跡継ぎ争いで敗れた王子と幸せになる話

黒うさぎ

跡継ぎ争いで敗れた王子と幸せになる話

 ルマーニ王国では、穏健派である第一王子と、過激派である第二王子との間で、跡継ぎ争いが繰り広げられていた。


 第一王子であるユリスは、産業の発展に力を入れ、労働環境を整えることを掲げており、民の味方として人気があった。


 一方で、第二王子であるリュースは、領地拡大を掲げており、他国への侵攻をするために軍備の拡大を図っていた。


 均衡を保っていた二つの勢力だったが、ある日ついにその均衡は崩れ去った。

 日和見を決めていた公爵家が、リュース派になる旨を表明したのだ。


 王国における、公爵家の影響力は大きい。

 瞬く間にリュース派の勢力は膨らみ、ユリスが太刀打ちすることはできなかった。

 そして、国王から正式に、次期国王としてリュースを指名するという発表がなされたことで、跡継ぎ争いは決着した。


 ユリスは己の力不足を嘆いた。

 己を支持してくれていた国民に申し訳なかった。

 だが、いくら嘆いたところで、現実が変わることはない。


 跡継ぎ争いに敗れたユリスは、国王から廃嫡を言い渡され、身につけていたものすら剥奪され、ボロ一枚の姿で王城から追放されてしまった。


 あてもなく、夜の喧騒に包まれた街中をさまよい歩く。

 王子だったとは思えないような、みすぼらしい姿。

 すれ違う人々の、汚いものを見るような視線が刺さる。


(民のためを思って頑張ってきたというのに、どうしてそんな目を私に向けるのだっ……!)


 わかっている。

 国民に罪はない。

 今の見た目では、王子だとわかるものはいないだろう。

 きっと、浮浪者くらいに思われているに違いない。

 だから、この感情は八つ当たりに過ぎないのだが、心の内で毒を吐くくらいは許されるだろう。


 空腹で思考が働かない。

 王城を追い出される直前まで軟禁されており、食事もほとんどさせてもらえていなかった。


 自分はここで終わってしまうのだろうか。

 ボロに身を包み、国民の刺すような視線に晒されながら。


 膝から力が抜ける。

 どうにか路地裏に転がり込むと、壁を背にして座り込んだ。


「無様だなぁ……」


 今の自分を思い、自嘲する。


 全てを諦め、目を閉じようとしたそのときだった。


「うちの店の裏で、なにやってるんだい?」


 彼女に出会ったのは。


 ◇


 店じまいをして、ゴミを捨てようとエルサは裏口から店を出た。

 まだ、食器洗いに、明日の仕込みとやらなくてはならないことはたくさんある。


 人を雇いたいのは山々だが、残念ながらそんな余裕はない。

 どこかに住み込みで働いてくれる労働力がいればいいんだけど。


 そんなことを考えながら、暗い路地裏に目をやると、そこには一人の男が座り込んでいた。


「うちの店の裏で、なにやってるんだい?」


 スラムの人間だろうか?

