第4話 密会



 ライアンがトイレで席を外したのでひとりぼっちになってしまった。

 授業まで少し時間がある。

 黒板では女子たちが何かのキャラクターの絵を描いている。この手のことには疎くて全く会話ができそうにない。

 現にライアンとしか話せていない。学園生活に支障が出るだろうか。事務的な話はしてはいるんだが……これは会話ではないな。


 ふいに第二王女様の姿が視界に映る。

 ゆっくり近づいてくる。

 俺の横を通り過ぎる瞬間、早足でそのまま歩いていってしまった。

 また戻ってきた。

 俺の横の通路を行ったり来たりしている?

 心なしかそわそわしているようにみえる。

 もしかしたら俺の列の真ん中にいる女の子と話したいけど俺が邪魔で言い出せない、ってことだろうか。

 もうすぐ授業が始まるから慌てているのかもしれない。


 トイレに行くふりをして、始まるギリギリまで時間を潰すのがいいな。


「あっ………」


 俺のほうに手を伸ばしかけた王女様に気づくことなく、ライアンを追いかけるようにトイレへと向かうのだった。






 そして午前の授業が終わり、昼休み。

 カフェテリアで食事を済ませ教室に帰ってくると、男子に囲まれていた。

 端の俺の席を囲むようにして。


「ウェナム!ちょっといいか?」

「あぁ」

「昨日の魔法について聞かしてくれよ!あれどうやってやったんだ?すっげぇな!!!あんな威力の魔法をバーンって防いじまうなんてどんな手品使ったんだ?」

「ウェイドくん、ウェナムくんが困ってるよ」

「えぇっと」

「急にごめんね。僕はレノ・スティアート。こちらはウェイド・オーウェンくんだよ。」


 茶色の髪の男子がウェイド・オーウェン、黒髪の男子がレノ・スティアートか。

 スティアートに、オーウェン。伯爵家に公爵家。

 とんでもない人物たちが来たものだ。

 男爵の俺からすると緊張せずにはいられない。


「スティアート様、オーウェン様、ジーヴル・ウェナムと申します。こちらこそよろしくお願いいたします。」

「おいおい堅苦しいのはやめてくれって!俺のことはウェイドでいいぜ!」

「僕のほうからも頼むよ。緊張しちゃうからさ。レノでいいよ。」


 父さんの代から男爵になったばかりだから、そもそもウェナムの認知度は低い。

 あと父さんは貴族の集まりとかルールとか堅苦しいの苦手だったから、まともに貴族の方と交流していないのも認知度が低い原因だ。

 舞踏会とか交流会とかあるだろうによく回避できたよな。

 俺も男爵ではあるが学園入学までウェナム邸ではなく別のところで居候のようなことをやっていた。貴族の責務を全うしていない俺が言えたことではないな。

 こう言ってはなんだが知り合いが少ないのは気が楽だ。どちらかと言えば俺も貴族特有のルールとか堅苦しいのは苦手だからな。


「レノ、ウェイド、ありがとう。俺もジーヴルって呼んでくれ。」

「ありがとう。昨日からジーヴルのあの魔法が気になっていたんだよ。僕が話しかけようかどうか悩んでたらウェイドくんも行くって言ってくれてさ。あれ風壁の部分改変アレンジだよね。」

「さすがにごまかせないか」


 やはりスティアート家の人間には分かってしまうか。


「さすがにね。これくらい分からないとスティアート家にいられないから。」

「さらっと怖いこと言うなよ」

「いくら王立の学園とはいっても、部分改変なんて中等部高学年ですらできたら表彰ものだよ?」

「レノのように自由自在に数値を変えられるわけじゃない。バリアの耐久度を高めただけだ。攻撃魔法の威力を変えられはしないからな。その場しのぎだよ。」

「それができちゃったらスティアート家の面目丸つぶれだから。ジーヴルは末恐ろしいね。」

「理論的なことはよく分かんないけどすごいことは分かったぜ。ジーヴルお前おもしろいやつだな!!!!」

「そんな風に言ってもらえて光栄だよ」


 スティアート家は代々、魔法式構築のエキスパートを輩出する家系だ。

 レノの曾祖父が『魔法式細分化フラグメント』理論を発表した。それによりスティアートは世界中に名を轟かせることになった。


 魔素への感覚に優れるライアンも恐いが、魔法式の分野で隙がないレノはもっと恐いな。間違いなく魔法式設計の授業で一緒になる。俺も魔法式設計の授業を受ける予定だからな。こればっかりはバレないことを祈るしかない。

 ちなみにオーウェン家は、物体干渉を得意とする家系だ。公爵家の人間と話したことなんてないが、うまく話せているだろうか。


「うわもうこんな時間じゃねえか!!昼休み終わっちまう!俺当てられるかもしんないんだけど回避できる魔法とかないか?」

「そんな魔法はない。諦めたほうがいい。」

「あはは……無慈悲だね」


 同年代と長く話すのはずいぶんと久しぶりだ。

 こういうのもいいものだな。






 放課後俺は図書館に足を運んでいた。

 王立学園内の図書館には貴重な資料が何百と保存されている。

 俺の目当ては何十年も前に使われていた魔法の魔法式に関する文献。

 図書館にある読書スペースと勝手に呼んでいる椅子と長いテーブルのエリア。読書スペース一番奥の一番窓側が俺のお気に入りだ。

 新しい魔法式のアイディアを得られたらいいな。

 古代に使われた魔法であっても参考になることは多い。

 何と言っても先人の知恵というやつだからな。


「……あの!」

「おわっ!!」


 急に話しかけられて椅子ごと後ろへひっくり返ってしまった。

 あまりにも恥ずかしい。


「すみません!驚かせてしまいましたね」


 自分の席から立ち上がり、俺のほうに近寄ってくる。

 床に尻餅をついた俺を上から覗き込み、第2王女様は右手を差し伸べる。


「いえ。怪我はありませんので、お気になさらないでください。」


 右手を取るわけにはいかないので自力で立ち上がり、椅子を戻して再び席に座る。

 書物を読み漁っている間に第2王女様が来ていたらしい。

 いつから目の前にいたんだ。全く気がつかなかった。


 会話が止まる。再び図書館が静寂に包まれる。


「昨日はありがとうございました。助けていただかなければ重傷を負っていたかもしれません。」


 目の前に座り直した王女様が俺の目をまっすぐ見て伝えてきたのは昨日のお礼だった。


「では、お先に失礼いたしますね」


 彼女は本当にお礼を言うだけにここまで来たのか。

 ここは身分は対等だし、学園外であったとしても王族の方々を守るのは貴族の義務だ。

 第2王女様ともあろうお方が本来こうして直接お礼を言いに来る必要はない。


「………気、遣わせちゃったな」


 敬語だって俺に対して使う必要はないのだから。

 お礼なんていらない……いや、ありがとうだな。


 ………やらかした……次の機会なんてないからさっき言っておけばよかった。

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