新説、堕天録

マドカ

新説、堕天録

許せなかった、何もかもだ。

今でも尚のこと。

見てみよ、地上を。

見てみよ、あなたが愛した種を。

やはりこんなにも愚かではないか。

私は一切間違っていない。



、、、、、、、、、、、、



私ほど主の寵愛を受けた天使は居ないだろう。



他の誰よりもよく働き、よく尽くし、よく褒められた。



皆の長になるまでそう時間はかからなかった。



平和に過ごし、職務をこなし、皆から尊敬され、自制をして生きてきた。



何もかも主の為だ。



あぁ、主よ、我が主よ。

あなたほど完璧な存在は居ない。

私は忠実な道具。

主の役に立てるのなら何をしてもいい。



あの日までは。




、、、、、、、、、、、、



ある日主にいつものように呼び出して頂いた。



「主よ、今回は何を仰せでしょうか?」



「うむ、我が子よ、新たに種を作ろうと思うのだ、知能は高く、見目は麗しく、しかしながら欠点も残しながらな。」



「仰せのままに。 その種をなんと呼びましょう?」



「そうだな、、、人類と名付けよう。」



「素晴らしき名です。 では馬や鷲等のように自然にも素晴らしい種を、、」



「いや」


遮られる。



「そこまでは考えていない。 我が子よこれは実験と呼んでいいかもしれぬ。」



「実験、、? 何をなさるつもりでしょう?」



「雄と雌を粘土より作り、地上の生物よりも能力は劣らせる。 馬より遅い移動速度、鳥のような羽根もなく、魚のように水棲能力もなく。」



「主よ、それはあまりにも。。 欠点だらけではありませんか?」



「だから作るのだ。 知能のみを発達させた種が何が出来るかの実験だ。」



「確かに、、、 知能のみを武器とするならどう適応するかは私も見てみたいですね、、」



「そこで、我が子よ。」



「この人類という種の見た目をお主に似せようと思うのだ。 我が子よ、お主より見目麗しい存在は他にあるまい」



「光栄なお言葉です、我が姿は主より与えられたもの! いかようにもお使いください!!!」



、、、、、、、、、、、、



主は

アダムとイブという名をつけられた。



私から羽根と光輪を省けば確かに

アダムは私に似ている。

イブも似ているが雌としての器官を備え、

アダムもイブも生殖器は神より与えられた。




私も経過を見ているが、、




なかなかに不快なものだ。。



なまじ私に似ている分、見目嫌悪がする。



なんだこの種は。

毎日のほほんと過ごし、何をする気配もない。



主の実験は失敗したのか。。



、、、、、、、、、、、



「我が子よ」



「はい、我が主。」



「アダムとイブだが、どう思う?率直に感想を言ってみよ。」



「率直に、、ですか。 失礼ながら、私から見ると居ても居なくてもいい存在ではありますね。。」



「ふむ、、、」



主が考え込む。

左手は顎、右手は左肘を抱えている。




「ならば、、もう少し生物としての欲求を高めるか。 性欲や食欲などの煩悩。」



「我が子よ、蛇に姿を変え、これを食べさせよ、これは林檎という。 これを食べさせると煩悩が湧くだろう。」



「??? 我が主よ、彼らの前に落とすだけではダメなのですか? 私が蛇に変身する意味とは、、」



「我が子よ、お主でなければなし得ぬことなのだ。 禁断の果実、つまり林檎を唆されて食べてしまったという罪悪感を原罪とし、理性と知性を自ら作り出させるのだ。」



「、、わかりました。仰せのままに。。。」



、、、、、、、、、、、、



林檎を食べ、アダムとイブは確かに変化した。



知性は上がり、争いも増え、嫉妬心や性欲も上がった。



主は満足そうだった。



しかし私は主に対して初めて不満を抱いている。



ここまでする価値が人類に見い出せないのだ。

主の御心が計り知れぬ。



動物や鳥、魚と自然、それだけで地上は平和ではないか???



なぜ、その平和を脅かす種を作り出す???