 この当たりは平民街でも、まだまだ王都の中心に近い立地にあるので、スラムの人間が迷い混むのは珍しい。

 スラムでの争いにでも敗れて、居場所がなくなったのだろうか。


 可愛そうだとは思うが、ここは飲食店だ。

 路地裏とはいえ、スラムの人間が転がっているのは、あまりイメージがよくない。


「そんなところにいられると、変な噂が立つじゃないか。

 どこか、別のところにいってくれ」


 相手は男だ。

 声をかけることに恐怖心がないわけではなかったが、エルサにはこの店を守るという使命がある。

 躊躇ってなどいられない。


 エルサの声に顔を上げた男は、なにかをいおうと口を開きかけて、止めた。


「……悪かった」


 それだけいうと、壁にもたれるようにしながら、立ち去ろうと歩き出した。


 後味は悪いが、生きていくためには仕方のないことだ。


 そのときだった。


 ぐぅぅぅ


 それは夜の喧騒にも負けないほど、大きな音を立てた。


「あんた、腹が減っているのかい?」


 ただの気まぐれだった。

 こんなスラムの男を助けたところで、エルサにメリットはない。

 むしろ、デメリットにすらなりかねない。


 だが、どういうわけか、そのまま見送ることができなかった。


「うちに入りな。

 残り物でよかったらタダで食わせてやるよ」


 エルサはゴミを捨てると、店の中へと入っていく。


「……ありがとう」


 背中に聞こえた声に、少しだけ胸が温かくなった。


 ◇


 男を座らせると、余り物を温め直して、皿に盛りつけていく。

 どうせ一人では処理しきれないような量だ。

 捨てるよりは、あの男に食わせた方がマシだろう。


「ほら、好きなだけ食いな」


 初めは躊躇っていた様子だった男だが、スプーン手に取りスープを口に運んだ。


「っ!

 ……おいしい」


 それから男は無言で、ただひたすらに食べ続けた。

 それはもう、みている方が気持ちよくなるほどの食べっぷりだった。


 エルサは改めて、男のことをよくみる。

 元は綺麗だっただろう、長い金髪はすっかりくすんでおり、頬はこけてしまっている。

 みにまとっているのはボロ一枚で、金をもっているようには見えない。

 金を取る気はなかったが、余り物とはいえ、料理を提供してなにも見返りがないというのは、飲食店を経営している身としては久しぶりだった。


 それにしてもこの男、どこかでみたことあるような……。


「ふぅ。

 おいしかった、ありがとう」


 男の言葉で我に返る。

 それなりに量があったはずだが、皿はすっかり綺麗になっていた。


「そうかい、そりゃあよかった。

 食ったんならとっとと出ていきな」


「……ああ、そうだな。

 世話になった。

 この恩は忘れない」


 男は深く頭を下げると、店の裏口へと向かった。

 寂寥感の漂う背中。

 そんなものを見せられて、黙っていられるエルサではなかった。


「ちょっと待ちな」


 エルサの声に、男が振り向く。


「あんた、帰る場所はあるのかい?」


「それは……」


 ないのだろう。

 そのみすぼらしい姿をみれば、エルサでもわかる。


「うちで働く気はあるかい?」


 その言葉は自然と口から出ていた。


「えっ?」


「うちにはあんまり金がない。

 だから、給料はそんなに出せないが、その代わり衣食住は保障してやる。

 つまり、住み込みで働いてくれってことだ」


 人手が足りていないのは事実だが、それはスラムの人間を引っ張りこまなくてはならないほど、切迫したものではない。

 出会ったばかりのこの男にどうして手を差し伸ばそうとしているのか。

 それは、エルサ自身にもわからなかった。


「どうだ、やるかい?」


 男の綺麗な、エメラルドの瞳をまっすぐ見つめながら問う。


 男はしばらく考え込んでいたようだったが、気持ちが固まったのか、確かな声で答えた。


「私をこの店で雇ってくれ」


「あんた、名前は?」


「ユリ……、いや、ユーリだ」


 こうして、エルサの店に新たな従業員としてユーリが加わった。


 ◇


 ユーリを雇うにあたって、何をやらせるかいろいろ試したが、取りあえずホールを任せることにした。

 ユーリは料理がからっきしダメだったので、厨房を任せるわけにもいかなかったから仕方ない。


 ホールを担当するにあたって、ユーリはその長い髪を切った。

 心境の変化があったのか、他に理由があるのか、エルサにはわからないが追求はしなかった。


 服は父が使っていたものを貸し与えた。

 細身のユーリには少し大きかったが、しばらくはそれで我慢してもらう。

 ユーリの服は今度の休みにでも買いにいくとしよう。


「エルサ、三番卓にランチ二つ」


「はいよ!」


 ユーリに視線は向けず、声だけで答える。


 料理はからっきしだったユーリだが、ホールの仕事を覚えるのは非常に早かった。

 そんな難しい仕事後あるわけではないが、しばらくはエルサの付き添いが必要だと思っていたので、嬉しい誤算だった。


 今まで、エルサが一人で注文も料理も行っていたので、ユーリの存在は非常にありがたかった。

 料理を提供するまでの時間も短くなるので、客の回転率もいつも以上だ。

 終わってみれば、いつもより稼ぎがよかったほどだ。


「お疲れさん。

 あたしは明日の仕込みとかいろいろあるから、あんたは先に夕飯にしな。

 まあ、夕飯といっても今日の残りだけどね」


「ありがとう。

 ……エルサも一緒に食べないかい?

