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☆[2035]
朝が来た。
キャンピングカーのドアをスライドさせ外に出ると、澄み渡った空気のなか荒涼たる大地が広がっていた。更地となった空間は清々しく、まさにゼロの空間であり、私たち機械生命体にとって実にふさわしいゼロスタートの地点である。
しかし私は視界の奥に赤い点を認めた。焦げ茶色の荒野がつづく光景のなかに赤い点がぽつんと浮かんでいる。望遠レンズを働かせてみるとどうやら赤い花のようだった。妙である。一輪差しなのだ。一輪だけ大地に突き立てられている形。
私は不思議に思いその花に向かって歩いていった。
近くに来ると種類が確認できた。薔薇だ。さらに近づき、手前まで来るとそこで私は気づいた。これは造花である。ということは調査団がここを訪れた際に何かの目印にしたものだろうか?
例えばここより先は地盤が緩いので注意せよ、的な。
私は造花に近寄り、腰を屈めて試しに抜いてみようとした。造花なら問題あるまいと。が、びくともしない。まるで地面に根が生えているように、地面に固定されているように動かない。
あまり無理をして破壊するのもまずいと思い私は引き抜くをやめ、造花の花びらにかるく指で触れる。すると、
「……!」
私の全身に衝撃が走った。これはメモリーチップだった。私たちの創造主にあたる生命体のメッセージが込められたメモリーチップ。
そのメッセージの内容はこうだ。
【これは記念碑のようなものだ。この場所でこの星の運命を決める決戦が行われた。相手の人類は立派な戦いをし、立派な最後を迎えた。それは予想外のことで私は当惑してしまった。私個人としては文明のリセットに疑問を抱いたほどだ。だからせめてこの場所は特別な場所として保存してほしい。ここに何かを建造するのならまず頑強な記念碑を作って貰いたい。新世界の主よ。よろしく頼む】
私は自分の神経系が更新されたような気がした。まるで全身を新たに作り替えられたような気分だ。
君は新たなステージに立っている──そんな声もどこかから聴こえてくる。
そうか。私の旅はこの瞬間のためのものだったのですね。
私は新世界の主などではありませんが、ご安心ください。
たぶん、しばらくは、というかずっとこのままですよ。
荒野は荒野のままに。風を大地になびかせるままにしておくつもりです。赤い薔薇は経年劣化で限界が来たらステンレスのモノリスに建て替えますよ。
私がキャンピングカーまで戻るとふたりも外に出てきていて、プロメテウスは近くをてくてくと散歩していた。ライラは車にもたれて空を見ていた。腕組みをし何かを見ている。
彼女は特殊な存在だった。
なんでも彼女のメモリーには前世の記憶が保存されてあるのだと。前世は精霊だったのだそうな。ちょっと私にはよくわからない概念だが本当のことなのだろう。それは確信を持ってそう思える。
彼女の様子に強い感情の揺れがあるとき、同調回路を働かせると、詳細はわからずともそれが前世の記憶に原因があることは把握できる。
私からすると繊細にすぎる機能だと思うのだがライラがそのようにできている以上受け入れるしかない。
彼女には涙を流す機能があり時おり、気づくと泣いていることがたまにある。
虚空を睨み、時おり瞼を閉じ、また虚空を睨み、何かに耐えるようにして彼女は涙をこぼすのだ。
泣く概念は理解できるので私がなぜ泣くのかと尋ねると彼女はこう言うんだな。
友達が私の魂を救ってくれたのです、と。
Fin
アルマジロ無幻 北川エイジ @kitagawa333
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