8 来たる先生、さらば平穏
そして、放課後――
「あの……何か?」
何か――
昼休みにしぐれを通して相仲が見つかったという報告は聞いたのだが、実際に勝飛と相仲のあいだで何があったのか、その詳細についてはしぐれも知らなかった。蒼詩の意図を汲んで勝飛一人に相仲を任せたのだろう。そのため二人のあいだで具体的に何があったのかは蒼詩も把握していない。
それから、昼に職員室から生徒指導室に、相仲の作品だという謎の絵画を運ばされたことについても事情を知りたいところだ。あの何枚もあった「空」の絵はなんだったのか――
「ところで、その……相仲さんは見つかったんですかね……?」
方司勝飛とはあまり口をきいたことがないのもあって、まずは打ち解けるためにも共通の話題から切り出す。
「え? あ、うん、大丈夫――なんでも美術部の課題の締切が近かったそうでね、」
「あー……」
結局逃げたのか、あの子。この機に告白でもするのかと思っていたのだが。
「それでいろいろと作業していたそうなんだけど、煮詰まって……時間を忘れて、空の絵を描いて心を無にしていたらしいんだ」
何枚も何枚も……一心不乱に、自らのやらかしたことを悔いたりなんだりして、待たされる緊張を紛らわすために心を無にしようと空を描く――そんな彼女の姿が容易に思い描けた。
(大人しいかはともかく、根は真面目なんだろうな……おれとしぐ先を脅迫した時も、思えばずっと貧乏ゆすりしてたし。
ともあれ、相仲絡みの問題はまだとうぶん続きそうではあるが、今回の一件で多少は懲りるのではないだろうか。
「えーっと……」
それから、この先生。ひとを見るなり「げ」と声を上げた方司勝飛は、ようやく舌が回ってきたのか、
「なるべくなら、今朝の件を知ってる人には内緒で、内密に相談したかったんだよね……」
第一声の理由はそういうことらしい。
「はあ……。それならおれはいない方がいいんですかね、一応ここの部員なんですけど」
「あ、そうなの?」
と、突然顔を明るくさせる男性教師である。
「……なるほどそれで
「?」
「いやなんでもないよ。それなら話が早い。僕だけだと今朝の状況をきちんと説明できるか怪しかったから助かるよ。なにせいろいろあったからね……。丸投げするつもりはないけど、やっぱり生徒間のトラブルは教師より生徒同士の方が解決しやすいと思うし……それにこれは生徒会だけの――
唐突に口達者になった勝飛は言うだけ言うと、さっきまでの迷っている素振りが嘘のように互助会の部室に向き直った。
(おれも詳しくは知らないんだけど――)
結局小晴も口を割らず、昼にしぐれから聞いた話も断片的で、正直要領を得なかった。しぐれからは「落とし物」に関するトラブルらしいことは教えてもらったが、彼女も
(しぐ
そんな彼女が詳細を教えてくれなかったということは――それほど大した問題ではないのかもしれないし、夕珠の顔を立てる意図があったのかもしれない。
なんにしても……。
(……おれから部長に言うのがNGでも、方司先生が勝手に話すぶんには問題ないはず――ということで、ここはひとつ)
蒼詩も勝飛を追って、部室に足を踏み入れる。
互助会の部室には珍しく、全部員が――先日新たに入部した群雲千月を含めた全員が揃っていた。
その中で、一番奥の席に座る青年が顔を上げる。
傷のある左目を隠すように前髪を伸ばした、中性的な顔立ちの青年――この生徒相互補助会の部長(会長)、
「おや、陽木くんじゃないか。なんだか久しぶりな気がするね」
「ボケてるんじゃないですか、このあいだ会ったばっかりでしょ……ほら、千月を紹介するときに――」
三年生の部長、副部長、そして二年生の蒼詩と
(別に感慨深くもないけど……)
ともあれ――相談だ。
方司勝飛から語られたのは、今朝の生徒の集団欠席から始まる、会議室での一件、その経緯。
「にわかには信じられないし、僕も半信半疑なんだけど……」
生徒会に届けられた『手帳』には、未来のことが書かれているらしい。
そしてその『持ち主』かもしれない二年生、中でも優等生だけを天路夕珠が集めた理由は――『手帳』の謎の解明を図ると同時に、
「なんでも、生徒会長の持っていた『手帳』が先日、盗まれたらしいんだ」
そして――
「その手帳には、こんな予知が書かれていたらしい――『殺人事件が起こる』、と」
名探偵なんていない。 人生 @hitoiki
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