 私も料理はまだできないが、他のことなら手伝える」


「そうかい?

 なら、私も夕飯にしようか」


 二人分の料理を用意すると、客のいなくなったホールのテーブルにつく。

 こうして、誰かと料理を食べるなんて、いつ以来だろうか。

 そんな考えが、ふと脳裏を過る。


「エルサはずっとこの店を、一人で切り盛りしていたのかい?」


「ああ、そうだよ。

 元は両親の店だったんだが、ある日出先で両親が盗賊に襲われてね。

 残されたあたしは、他にあてがあるわけでもないし、生きていくにはこの店を潰すわけにはいかなかったのさ」


「……それは、すまない」


「もう何年も前の話さ。

 気にしなくていいよ」


 静かになった店内に、食器の音だけが響く。


「……エルサは今、幸せかい?」


「どうだろうね。

 生きていくのに必死で、そんなこと考えたこともなかった」


「なら、私がエルサを幸せにしよう。

 エルサには助けてもらった恩がある」


 突然のユーリの言葉にエルサは目を見開いた。


「ばっ、何をいってるんだい!

 路地裏で倒れていた分際で生意気な。

 私を幸せにしたいんだったら、まずは料理の一つでもできるようになるんだね」


「そうだね」


 そっぽを向くエルサ。

 ユーリは赤く染まったエルサの頬をみながら微笑んだ。


 ◇


 ユーリが来てから、半年ほどの時間が経った。

 初めは新しい従業員が入ったということで、常連客からは注目の対象だったユーリも、今ではすっかり馴染んでいる。


「ユーリ!

 麦酒のおかわり頼む!」


「ヘインズ……。

 お前この後、仕事だろう。

 街を守る兵士が、そんなんでいいのか?」


「うっ……。

 相変わらずユーリは厳しいな。

 じゃあ、果実水でいいや」


「了解。

 エルサ、ヘインズに果実水おかわり!」


「はいよ!」


 常連客とのコミュニケーションも上々なようで、エルサだけでやっていた頃には来なかったような客層も入るようになっていた。


「お前もすっかりこの店の店員だな」


「まあ、まだ半年だがな」


「……ところでエルサちゃんとはどこまでいった?」


「なっ!

 変なことをいうな!

 聞こえたらどうする!」


「聞こえてるよ、バカども」


 エルサの声に、男二人が振り向く。

 その顔がひきつっているのは、気のせいではないだろう。


「ほら、果実水だよ。

 ユーリ、客とのおしゃべりも結構だが、しっかり働きな」


「り、了解です!」


 逃げるように、他のテーブルへ注文を取りに行くユーリ。


「……エルサちゃん的にはどうなの?

 ユーリのこと」


「どうもこうもないよ。

 ユーリは帰る場所がないからうちにいるだけ。

 帰る場所ができたら、そっちに行くさ」


「ふーん。

 じゃあ、あれは気にならないの?

 また女の子に口説かれているみたいだけど」


 ヘインズの指差す方をみると、ユーリが若い女性客に言い寄られていた。

 エルサの店は、どちらかというと肉体労働者を対象にした大衆食堂であり、量を多めに提供している。

 そのため、若い女性客というのは少なかったのだが、ユーリが働きはじめてから、そういった客が増え始めた。

 確かに、ユーリの顔はいい。

 口説きたくなるのもわからなくない。


「まったく、あいつはすぐサボるんだから」


 エルサは肩を竦めながらユーリの元に向かう。


「二人とも、素直じゃないねぇ」


 そんなヘインズの呟きは、喧騒のなかに消えていった。


 ◇


 それは突然の出来事だった。


 エルサが店を開こうと、表の扉を開けると、そこには二人の兵士がいた。

 全身鎧に王家の紋章をいれているということは、王家の近衛兵だろうか。


「客……、じゃあないようだね。

 うちになんのようだい?」


「この店に、ユリス元王子を匿っているという噂を聞いた」


「王子様だぁ?

