第3話 赤チン塗って

 藩邸の医師は女医でした。

「蘭、こんな夜中に何?」

 と、女医は蘭にききました。

「先生、こいつらを早く見てやってください」

 といって、蘭は女医に懇願しました。玉木とエンマはうめき声をあげていました。

 女医はかけものをとって診察をはじめました。

「どれどれー、あれ、玉木じゃない、体中、ミミズ腫れじゃない。ムチにでも打たれたの?」

 蘭もダツエも返す言葉がありませんでした。

「みんなアルコール消毒だね」

 女医はそういって、口に強い酒を含ませて「プー」と吹きかけました。そして、吹きかける場所を変えて、何回か繰り返しました。

「プー」「ギャー」「プー」「ギャー」「プー」「ギャー」

 気絶していも酒がしみるらしく奇声をあげていました。


(おや、こんなところに布が)

 女医は股間の布を取ってびっくりしていいました。

「こ、こ、これはひどい――」

「先生、何とかお願いします」

 と、蘭もダツエも自責の念にかられ必死に頼みました。

「これは赤チンだな」

 と、女医はぽつりといいました。

「先生、チンコは真っ赤になっていますけと、もう手遅れですか?」

 蘭は涙を流しながら、まじな顔をしていいました。

「いや、いや、そんな事じゃなく、赤チンという薬を塗るということよ」

 と、女医はいいました。そして、赤チンの液体か入った壺に大筆を入れて染み渡らせ、玉木のチンコに筆を交差させるようにして塗りました。

「ギャオー」

 つづいて、エンマにも塗りました。

「ホヘー」

 女医は赤チンが塗られたチンコをジーとみて

「なんだか不気味……、でも、まあ、いいか」

 と、いって布をかぶせました。

 さらに、女医はエンマの痔を見逃していませんでした。

「こっちの男、痔があるよ。ちょっとひっくり返すの手伝って」

 女医と他三人はエンマをひっくり返しました。そして、女医はおしりの穴をみていいました。

「うーん、大したことはないな」

 といって、軟膏をぬりました。

「よし、診察終わり」

「それで、容態はどうなんですか?」

 と、蘭とダツエは女医にききました。

「とてもあぶなかったけど、何とか一物はとりとめました。あと、そこは水枕をつるして、あそこを冷やしてください」

 女医はマジ顔でキリリといいました。そしてつづけました。

「ミミズ腫れは時期に直るでしょう。この、痔はこのボラレール軟膏を出しておくので痛くなったら塗ってください」

 蘭とダツエはそれをきいて、大事が無かったことがうれしく、涙をながして抱き合いました。

「蘭、何があったかは知らないけど、まあ、玉木のことだからロクな事していないんだろうね。あんまり無茶しちゃだめだよ」

 と、女医はいいました。

 蘭とダツエは「ドキッ」としていました。


 次の朝、女医が診察していました。

 エンマはすごい回復力があって、もうすべて直っていました。

「もう、大丈夫。それにしてもあんたすごいねえ」

 と、女医は感心していいました。

 「すごい回復力だね」

 と、蘭はエンマの体をみていいました。


「ダツエ、そろそろ地獄に帰るよ、あのムチに比べたら地獄の方がまだましかもしれんな」

 と、エンマはダツエに寂しそうに言いました。

「ら、蘭、お、俺たちも地獄行か――」

 でも、玉木はまだ回復していませんでした。

「そうだね」

 蘭も寂しそうに言いました。

 そんな中、ダツエは下をむいて考えるしぐさをしていました。

「ダツエどうしたんだ?」

 と、エンマがダツエに聞くと、ダツエは返事をなかなか言い出せないでいました。

「本当にどうしたんだ?」

 と、再び聞くと、とうとうダツエは大声で言い放ちました。

「あたい、目覚めちゃったの、エンマお願い、ムチ地獄つくって」

「えっ!」

 一同、びっくりしました。

「いいよ、お安い御用だ」

 と、エンマはいいました。

「それと、あと、一つお願いがあるんだけど。とってもいいづらいことだけど」

 と、ダツエは、はにかむようにしていいました。

「いいよ、なんでもきくから」

