第3話 魔法
昼食の時間を挟み、再び演習場にやってきた。
魔法実践論の次は魔法学の授業だ。
魔法学はその名の通り魔法に関する知識全般を学ぶ学問である。
一週間の学園生活の中でも魔法実践論の次に授業数が多い。
「魔法は基本魔法と固有魔法に分類されます。基本魔法のほうがよく使われると思いますので、魔法と言ったら基本魔法のことだと思ってください。魔法には火、水、風、氷、光、闇の6つの属性があります。魔物は個体によって相性のいい属性、悪い属性がありますが、それは人相手でも同じです。火には水、水には風、氷には火、光には闇、闇には光と、相手が発動する魔法を対応する属性の魔法で相殺できます。」
相反する属性の魔法を返すと魔法が相殺するという理論。実際は対抗する側の魔法の威力によるところがある。パワーでゴリ押しして対抗魔法を無効化してしまうことも可能なのだ。
といっても対人戦の基本となる。魔法を発動し、それに対して対抗魔法で応戦し、再び仕掛けるというのが基本的な流れ。
「先生、氷には対応する属性がないのでしょうか。」
「ラルグくん、いい質問ですね。そもそも氷属性に関してはあるとされているという表現が正しいです。直近百年で使用者が確認されていないのです。残されている資料では魔法が生まれた頃にごく少数ですがいることが確認されています。長い研究の中で氷には対抗魔法としての役割はないだろうということが分かっています。研究というより考察ですが信憑性は高いようですよ。なので、ないが答えになります。」
それは合っている。氷属性を扱う者が一番困っている問題なのだ。
氷には他の魔法を相殺できる機能がない。
本来なら俺もそうなる。俺の場合は例外というか反則技みたいな方法で、氷魔法による他属性魔法の無効化が可能だ。
俺にとっては氷が対抗魔法のようなもの。
よく他の氷魔法使用者にジーヴルはいいよなーなんて言われる。そんなこと言われても反応に困るけど。
悲しいことに他の属性より下に見られがちな属性である。
先生は確認されていないといったが、使える人間は情報局に取り込まれるから情報が外に出ないというのが本当の理由。
人数が少ないので情報局の俺がすぐ特定されてしまうという理由もある。
通信室にはいつも迷惑をかけていて申し訳ない。本当に。
表だって氷魔法が使えないから風魔法を使うしかないというのが最近の悩みごとだ。
「貴重なことをお聞きできました。ありがとうございます。」
ラルグ様は頭を下げながらも、ニヤついた表情がおさえられていない。
ラルグ様は今日も得点稼ぎに忙しい様子。
「ではせっかく演習場に来ているので実際にやってみましょう。ペアを作って対抗魔法を意識して発動してみてください。くれぐれも威力には気をつけるように!」
男子連中はウキウキだな。
今にも派手なのを発動したそうだ。
「ジーヴルやろうぜ!」
「ちょうど頼みたかったところだ。よろしく」
「ジーヴルは風しか使えないんだっけか」
「だから水だけにしてくれると助かる」
「おうよ!」
「
ライアンは槍状の水を射出した。
少し右にずれているがこれくらいなら他のペアに当たる心配はない。
「
ライアンの水槍の軌道にぴったり重なるように展開する。
バンとやや大きい音を立ててお互いの魔法が消滅した。
「相変わらずの魔法制御だよな」
「毎回褒めてくれるな」
「だって苦手なら風壁とか他にも選択肢はあっただろ?」
「……俺には魔法制御くらいしかないんだよ」
「そっか」
「なんだよ。ニヤニヤ笑って」
「なんでもないよ!」
「俺ならこれくらいできる!ちゃんと対抗できるんだろうな?」
「え、ええ!やらせてください!」
ラルグ様がまた何かしようとしてるのか。
相手の表情がこわばっているな。あれはダメそうな気がする。
技量がというより相手がラルグ様だから緊張で体の動きが鈍い。
「あっバカ!!やりやがった」
ライアンが思わず口から本音を漏らす。
放たれた魔法は、炎槍。
水槍の火バージョンなので魔法自体は中級である。槍が1本ならな。
ラルグ様は手元が狂ったのか意図してかは分からないが、炎槍を10本も展開している。
発動速度が相変わらず早すぎる。
この規模は周囲のペアに着弾する危険がある。
さすがにこの本数は想定できてなかったか、相手の男子も魔法を見つめているだけで怯えてしまっている。
炎槍が進む軌道の先には、第二王女様と王女様のお友達4、5人。
打ち合いを終えて話しているが、王女様は背中を向いているため気づいていない。
1人のお友達が気づいて魔法を発動しようとするがその数に驚いて、発動を躊躇する。
「ライアン、後は頼んだ」
「ちょっと待て!ジーヴル!!」
王女様のもとへ駆け出す。
いつもの実践とは違う。ここから加速して…
ダメだ複数人だし周りにもペアが集まっている。縦横無尽に駆け回れない。
『螺旋弾』を使えば撃ち落とせるがこんな表立ったところでは使えない。
一つしかないな。ライアンが言ったあれだ。
厄介なことに威力がとんでもなく高く設定されてる。
対抗魔法でもないから強引に魔力量で押し切るしかない。
王女様とお友達を覆うドーム状のバリアを展開。
できるだけ近づくから射程はいらない。大きさもギリギリ覆えるくらいの大きさまで削る。
もともと人並みの量のマナを振り絞り、バリアの強化に当てる。
俺はラルグ様のように素早く魔法は発動できない。
3、2、1、今。
「
炎槍が風壁に着弾する。
二つの魔法がぶつかり激しい爆発音と暴風が辺りを支配する。
他のクラスメイトもさすがに異常事態に気づいたようだ。
王女様は、はっとした様子でこちらを見ている。
やっと自分の置かれている状況に気づいたらしい。
そろそろ体が重い……頭が痛くなってきた。
限界か、魔力欠乏だ。
もうちょっともってくれ。
それは数秒もしないうちに空中で消滅した。
「――――」
土臭い匂いがする。
誰かの声?
それと………あったかい?
ライアンだろうか。あとはあいつになんとかしてもらおう……
「………保健室か」
夕焼けが眩しくて起きてしまった。
いつまでも寝ていられないのでちょうどよかった。
あのまま気絶した俺は演習場から本棟の保健室へと移動していた。
ライアンに運ばせてしまったな。
あとで礼を言っておこう。
「あ。魔法学で今日の授業終わりだった」
それならもう帰ってしまってるだろうな。
お礼は明日だな。
「っと」
布団の上に置いてあるのは――紅茶?
「ティーバッグ50杯分」
一人でそんなに飲まないんだけど!?
これを置いてくれたのは誰だ?
保健室の先生ではないだろうから、ライアンか?
「ライアンに聞いてみるか」
ライアンでもライアンじゃなくてもおもしろいな。
まさかこう来るとはな。
もしかしたら俺がなんて言うか楽しみにしている、なんて可能性はある。
だと思ったんだが…
「は?なにそれ。俺はジーヴルを保健室まで連れてきてそのまま同好会へ行ったぞ。」
違うのか。
ライアンって同好会入ってたんだな。
俺は放課後は忙しいから入ってないんだよ………うん。
じゃあいったい誰がくれたんだ?
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