 そんなのいるわけないじゃないか」


「半年ほど前から金髪の男を雇っているそうだな。

 その男を連れてこい」


「ユーリはスラムで見つけた男だよ。

 王子様じゃあない。

 ほら、客じゃないなら帰った、帰った。

 店の邪魔だよ」


「店の中をみさせてもらうぞ」


「こら、ちょっと!

 うっ……」


 店に押し入ろうとする兵士を抑えようとしたエルサだったが、簡単に振り払われてしまう。


(まずい……。

 このままだとユーリが見つかっちまう)


 どうにかしてユーリを逃がさないと。

 だが、無情にもそんな余裕はなかった。


「エルサッ!」


 騒ぎ声が聞こえていたのだろう。

 店の奥からユーリが出てきてしまった。


 駆け寄ってきたユーリが、倒れているエルサを抱き起こす。


「大丈夫か?」


「なんで出てきたんだい!

 出てきちゃまずいことくらい、あんたならすぐ気がついただろう!」


「エルサを置いて逃げられるわけがないだろう!」


 ユーリはゆっくりと立ち上がると、兵士たちを睨み付けた。


「貴様らの目的は私だろう!」


「本当に生きているとは、な。

 リュース殿下の命により、貴様を捕縛する」


「なっ!

 勝手なことをいってるんじゃないよ!

 ユーリはうちの従業員だよ。

 連れてなんていかせるもんかい!」


 ユーリを庇うように兵士の前に立つ。


 怖い。

 自分でもバカな行動だと思う。

 武装した兵士の前に立っているのだ。

 それも、次期国王の命を受けてきた兵士だ。

 下手したら、殺されてしまうかもしれない。


 だが、このままユーリをいかせてしまう方が、何倍も怖かった。


「どけ、女!

 邪魔をするなら、この場で斬り捨てるぞ!」


「やれるもんならやってみな!」


 ああ、なんて愚かなことをしているのだろうか。

 こんなことをしても、なんの意味もないというのに。

 どうせこの兵士たちは、エルサを殺した後にユーリを連れていくのだろう。

 そうしたら、エルサは無駄死に、だ。


 それくらいのことは、エルサにもわかっている。

 だが、体が勝手に動いてしまった。

 ユーリに迫る未来を受け入れることだけはできなかった。


(あたしはここで死ぬのか……)


