第178話

 翌日、予定通り立花は倉橋とエンデを送った。

 拠点に戻った立花はフレイミーと一緒に太陽の神へと続く道を確認するために海上を高速転移して中央大陸まで進んでいた。

 何気にまたゴットフリートと残されたテルミナは、またか!という顔をしていたが毒と倉橋の訓練を中止していたので、その時間を利用して書き出した回答集を立花は贈呈しておいた。

 数時間、目印の無い海上を一直線に進んでいると前方に大陸の淵が見えて初めてきていた。


〝本当に飛行機並みに早いですね〟


 北大陸と中央大陸までの距離感があるフレイミーは、一日と経たずに辿り着いた事に前世の乗り物の事を思い出していた。といっても、乗ったのは子供の頃に二回だけと少ないので、どちらかが早いかまではわからなかった。


〝単純計算だと戦闘機ぐらいだからな〟

〝……マッハって事ですか〟


 想像の上だった事にハハハと乾いた笑いを浮かべるフレイミー。

 立花はまぁまぁ便利なんだから気にしないでと流し、目的地までそのまま突き進んだ。

 地上千メートル程度の高度で移動しているので下の様子は望遠しないと確認出来ないのだが、敢えて立花はその高さを維持して飛んでいた。いわずもがなの虫食対策だ。どこからその食文化の文化圏か判然としないので、目的地だけ確認する気満々の立花だった。


〝近くまで来たから降りるよ〟


 遠目に建物が集まっている街らしきもの確認したところで、街道から離れたところへと立花は絨毯を地上へと降ろした。

 上空は寒さ対策のために結界を張って空気をコントロールしていたが、下に降りると逆に暑くてそのまま結界を維持する事にした立花。真冬の環境である北大陸の拠点からきたので空調を止めると身体を壊す予感がしていた。

 自分一人涼しいのもアレなのでフレイミーもそのままついでに結界で覆ったまま街へと近づくと、高床式の木造建築が見えてきた。


「あーフィッシャーです。太陽の神を祀っているのでここだとは思ってました。あの街の中心に伸びてる木造の塔がシンボルなんですよ」


 やっぱりなという顔で街を見るフレイミーに、立花は首を傾げた。


「釣り師?」


 釣り師フィッシャーと言うにはやや内陸にあるような気がした。


「あ、いえ。たまたまフィッシャーっていうだけで、釣り師の意味は無いです。由来はわかんないですけど」

「偶々だったか」

「たまーにあるんですよね。そういう感じの単語って。日本語は聞いた事ないですけど」

「そうなんだ」


 場所の確認が出来たので、じゃあ戻ろうかと二人で北の拠点へと戻るとゴットフリートがテーブルでひたすら紙に向かって書き続けていた。

 テルミナはと見ればキッチンの方で何かごそごそやっている。


「ただいま」

「戻りましたー」


 立花とフレイミーが声を掛けると、おーとキッチンからテルミナの返事がして、ゴットフリートは完全に思考に埋没しているのか全く反応しなかった。

 フレイミーは身体が鈍らないように見回りしてきますと立花に言って小屋を出た。

 立花も気をつけてなと軽く言って見送り、キッチンの方へと移動した。


「何をしてるんだ?」


 テルミナに近づくと、見た目はクッキー生地のようなものに砕いた木の実を入れてこねていた。


「ティルチっていう焼き菓子。固いけど日持ちするから置いとこうと思ってな。たぶんコーヒーと相性もいいと思うし」


 こねていた生地を六等分ぐらいにして棒状にするとオーブン用の天板に置いていって、予熱していたオーブンに入れた。


「これいいよな。予熱も温度管理も簡単だし、手入れも楽だし」


 文明の利器を眺めてしみじみ言うテルミナに立花は小さく笑った。その文明の利器を使いこなしているテルミナがなんだかおかしかった。


「お菓子作れるんだな」

「あー……ちょっとしたものを作ると受けるんだよ。この見た目でお菓子作って渡したらわりと好感触で」

「なるほど」


 女性関係だったかと納得する立花。


「ところでエンデと嬢ちゃんが教会に行ってる間はどうするんだ?」

「神獣を創ってその調整にかかりきりになるかな」

「お、とうとう創るのか」

「その予定だけど、どこまで完成するかちょっとわからないんだよなぁ。戻ってくるまでには完成させたいけど」


 ん?とテルミナは腕を組んでオーブンの中を覗きながら首を傾げた。


「時間がかかるのか? 今まで一瞬で創ってたろ?」

「後で調整出来るようにしてなかったからな。

 今回創るのは一発勝負にしたくないから、外観を創ってからも機能調整出来るようにしようと思ってるんだよ。後であの機能も入れとけば良かったとかって言いたくないだろ?」

「あーなるほど。そういう意味での完成ってわけね」

「あぁ。魔石も結構消費するし無駄遣い出来ないからな」

「どれぐらい消費しそうなんだっけ?」

「今あるのほぼほぼかな? 二体はまず無理だから一体だけ創る予定だけど、後回しでもいい機能は後にしちゃおうかとも思ってる」

「うわぁ……また狩ってこないとか……いや、メンバーが集まるんならそいつらにやらせればいいのか」

「そのメンバー、最初に料理と洗濯を優先して覚えてもらわないと駄目だけどな」

「そうだった」


 口をへの字にするテルミナに、ハハハと立花も笑った。

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