少し先の未来であり、また世代ごとに繰り返されてきた、もうひとつの空

 新型のウイルス性感染症がはびこる未来、生活の舞台の多くを電脳空間上に移した子供たちの、将来の夢と日常のお話。
 今より少し先の未来、具体的には2040年頃の世界を描いたSFです。それもおそらくはごく普通の家庭の、きっとなんてことのない日常の物語。主人公は小学生の男子で、作中では宿題をこなしたり友達とゲームで遊んだりと、特段不思議なことや危険なことがあるわけではありません(解釈次第というか、物語としてはなくもないんですけど)。描かれているのがごく普通の生活の様子であればこそ、わたしたちの生きる現代との差異が浮き彫りになる、その〝皮膚感覚の違い〟で描き出されるあれこれが非常に楽しいお話でした。というか、その感覚の違いの使い方が気持ちいい。
 いかにも子供らしい生活の間に、しれっと顔を出す大小さまざまな違い。感染症対策のための生活規範や、発達した科学技術など。また現代からの歴史そのものさえ描写されており、つまりは一種の『if』というか、「ありうる未来の形」のひとつを想像するという、SFならではの楽しみが存分に提供されています。
 ただ、それ以上に好きなのが、それらが「生まれた時から身の回りにある当たり前」として描かれていること。加えて、その上での主人公の両親の存在です。彼らは感染症が流行する前の世界を経験しており、つまり親世代の感覚としての日常とは、そのまま作品外の現代を生きる私たちに通じるものであること。世代によって違う「当たり前」の感覚を、この作品がどう描き、そしてどういう結論に着地させるのか。ネタバレするにはもったいないので伏せますけれど、この辺が本当に最高でした。決して腐らず、ただ普通を生きる子供たちの頼もしさ。それがただの無知ゆえの楽天ではなく、本当に「彼らには彼らの空があるのだ」と伝えてくれるところ。
 勝手な同情や憐憫も、また仮に真逆の嫉妬や羨望であっても。なんであれ他所からの押し付けになってしまえば、それはただの野暮でしかない、というような。きっと時代を問わず存在していたであろう、世代間のギャップやすれ違いのようなものを、でも力強く前向きな形で描き出してみせる、爽快感に溢れた作品でした。