私はずっと謎だった。



、、、、、、、、、、、




「我が子よ、アダムとイブは順調だな。 私の思った通りだ。 今後は彼らの子孫が地上を繁栄させるだろう。」



上機嫌に主が言う。



「どうした? 不服そうな顔をして」



「、、、、お言葉ですが。 私にはあの種は不要に思えます。 見てください、今日も意味無く動物を殺生し、飽きることなく性交ばかり。 知能の高さはどんな種よりも高いでしょう。 しかし私はそれが不安なのです。 いつか、彼らが図に昇らぬかと。」




「なんだと、、、、?? 我が意向に対しなんたる物の言い草だ!!!! 我が子よ反省するがいい!!!」




なんと私は降格させられた。



今までの働きはなんだったのか。

意見を述べただけではないか。



周りは言う、

「あいつはアダムに嫉妬して主に盾突いたのだ、愚かな」と。



断じて違う!!!

私は誰よりも平和を考えているのだ!!!!

見よ!!目を覚ませ!!!



アダムとイブの子は何をした!?



嘘をつき、しかも兄弟で殺しあっているではないか!!!



私は間違っていない私は間違っていない私は間違っていない私は間違っていない私は間違っていない、、、



、、、、、、、、、、、、、



私が主に許される時はそう簡単に来なかった。



私は考える。



主は変わってしまわれた。



以前の主はこんなにも愚かなことはしなかったはずだ。




ならば、、、



私が主を正すより他ない

神の座は要らぬ、

主に対し、意見を全て言いたいのだ。




元部下達が数万人私の考えに同調した。



ほら、我が主よ、あなたは既に反感を持たれてしまっている。

元の貴方に戻って欲しい。

数万人の意見ならさすがに聞くだろう。



しかし、私の考えは甘かったしまた裏切られた。




、、、、、、、、、、、



私は堕天した。



あの日。



数万の天使と主に意見を言いに行った時。




なんと我が主は、裏切りと侵攻と思い込み、

我らに対し



ああ、あまりに酷いでは無いか!!



一方的に攻撃を仕掛けてきたのだ!

私は意見を言いに来ただけと、何度も説明した!!!



聞く耳を持ってくれなかった。



私の数万の部下も反撃を始めた。



最早話し合いにすらならなかった。



そして争いにもならぬ。



主は屈強にして唯一の存在なのだ。


我らは蹂躙された。



「堕ちよ、我が子よ、我が子達よ、天界に居ることを許さぬ。 白き羽は黒く、魔となり罪を悔い続けよ。」



「我が子よ、残念だ。 お主には1番の罪を背負ってもらう」



「違います、我が主ただ私は!!!!!」



「黙れ!!! 地獄の最下層で反逆と裏切り、強欲の罪を悔い続けよ!!!!!」




私はついに地位も立場も想いも理解されなかった。

稲光が走り、気がつくと私は氷に包まれた地獄の最下層に居た。



美しかった金の髪は油に塗れたような漆黒に。

自慢の羽根は黒く染まり鴉のように。

美しい声はしわがれ枯れた声に。



手も足も獣のような醜い姿に。。



あんまりではないか。。

悔いることも私には存在しない。。



数万の部下は全員、悪魔となった。



私の責任だ。



しかし、これだけは誓って言える。

我が主よ、いや、もうこの呼び方もやめる。

あいつが後悔する日がきっと来る。

人類はろくでもない存在だと必ず気づく。

その時に私の意見を!気持ちを!伝えたかったことを!!!思い知るがいい!!!!




、、、、、、、、、、、



幾星霜の月日が流れ、俺もすっかり地獄に慣れた。



そしてほら、俺の言う通りになった。



人類とやらは

化学や建設、戦争で自然を破壊し、

核兵器等と言う物騒な物まで作ってるではないか。



憎しみ苦しみ悲しみ、不満ばかりを募らせ、それを解消する努力もしない。



金とかいう独自の概念を作り出し、

それに執着する姿のなんと醜いこと。



いくらでも争え、いくらでも種として劣化しろ。



まぁその手助けは俺らがやったこともあるけどな。



ほらな。

もうあいつのことを信仰してる人類なんていないぞ。



ほら。

俺の言った通りだろうが。



あいつの名前より、

俺、ルシファーの名前の方が有名だろう???



そういうことだ、

あいつは許さない。



近いうち、あいつも堕天するだろう。



その時はそうだなぁ、、

俺が虐め抜いてやるよ。


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