう百年ほども椅子にもたれて、涎を垂らし続けている、という次第である。
衒学的悪食 安良巻祐介 @aramaki88
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