 兵士が振り下ろす剣が迫ってくる。

 その光景がゆっくり見えるのは、もうすぐ死んでしまうからだろうか。


 両親を失ってから、なんのために生きているのかもわからないまま、生きるためだけに働いてきた。


 だが、ユーリが来てから、エルサの生活は色づいていった。

 二人でお店を回し、二人でご飯を食べ。

 そんな当たり前のことが、いつの間にかエルサにとって、なくてはならないものになっていた。


 あまりに短い間ではあったが、確かにエルサにとって幸せな時間だった。


 その幸せに、終わりの時が来た。

 それだけなのだろう。


「止めろ!!」


 ユーリの怒号に、エルサに迫っていた剣が止まった。


「この女は関係ない。

 早く私を連行しろ」


 兵士に近寄ったユーリは、その身を差し出した。


「ユーリ!」


「エルサ……。

 今までありがとう。

 君のお陰で、最後に楽しい時間を過ごせた」


 それだけいうと、ユーリは後ろを向いた。

 ユーリの背中が遠ざかっていく。


 このまま、お別れなのか。

 そんなのあんまりだろう。


 ユーリのいない世界なんて、生きている意味がない。


 エルサは厨房へと駆け出すと、鍋を掴んだ。

 そして、店の外に出ると、兵士に向かって熱々のスープをぶっかけた。


「ギャァァァァァッ!」


 兵士たちの悲鳴が通りに響く。

 全身鎧の間に入り込んだ熱々のスープは、容赦なくその肌を焼いているだろう。

 慌てて鎧を脱ごうとしているが、それを待ってやる理由はない。


「ユーリ、逃げるよ!」


 エルサはユーリの手を引っ張ると、店の中に駆け込み、床下に隠していたバッグを掴んだ。


「いつかあんたが出ていくときに、退職金代わりに渡してやろうと思ってたんだが、まさかこんなことになるとはねぇ」


 リュックにはいくらかの金と食料が入っている。

 二人だと心もとないが、ないよりはマシだろう。


「エルサ、どうしてこんな……」


「あんた前にいっただろう。

 あたしを幸せにするって。

 男なら途中で諦めるんじゃないよ!」


 ユーリはエルサの言葉にハッとした。


「そう、だな。

 そうだった。

 私はエルサを幸せにしなきゃいけなかったな」


「そうさ。

 私を幸せにするのは簡単じゃあないよ」


「それは頑張らなきゃいけないな。

 いこう!」


 ユーリに手を引かれながら、裏通りを走る。

 騒ぎが広がるより早く、王都をでなければならない。


 建物の影から、そっと王都を囲う城壁にある関門の様子をうかがう。


「まだここまで手は広がっていないみたいだな」


 そっと通りに出ると、門を通る人混みに紛れる。


 関門は常に開かれており、兵士はいるが、入出の確認はしていない。

 このまま外に出てしまえば、すぐに見つかるようなことはないだろう。


 じっとりとした汗が伝う。

 無意識に、ユーリの手を握る手に力が入る。


「ユーリとエルサちゃんじゃないか」


 ドキッとした。


 声のする方をみると、ヘインズが手を振りながら近づいてくる。

 どうする?

 逃げるべきか?

 いや、そんなことをしたら、不審に思われる。


「どうした、こんな時間にこんなところで。

 今日は休みの日じゃなかったよな」


「それはだ、な……」


 ユーリもどう答えていいのか、言葉に詰まってしまう。

 こんなことしている間にも、追手が来るかもしれない。

 焦りだけが、鼓動を早くする。


 二人のただならぬ雰囲気を感じたのだろうか。

 ヘインズの表情が変わった。


「訳ありか」


 まずい。

 ヘインズは近衛兵ではないが、王国の兵士には違いない。

 このまま不審に思われて、取り調べでも受ける流れになったら、そのまま捕まってしまう。


「そういえば、今日は朝から飲んできたんだよな」


「え?」


 ヘインズは何をいっているんだろうか。


「なんだか酔いが酷いな。

 誰かと話した気はするが、誰とあったか忘れちまいそうだ」


「ヘインズ、お前……」


「なんだか知らねぇが、お前らはここを通っていないってことにしといてやる」


「!

 感謝する!」


「今度会ったら奢れよ。

 ……後、エルサちゃんを幸せにしろよ」


「ああ、必ず」


「エルサちゃん、ユーリを頼むぞ」


「ええ」


「ほら、いった、いった。

 俺は仕事で忙しいからな」


 後ろ手を降ながら去っていくヘインズに心の中で頭を下げると、二人は王都を飛び出した。


 ◇


「こうして逃げ延びた二人は、遠くの街で幸せに暮らしましたと、さ。

 めでたし、めでたし」


 パチパチパチパチ


 娘たちの可愛らしい拍手に、頬を緩める。


「お母さん、もっかい読んで!」


「もっかい!

 もっかい!」


「また明日ね。

 ほら、そろそろお父さんが帰ってくるよ」


 まるで予言したかのように、家のドアが開く音がする。


「ただいま」


「「お父さんだ!」」


 バタバタとかけていく娘たちを追って、エルサは愛する夫を出迎えにいった。

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