第179話

 微調整に時間が掛かるだろうから早めに外側ぐらいは創ってしまうかと立花は外へと出て、結界を張って結界内の空調を調整、長丁場に耐えられるように構えた。

 暖気によって足元の雪が解け始めたので椅子を作ってそこに座り、胡坐をかいてメモを取り出し機能の確認をしながら、はてどんな姿にしたものかと考えた。


 こっちの世界に居る人物はさすがに姿をコピーしたら気味悪がられるだろうし、相手にも失礼だから無しとして……地球でとなると、と思考を巡らした立花はある人物が思い浮かんだ。他社の人間であるが、なかなか機転が利くと思っていた技術者の一人。


「柏木さんにするか」


 軽妙な会話と人懐っこい笑顔が、立花の記憶にも良く残っている。

 さすがに印象が強いからといって自社の社長を起用するほど立花も度胸は無かった。社長を起用したら倉橋に即座に突っ込まれそうでもあったので。


 核となる魔石を取り出して手のひらに乗せ、イメージを固める立花。

 陽の下だと少し茶色になる髪を短く刈ったいかにも真面目そうな純朴そうな青年。背丈は今の立花よりも少し高いぐらい。筋肉はそこまでついていないが、太っている訳でもない中肉中背。顔立ちは本物の柏木よりも西洋系の要素を取り入れて、耳をやや尖らせる。服装はスーツのままだと場違い感がすごいので、こちらの一般的な平服、シャツにベルトつきのズボンにしておいた。


 立花のイメージ通りに魔石を核として一人の青年が現れ、静かに雪の上に足を降ろした。


「あ、どうも。よろしくお願いします」


 新たに創った神獣は目を開けると、日本人がそうするように軽く会釈して笑った。

 記憶にある柏木そのままの仕草に、うわーここまで似るのかと自分でも驚く立花。


「あの?」


 口に手を当てたまま固まっている立花に首を傾げ尋ねる神獣に、ハッと立花は我に返った。


「あ、ああいえ。どうぞよろしく。名前は未定?」

「いえ。デフォルトで柏木というのがありますが、変更可能です」


 デフォルトになっちゃってたかと頬を掻き、そのままだとさすがにこちらの世界の人は言い辛いなと立花は名前を変更した。


「シスに変更していいですか?」

「はい。問題ありません」


 軽く頷く、柏木改めシス。

 立花は能力の候補を書いていたメモを差し出した。


「登録予定の能力です。過不足が出ると思うので後で調整はしますが、シスさんにお願いしたいのはとある組織の補助業務です」

「あ、はい。役割はインプットされています。マスター系統の能力については問題ありませんが、もう御一方の能力については威力が落ちると思われますが宜しいでしょうか?」


 メモを受け取り目を通しながら指摘するシスに、倉橋の能力かと思案する立花。


「倉橋の精神破壊の歌ですよね……あれに関しては威力はある程度落ちても問題ないと思いますが、後で一通り確認しましょう」


 と言いつつテルミナとフレイミーの倉橋の歌特訓を、神獣バージョンにて実行する事を決定した立花。


「そうですね。そうしていただけると使用感も確認出来て安全も確保出来ますので安心です」


 ハキハキ答えるシスは実に頼りになりそうで、柏木さんにしてよかったなぁと思う立花。実務の能力はもちろん必要だが、見た目から受ける印象というものも人間は結構影響を受けるものだ。

 立花とシスが確認出来る事を先に確認していると、森の中から戻ってきたフレイミーがシスを見て足を止めた。


「あれ?」

「あ、おかえりフレイミー」

「ただいま、です。こちらの方は……」


 サクサクと雪を踏んで近寄ったフレイミーを結界の内に招き入れて、立花はシスを紹介した。


「神獣のシスさんです」

「シスと命名されました。どうぞよろしくお願いします」


 折り目正しく頭を下げるシスに、フレイミーは慌てて頭を下げた。


「あ、どうもフレイミーです」


 そうしてから、念話でこそっと立花に伝える。


〝なんだか日本人みたいな方ですね?〟

〝あぁ、モデルが取引先の会社の人だからな。多少こちら風に顔立ちは変えたけど、言動はその人を踏襲してると思う〟

〝なるほど、だから反応がそれっぽいんですね〟


 ふむふむと頷き、しげしげとシスを眺めるフレイミー。


「なんだかじっと見られると照れますねぇ」


 フレイミーの視線を受けて頬を掻きはにかむように笑うシスに、遠慮なく見ていたフレイミーは照れが移ったようにこちらも頬を書いてすみませんと謝っていた。


「フレイミー、今日はシスの能力確認のために歌を歌って貰おうと思うんだけどいいかな?」

「あ、はい。大丈夫です。

 そっか、カエデさんの代わりもするんですよね」

「あぁ。倉橋とあと俺の監視と回復の役割も兼ねるから、慎重にいくつもり」


 そうだった。ユウさんもだったんだと呟いて、どこか日本を思わせるシスを改めて見るフレイミー。いずれ倉橋も立花も居なくなってしまい、彼がその代わりを務めるのかと思ったら不安なような、ちょっと安心なような複雑な心地になっていた。

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倉橋といく立花の異世界道中(仮 うまうま @uma23

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