 エンマは好きなダツエの為なら何でもきくつもりでした。

「それはね……」

 ダツエはエンマを指さしてつづけました。

「あんたをムチりたいの。あの快感が――」

 と、いいかけた時、蘭は手でダツエの口を塞ぎました。

「駄目、ばれるから」

 と、蘭はダツエの耳元でささやきました。

 それをきいていたエンマはきりっとした顔でいいました。

「俺の嫁になるならいいぜ」

「うん、うん」

 と、ダツエはうなづきました。

「ほんとかよー」

 蘭も玉木もびっくりして腰を抜かしてしまいました。

「ほんとは、ムチられるのもまんざらではなかったんだ」

 と、エンマは言いました。

「おい、おい、そんなりありか?」

 ケンエも腰を抜かしていました。

「よかった、エンマ、大好き」

 といって、ダツエはエンマに抱きつきました。

「玉木、蘭、本当にありがとう。約束どおり人間界にもどしてやるよ。それから女医さん、痔も診てくれてありがとう。椅子に座りっぱなしの仕事だから困ってたんだ」

 エンマはそういって玉木と蘭と女医に握手しました。

「それじゃ、楽しかったよ、また遊びに来るねー」

 そして、霧に包まれたようになり、エンマとダツエとケンエはふっと消えました。

「さようなら、これでよかったのかな」

 玉木は寂しそうに言いました。

「なんだか、寂しくなるね」

 蘭も寂しそうにいいました。

 しばらく別れの余韻に浸っていると、二人ともふっと気を失いました。


「うっ、うっ、うっ、ハァ、ハァ」

 玉木は息を吹き返しました。となりでは蘭も同じように息を吹き返しました。そして、そこには藩の女医が玉木たちの手当てをしていました。

「旦那、大丈夫ですかい?」

 と、店の主人がききました。

(あれは夢か? それにしてもエグイ)

 と、玉木は思いました。そして、「はっ」と気づいて、自分の息子を見ました。

(大丈夫だ――― え、モチはどうなった?)

「玉木、やっと気づいたかい。あたしが助けてやったんだからね。蘭もだよ。二人そろって、なんてアホなんだ。治療代はちゃんと請求すねからね」

 と、女医がいいました。

「で、いくらなんだよ。どうせバカ高いんだろ」

 と、蘭はききました。

「治療代がふたりで二両、あと、店への迷惑料が一両で、合計三両だよ」

 女医は指を三本開いてそういいました。

 玉木は納得いかないようでした。

「さ、三両? こいつらグルなんじゃねえか。モチ詰まらして治療代請求してもうけてるんじゃねえのか?」

「違うな、おまえらみたいなアホが必ずでるからと、主人にたのまれただけだよ。それに命を救くってやったんだ、感謝こそされ、そんなことを言われる筋合いはないね」

 と、女医は冷たく淡々と言い放ちました。

「うー、つけだ、つけ、あとで払う」

 蘭はそういって玉木の股間を蹴り上げました。

「うおー、な、なんで、なんで夢のようになるの?」

 と、玉木はいって悶絶しました。

「むしゃくしゃするからよ!」

 そんな玉木をみて女医はいいました。

「赤チン塗って、治療してやろうか?」

(この女医、かわいい顔してるけど、とんでもない冷血女だ)

 と、玉木は思いました。

「いや、いいです、いてっ」

 玉木は蛙のようにジャンプしながら店をでました。蘭もあとにつづきました。

「玉木、今日はついてねーな。わりいな、思わず蹴っちまったよ。どうも夢の世界が続いているようでいけないねえ」

 と、蘭が言うと

「いいじゃねーか。命拾ったんだから、最高の日だよ、最後の蹴りがなければ……、うーいて」

 玉木はそういって空を見上げました

「そうだね、最高の日だね……」

 蘭もそういって空を見上げました。

 二人とも、エンマやダツエねいさんや地獄のことを考えていました。



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たまらん(外伝 地獄からの生還) 吉道吉丸 @piyokuma

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